魅力的なキャラ論争 幕之内一歩VSジャイアン

魅力的なキャラクターとは何なのかについて考察します。


この件について、時代が変われば人々の考え方も変わりますから難しいところもありますが、1つ気になった事を。


それは「陰キャ」というカテゴリなんですね。


普通に考えると、所謂「陰険な」「根暗な」そのへんが該当すると直感的に思うわけですが、

定義を調べてみると、そこには

「コミュニケーション能力が低い人」

「大人しい人」

というのも含まれてるんですね。


これがもし一般的な認識なら、結構衝撃的やなと思います。

(当たり前やん?という人には、以下反論が続きます。)


わたくし、ちょっと古い漫画なんですが、はじめの一歩っていうボクシング漫画好きなんですよぉ。

主人公の幕之内一歩という人というか男の子は、昔いじめられっ子だったんですが、日本のフェザー級のチャンピオンにもなるんです。

・・・ただ、本人は確かにボクシングは強くなって、試合では凄い闘気も見せるんですけど、

普段の性格はというと、一言で言うと「大人しくて気が弱い(ように見える)」ようなキャラなんですね。

ベラベラ面白い事話す性格でもないし、女性との付き合い方も上手くないから、コミュニケーション能力高いか低いかって言ったら、まあ彼は低い部類に入るんじゃないでしょうかね。(作中で見てもその基準で言ったら青木や木村より下だと思います。)

ボクシングで強くなったからと言って、普段の性格まで変わったわけじゃない。そういったところでしょう。


でも、だからと言って彼が「陰キャ」という部類に入りますかね?

その意味で、私は「最近の人達の考え方」が信じられない。

そういうのを理解できない「年」になってるのかもしれないです!ア~


結論から言うと、一歩が「陰キャ」のカテゴリに含まれるはずがないんですよ。理屈じゃなくて、直感と常識で考えろアホっていうレベルでそうだと思います。

ただ、「最近の人」は、見た目やちょっと付き合って感じた性格が「大人しい」とか、ちょっと話が上手くないくらいで「陰険」「根暗」と同じと見なしてレッテル貼りするんですね。

まあ結論から言うと、最低の人間が持つ最低の考え方やと思います。


はじめの一歩っていう漫画では、実の所、そういうのを「ぶっとばす」っていうのが1つの魅力なんですけどね。

というのも、作中で一歩はそういうキャラなんですけど、ボクシングは滅茶苦茶強いっていう設定だからです。チャンピオンですから、もし一般人が素手でケンカしたら瞬殺されるでしょうね。

まあ少年漫画というのが、そういうのを好むというのもあります。

普段大人しい・明るい・優しい主人公が、怒らせると結構怖いっていうパターンですねえ。

でも漫画だけじゃなくて、一般にも言える事じゃないですかね?

一流のスポーツ選手や職人ほど、普段は紳士的で落ち着いているものではないでしょうか。


はじめの一歩で興味深いのは、まあフィクションですけれど、一歩というキャラは、多分もとから内側には激しい闘争心も秘めてる人だったのではないかと思います。

血のにじむような努力で「自分の性格を根本から変えた」人ではないと思うんです。

努力によって性格まで根本から変えたなら、普段の性格も変わってるはずです。

だから彼はむしろ、努力によって元々持っている才能を究極的なところまで磨き上げたのではないかと思うのです。

あ・・・で、そういうのは「認めない」って事なんでしょうかね、最近の人の考え方では・・・。


会社とかでもそうなんやけど、無能な奴ほど「コミュニケーション能力」って必要なんですよね。だって、他には何も持ってないから。

で、最近の日本人がどんどん貧しくなっている(単純な金銭的な意味で)事と関係あると思うんですが、ろくなスキルも経験も持たない人達が増えてるから、「コミュニケーション能力」ってものが一人歩きしてるのかなとも推理します。

スポーツ選手とかそういうのは「雲の上の人」やから、そもそも自分達の基準にならないし、きっと会社内でもスキルを持ってる人とそうでない人とで完全に階級分けされてて、下のほうの人達がきっとコミュニケーション能力コミュニケーション能力って騒いどるんやないかなあ。



大人しいっていう性格の他に、「クールでニヒルな(イケメン)キャラ」というのもよくいますよね。漫画だとそういうのも割と人気がある(「あった」?)キャラだと思うんですが、そういうキャラは大抵無口で普段の感情にも乏しく、コミュニケーション能力が高いか低いかといったら、多分低いほうに入りますよね。

でもそういうキャラが「陰キャ」に入りますか?

