2020/12/23 自走地雷ロリババア

「この状況、一体どうするんだ?」

 使われていないコテージに入り込んだ俺は汚れた窓から外界を覗く。

 深夜の森、鬱蒼と茂る木々の合間に、無数の人影。

 それが、十人十色、老若男女であればキャンプに来ているファミリーであるとか言い訳が利くものを。


 推定身長一五〇センチメートル。

 ロケーションに似付かわしくないレオタード。

 中腰で動く不気味な姿。

 無表情な面構えの少女。


 それがコピー&ペーストを重ねた悪質なコラージュのように並んでる。

 これが恐怖体験でなければ、なんなのだ。

 

 数十分前、山奥に違法稼働しているロボット工場があると聞いて、俺は上司から潜入するよう送り込まれた。

 そこで製造されていたのは、少女型の自走地雷――爆弾搭載ロボットだった。

 俺はその情報を持ち帰ろうとしたが、ドジを踏んで潜入がバレた。

 自走地雷の製造は人道的配慮に基づき条約で禁止されており、製造者の重罰を免れない。

 だから、彼らは必死で発覚をもみ消そうとしてきた。その場に俺しかいないことを良いことに、稼働可能な自走地雷すべてに火を入れられ、一斉に襲い掛かってきた。


 辛くも工場から脱出し、なんとか身を隠せる場所を見つけたはいいが、それこそが終着点。

 周囲は木以外に遮蔽物がなく、火器を搭載している地雷の大群相手には到底逃げ切れる気がしない。八つ裂きにされて、野犬の餌だ。

「と、まぁ生身のお主だけなら、そんなところだろうて」

 俺と一緒に窓から外に目を遣っているのは――これが恐怖を助長する原因なのだが、外にいるビックリメカ少女たちと同じ顔をしたロボットだった。

 やけに古風な喋り方をするこのロボットの中身は、おそらくネットを経由して自走地雷を乗っ取っている誰かに違いない。

 このロリババア(仮称)が工場で助けてくれたことで俺は魔の巣窟と化した工場から脱出できたのだ。

「だが、どうする?」

 俺は懐から拳銃を取り出して、プレスチェックの後、初弾を装填した。

「袋の鼠だ。こんな豆鉄砲じゃ歯が立たない」

 正直、生き長らえる自信がない。

「俺じゃ逃げ延びられない。だが、同じロボットを操れるアンタならどうだ? 俺の得た情報をアンタに託したい」

 俺は上着のポケットからデータカードを取り出した。もしこのロリババアが真っ当な感性の持ち主ならば、しかる後にデータを警察に提出してくれると信じた。真っ当でなければ、あんな場所で俺を助けてくれるものか。その点に賭けてみたい。

「よもや、お主が時間稼ぎをすると?」

 動かす必要のない表情を動かして笑って見せるロリババア。

「お主申したの、《同じロボット》と。ならば、スペック差がない儂の方が時間稼ぎにはうってつけよ。中身のない人形ごときに遅れを取ると思うてか?」

 

「二度は言わぬぞ、行け」

 ロリババアは窓を破って外に出た。

 同じ顔がずらりと中腰で並ぶ中に、人らしい直立したロリババアが紛れる。

 彼女がこちらを一瞥し、合図する。

 俺はコテージの入り口を蹴破り、外に出た。

 進路をクリアリングする銃を構えていると、ロボットたちが群がる方で轟音がする。

 視線を遣るとロリババアがロボットたちと格闘戦にもつれ込んでいるのが見えた。

 彼女が腕を振えば、自走地雷が宙を舞っていき、

 彼女が脚を振えば、自走地雷の頭部がもげて飛んでいった。 

 その様に見て、足取りが遅れてしまう。

 格闘戦であれば、まだ人間の方が有利らしい。

 だが、それは一対一の場合だけ。

 並列する思考を持つ自走地雷たちは、戦術を変えてきた。

 それは彼女を物理的に無力化することである。


 ロリババアの右腕に自走地雷の腕が絡まった。それが戦術変更の合図だった。

 すぐさま状況を飲み込んだ少女が、右腕を肘から切り離して飛び退く。

 その場に残った自走地雷が爆発する。

 自爆である。それも周囲の同型機を巻き込んでの。

 飛び退いた先に、別のロボットが組み付き、左脚を取られたロリババアは倒れ込んだ。

「こんのお!!」

 今度は左脚を膝下から外して、右脚で自走地雷を蹴り飛ばす。

 空中で膨張して炸裂した自走地雷が、森の中に巨大な火炎を生み出す。

 片足と片手を失い、尺取虫のように移動する彼女。

 かなりの自走地雷が巻き込まれていたが、まだ健全に稼働する機体がにじり寄っていく。

 俺は咄嗟に彼女の方へ走り出していた。

「馬鹿者! どうして戻ってきた!」ロリババアが叫ぶ。

 俺は何も答えず、すぐ近くの自走地雷の頭に三発も撃った。当たり所が悪かった機体がその場に崩れる。

「目の前で少女が死ぬのは目覚めが悪い」

 彼女を抱えて走り出した。

 後方を残りのロボットが迫ってくる。

「腕を持て!」

 俺は彼女の言うままに左手を掴んだ。コシュと圧力の抜ける音と共に腕が取れた。

「投げろ!」

 後ろ手に放り投げる。

 轟音と共に火球が生まれ、追っ手の自走地雷が誘爆していった。


 命からがら逃げのびた俺は警察を追われた。

 病院で目覚めた時、自走地雷に入り込んでいたロリババアはどこにもいなかった。

 署の前を失職した悲しみで歩いていると、一台の車が駐まる。

「どうしたのじゃ、その野良犬のような面で? 行くところがないのかえ?」

 そこにはまた新たなロリババアが踏ん反りかえっていた。

「拾ってやってもいいがの……」 


時間:75分(+15分)

お題:【ロリババア】をテーマにした小説を1時間で完成させる。

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