第30話「責任」
「そんな過去があったのね……」
俺の話を聞き終わった黒川の反応はそんなものだった。
まぁ、いきなりこんな昔話をされてもどう反応していいか分からないよな。
「だから、俺に友達はいらないんだ」
どんな綺麗ごとを言っても『友達』なんて関係は簡単に薄れてしまう。所詮、友達なんて身近な距離にいる相手と慣れ合うだけの『関係』でしかない。
だとしたら、俺にそんな薄っぺらいだけの『関係』は必要ない。
「友達なんて作るだけ無駄だ」
どうせ、友達を作っても俺はいなくなってしまう。
なら、友達なんて作らない方が良い。
「その方が俺も相手も傷つかないですむだろ?」
「そんなの……」
だから、俺は黒川の『友達』にはならないつもりだった。
なのに、気づいたら演劇部なんかに入部して劇の準備までして……気をつけていたはずだ。
黒川は友達がいないから下手に優しくすると、俺に依存しかねない。
そんな状態で転校なんてことになったら、またあの小学校の時みたいに友達を傷つけることになってしまう。
だから、彼女の『友達』にだけはならないと決めていたのに……。
「ズルいわよ……」
「……ごめん」
こうなるから、仲良くなんてなるべきじゃ――、
「私以外に、仲の良い女の子がいたなんて!」
「そこ!?」
え、黒川さん? 怒るとこそのなの!?
いや、もっと……なんか別に怒る所があるんじゃないですかね……?
「えっと、俺の話の方は……」
「もちろん、納得はできないわよ! この私を置いて転校しちゃうなんて……」
どうやら、転校するという話もちゃんと聞いてくれていたらしい。
なら、後はこれ以上深く関わらない方がお互いのためだろう。
「それで、いつ転校するのよ」
「来年、正しくはクリスマスの後にはすぐに引っ越すと思う」
「……場所は?」
「オーストラリア」
「え? か、海外……」
「小学校二年の時はアメリカ、中学の一年間は香港だったよ」
別に、海外にいきなり引っ越すなんて珍しいことじゃない。
中一の一年間は香港にいたし、中二では大阪に引っ越した。
一体、家の親がどんな仕事の都合でこんなに何回も引っ越ししているのか謎だが、そんなの小学生の時から毎年の恒例のようになっていた俺にとっては既にどうでもいいことだった。
「そう言えば、貴方って英語の成績だけは良かったわね……」
「まぁ、日常会話くらいの英語はできたからな」
でも、転校しまくったおかげで習う授業のレベルが毎年変わるから基本的な学力は壊滅的に身につかなかったけどな。英語が得意なのも小二の時に少し覚えただけだからだし……
「クリスマスの後って……幼稚園の演劇はどうするのよ」
「大丈夫。それは責任を持ってちゃんとやり届ける……」
日程的にはギリギリだけど、クリスマス会の日まではこっちにいられる予定だ。多分、翌日にはいなくなると思うが……それでも、最後に黒川の演劇を見てから行こうと思っている。
「元々、俺が演劇部に入らなかったら良かったんだよ」
そうすれば演劇部が再活動することもなかったし、幼稚園のクリスマス会の話も来なかったはずだ。
俺が演劇部に入ったから黒川に無駄な期待をさせてしまった。俺が演劇部に入ったからクリスマス会の演劇なんてものを黒川にやらせることになってしまった。
なら、それを見届けてから行くのが俺の『責任』というものだろう。
「そうね……。なら『責任』をとってもらいましょうか?」
「だから、ちゃんとクリスマス会の演劇までは……」
「それだけじゃ足りないわね。ここまで、私の気持ちをもてあそんでおいて勝手に転校するとか言うんだもの、それ相応の責任を取る義務が貴方にはあるわ!」
「いや、もてあそんだって……」
そんな人をどっかのチャラ男みたいに言わないでくれるかな?
「でも、私に無駄な期待をさせたのは事実でしょ?」
「それは……」
確かに、それを言われると何も言い返せないな。
「分かったよ。それで、俺は他にどんな責任を取れば良いんだ? 因みに『友達になれ』なんて言うのは無しだからな」
「それくらい分かっているわよ。それに、直ぐ転校しちゃうんだから意味無いでしょ」
「だな……」
でも、それ以外の要望ならできる限り応えるつもりだ
それで黒川が救われるなら、転校するまでの残り一ヵ月を黒川のために使っても――
「だから、責任を取って……貴方は今日から私のプー太郎さんよ!」
「……は?」
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