常識的に考えると、入らないと思うんですけどねえ。

しかし、定義から言うと入ってしまいますねえ・・・。


これはやはり、増殖した「スキルを持たない現代日本人」が生きる術として「コミュニケーション能力」しか持っていないから、想像力も貧困になって創作物のキャラにも貧弱で腐った価値観を適用してしまうのだと思います。


そういえば、「肉食系」「草食系」とかいった下卑た言葉も、ずっと昔は無かったんだけど、誰かがふっと使い始めて広がったんですよね。大抵は、「草食系」に属する男性への悪口として使われ始めたはずやと記憶しています。

まあレベルとしては、小学校とか中学校とかでの「イジメ」の延長なんやと思います。

ど〇えもんを見れば分かるように、イジメられる標的は、弱くて大人しいタイプの子なんですよ。ジャイアンは、決して自分と同等以上の相手に挑むという事はしないんです。男だったら堂々と、母ちゃんにびびってないで立ち向かえという話なんですけど、彼は絶対にそうしないんです。のび太相手なら絶対勝てると分かっているから、標的にしているんです。

単純なケンカの強さなら、多分ジャイアンと出木杉だったらジャイアンが勝つでしょう。仮に出来杉がのび太よりは強いとしても、パシリのスネ夫を使って罠にでもはめればいくらでも勝てるはず。でもジャイアンができ杉を標的にしないのは、多分、出来杉は成績優秀で顔もよく性格もしっかりしていて周りから尊敬されているので、それを標的にしてしまうと確実に悪者扱いされてしまうから。そういう「周囲の眼」も怖くて、劣等生で授業中も居眠りばかりで周りからも馬鹿にされてるようなタイプののび太を狙い撃ちにしていたのだと推理できます。


だから、ジャイアンタイプの大人が増殖しているという推理も成り立ちますね。ジャイアンは、当然ながら自分の事を批判されるのは嫌ですよね。従って、自分の価値感を肯定し、自分の価値感を肯定してくれる人を支持するわけです。

そういうジャイアン民族にとっては、幕之内一歩みたいなキャラはすごく都合が悪いのかもしれませんね。

だって、のび太みたいなキャラが実はすごい才能を秘めていて、ボクシングのチャンピオンにまでなってしまうんですから。

だからジャイアンがもし週刊少年マガジンを買っていたら、はじめの一歩っていうのはすごく嫌な漫画だったはずです。

ジャイアンが好む漫画って、例えば好きなだけイジメを楽しめるような、SMとかそういうのじゃないでしょうかね?

まあ、そういうジャイアン好みの漫画も増えてきたのかもしれません。


ジャイアンは、家では母ちゃんという絶対君主の足の裏をべろべろ舐めて媚びながら生きている男です。学校でもはっきり言って馬鹿なんだけど、それよりももっと成績の低いのび太がいる。デブだから力だけはあって弱い者イジメは得意である。

これは、もしかしたら現代人の姿を予言していたのかもしれませんね・・・。


別に二重人格系のキャラが良いとは言ってません。あまりそれが露骨なキャラは私もどうかとも思いますし、悪い意味で流行りを過ぎていて少々古いという気もします。

しかし、幕之内一歩のようなキャラは、「普段は大人しい」事と「試合では凄まじい闘気を見せる」事は何ら矛盾しておらず、二重人格でも何でもないと思います。

むしろ彼は、自分の力を使うべきところとそうでない所がはっきりと分かっているのでしょう。当然の事ながら、普段の生活でも喧嘩っ早いところがあったら、彼は殺人犯になってしまいます。彼のパンチは殺人級であるからです。ですから、パンチを放っていいのはリングの上だけと認識できています。その(当然の)認識を人一倍持っている事は、元からの普段の大人しい性格と無関係ではないはずです。


さて、それは漫画の話であるわけですが、小説ではそこまでの「ギャップ」はなかなか表現しにくいところがあります。

また、「キャラの人格が途中で変わっている」などというのは、設定や構成力の拙さを指摘される悪い意味で使われる事が普通です。

従って、「普段は大人しいけれど試合では別人のように闘気に満ちる」などといった設定は小説で使いにくい事は間違いないでしょう。

「力を秘めたのび太」よりも、「デブで馬鹿だけど分かりやすいジャイアン」だったら、後者のほうがウケやすい性質があるさえ言えるかもしれない。(だとしたら、小説という表現手段自体の弱点とも言えるかと思いますが。)

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