第33話「ショッピング」
「歌ったわね!」
あの後、黒川は結局二時間近く一人で歌い続けた。
どうやら一人でカラオケに来ているというのは伊達ではなかったようだ。
よく一人で二時間も歌い続けれたよなコイツ……。
「次は何処に行くんだ?」
「次はショッピングよ!」
なるほど、ショッピングか……確かに、この先には大型のショッピングモールがあるから大抵の物は探せば買えるだろう。
「それで、何を買う予定なんだ?」
「決まってないわ」
「……は?」
買うものが決まってないのにショッピングとか、それただの無駄遣いじゃないの?
「別にショッピングだからって買う必要はないじゃない? 私はただ友達と様々なお店を見ながら、特に買う気もない商品についてあれこれ無駄話がしたいだけだもの」
「それって、ただの冷やかしって言うんじゃないか……?」
「だって、漫画だとよく友達同士で買い物とかしているじゃない? 私はあれがしたいのよ!」
「えぇ~、何それぇ……」
まぁ、俺はいいけどな……でも、お店からしたらマジで嫌な客だな。
そして、俺達は近くのショッピングモールに入り、黒川の要望通り『友達同士での買い物』とやらを楽しもうとしたのだが……。
「おい、黒川……」
「ちょっと、話しかけないでくれるかしら? 今真剣にどの小説を買うか吟味しているのよ」
「あ、はい……」
あの後、ショッピングモールの中に入った俺達だが、黒川は洋服や家電、カフェなどのお店のほとんどを軽く見ただけで通り過ぎてしまい最終的に入ったお店はショッピングモールの中にひっそりとたたずむ本屋のスペースだった。
しかも、黒川は俺の存在などまるっきり無視して目の前の本棚に集中しているありさまだ。
……いや、これ俺が一緒にいる必要ないよね?
「黒川、俺ちょっと店の外にいるから終わったら声かけてくれ」
「ええ、分かったわ……」
とりあえず、俺がそばにいる必要も無さそうなので、俺はそう断りを入れると店の外に出てトイレへと駆け込んだ。
「今まで女子と休日に出かける経験なんて無かったから知らなかったけど、こういうのってトイレに行くタイミング全然ないのな……」
行こうと思ったらカラオケの時点で行けたけど、女子の前で『ちょっと、トイレ行ってくる』ってメッチャ言いづらいのな。
――って、別にカッコつけているわけでは無いんだが……そもそも、俺が何で黒川相手にカッコつけないといけないんだ?
でも、だからと言って『ちょっと、お花を摘んできますわ』とか男の俺が言っても変だろ?
だから、このタイミングまでトイレを我慢してたってわけだ。
「ふぅ~、スッキリした……ん?」
そんなことを考えながら、ゆっくりとトイレから戻ると、本屋の前で泣きそうな顔をしながらウロウロしている黒川と目が合った。
「あ、あ……あぁああああ~! ちょっと!? 今まで一体何処にいたのよ!?」
「え……いや、別に……トイレだけど?」
あ、ヤバ……トイレ行くって言うのが恥ずかしくて黙って行ったのにトイレ行ってたってバラしちゃったよ。
「なら、ちゃんと『トイレに行く』って言いなさいよね!?」
「いや……だから、ちゃんと『ちょっと店の外にいる』って言ったんだけど……」
「それじゃ分からないでしょっ! もしかして、私が一人で楽しそうにしているから呆れて帰っちゃったのかと思ったじゃない……」
え? もしかして、それで泣きそうになっていたの?
何だ……コイツ、意外と可愛いところあるじゃん……
「それは……なんかごめん」
「べ、別に……私の勘違いだから謝らなくていいわよ……」
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