第三章【友達】

第31話「契約」


「遅……」


 翌日、俺は駅前の広場である人物を待っていた。

 その相手はもちろん――


「待ったかしら?」

「あぁ、待ったね」


 そう、黒川だ。

 黒川は先に待ち合わせ場所に来ていた俺を見た後『なんか今の友達っぽいわね!』とか意味不明なことを言っていた。

 それより、待ち合わせ時間に十分遅れたのを謝ってくれませんかね……?


「もう! こういう時は『今来たところ』って言うのが友達じゃないのかしら?」

「いや、こういう時にちゃんと『遅い』って言えるのが友達だろ……」


 あとそれ『友達』ってよりも……まぁ、それはツッコまなくていいか。


「それに、今日の俺は黒川の友達の練習相手なんだろ? なら、お世辞を言う友達より、はっきりと本音を言う友達の方が練習相手としてはいいだろ?」

「ふむ、そうね……。確かに、こんな時に気を使う相手よりは思ったことをはっきりと言ってくれる相手の方が友達としては長く付き合えそうよね」


 そう、あの転校を打ち明けた日から、俺は黒川の友達の『練習相手』となることになった。

 今回の待ち合わせもその『友達の練習相手』の一環だ。

 あの日、黒川は『責任』として俺にある要求をした。


『転校するまでの一ヵ月、私が友達を作る練習相手になりなさい! つまり、貴方は私の架空の友達として……プー太郎さん二号になるのよ!』


 それが黒川が俺に要求した内容だった。

 いや、プー太郎さん二号は無いだろ……。


「それで、休日に駅で待ち合わせたわけだが……今日、俺は何をすればいいんだ?」

「私友達ができたら休日に一緒に遊ぶのが夢だったのよ! だから、貴方は私の友達役としてカラオケとかショッピングとかいつも私が『一人で』してたことを一緒に楽しんでもらうわ!」


 そういうわけで、今回は黒川の要望により一緒に遊ぶことになったのだ。

 ……もちろん、練習相手としてな?



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