第3話 夢の傷に触れる




和気藹々わきあいあい

僕にはそれが狂って見えた。





はあっはあっはあっ...早くっ、行か、ないとっ。




~放課後~



チャイムと同時に席を立つ。

「おっ、行く気満々だね」

椅子から体をり、顔だけこちらに向け茶化してくる。

「違うよ。ただあの婆さん怒らすとやばそうだからってだけだよ」

「ふ〜ん」

涼哉はそれ以上多くは語らずも、何処どこか全て見通されてる気分になる。

「じゃ、行ってくる」

「おうっ」

それからだった。教室を出てすぐ、担任と出くわし生徒分のワークノートを理科室へ持って行くよう頼まれ。


「すまんっ、次の小テストの点数5点アップで頼む!」

「それ、先生としてどうなんですか...?」


渋りながらも、2階から3階の理科室へと運び。戻る途中、同じクラスのほぼ話したことのない男子生徒に部活のミーティングがと言われトイレ掃除を任され。


「ごめん、ありがとう!え〜〜っと......ありがとう!川野くん!」

「滝宮です...」


そうこうしているうちにもう集合時間5分を切っており、小走りで向かい何とか間にあったと図書室の扉に手を掛けたその時。現代文の学校一高齢のお爺ちゃん先生が震えながら手摺てすりに捕まり立ち往生おうじょうしている。


「・・・」

「お、おっ...おお〜」


“お”の一言だけで助けを求めるお爺。

つい目が合ってしまい目を背けるが、爺さんは目を見開き明らかにこちらを向いてさらに大きく唸り出す。

「んっ、んん〜。はぁ、、何で今日に限ってこんな...」

図書室を目前に、今にも死にそうなお爺を見捨てる事はできず、手まで掛けた扉から離れ。遠のき、次第に日も暮れていった。





「はあっはあっはあっ」

窓から差し込む夕焼けに焦りながら、懸命けんめいに曲がり角だけ気をつけ廊下ろうかを走る。

「はあっはあ、あのっ、爺さんは、ほんっとに」

息を切らしながらも、苛立いらだちを隠せずにいた。

何故ならあの爺さん——


「え?トイレが限界?」

そう震える声で言う爺さんに少し戸惑いながらも肩を貸し、一緒に近場のトイレへと付き添い

「ほおお〜〜、助かったよ。ありがとう」

蛇口から流れる水の音でなんて言ったか聞き取りにくかったが、そんなことよりまだ走ったら何とか間に合うと思い、急いでその場を離れようとした時

「ちょいと待っておくれええ。すまんが、わしの愛用しているつえが何処にも見当たらんくての。どうか若い手を貸してはくれぬかのう?」

そう目を丸くしながら頼む爺さんにまたも断れず、一緒に探す羽目はめに。


ここまではまあ、全然。だが、ほうぼうを探しても中々杖は見つからず、心当たりを聞いても分からぬの一点張り。もう日も暮れだし諦めかけていたその時。爺さんが放った一言に俺は思わず爺さんの禿らかした頭を叩きそうになった。



「あ、そうじゃった。わし今日、家に杖忘れたんじゃった」

可愛く照れた感じで、頭にグーの手を当て短い舌を出す爺さんに対し躊躇ちゅうちょなく上がった右手を、左手で必死に押さえ込む。



「(何?家に忘れた〜?!今までお爺のつまらなくオチの無い漫談まんだんを聞かされ歩き回った時間は一体なんだったんだ!!それに、震えながら今にも死にそうな声で助けを求めた理由がトイレの限界って何だよっ!!)」

走りながらも沸々ふつふつと爺さんへの苛立ちが心の中で湧き上がる中、図書室へと急ぎ、やっとのこさで辿り着いた。



《ガラララッ》


「はあ、はあ」

扉を開けるともう終わったのか、夕日との逆光で表情は見えないが、鞄を肩に掛け帰ろうとする彼女が1人立っていた。

「もう、終わったから。帰りな」

そう立ち尽くす俺を突き放した彼女の声は、とても冷たく。だけど、どこかやわらかくも感じた。

「あっ、あの!ごめん!行くつもりだったんだけど、色々巻き込まれて...」

横をすれ違い、帰ろうとする彼女に何故か俺はとても必死に弁明べんめいしていた。

「(あれっ、俺何でこんな必死に...)」

怪我けが...」

「え?」

彼女のとても小さく呟く声に顔を上げ、耳をかたむける。


「怪我。痛くない...?」


この時、俺は気づいた。彼女のひとみの奥にある優しさを。彼女の冷たく聞こえてた声の内側は、本当はとても柔らかく。いや、とても温かいものだったのだと。そして、彼女のこの一言が無ければきっとあの時、一歩踏み出せずにいただろう。

「...あっ、あぁうん!全然この通り!」

少し心配そうに目をやる彼女に、大袈裟おおげさなくらい肩を回し笑って見せた。

「...そっ」

そう一言だけ言い残し、帰って行った彼女はどこか少し、笑っていたように見えた。




夕焼けは人を暖かく見せる効果でもあるのだろうかと、一人考える俺を優しく照らしていた。





---4月14日---


~水曜日~


2時限目


黒板に何とか読み取れる程、難読なんどくな震え文字が並ぶ。

「ふぇ〜と、ふぉふぉあ、でふね〜」

どうやら入れ歯を家に忘れたらしく、一時間ほぼ何も聞き取れなかった現文お爺の授業が終わり、寝るか自習していた皆が号令後の着席と同時に背筋を伸ばす。

ちなみに、勿論もちろん俺は寝ていた組だ。

「んん〜〜」

「そういや功樹、まだ放課後屋上行ってるの?」

背筋を伸ばす俺に、涼哉が振り返り何げ無い様子で聞いてくる。

「まあ。火曜日は行けなくなっちゃったから、それ以外の放課後は行ってるよ」

俺は今も夢での事を忘れられず、火曜日以外の学校のある日は放課後毎日、開かない屋上の扉の前まで足を運んでいる。

「お〜。『愛』の力ってやつだね」

まゆを動かし、こちらを見てくる涼哉に俺は言葉を続ける。

「結局。夢物語って事は自分でも分かってるんだけど、まだどこか諦められなくて...」

「移動教室。早くしないと遅れるわよ」

昨日と同様、眼鏡無しver.の館宮さんこと委員長が通りすがりに声を掛ける。

委員長はそのまま真っ直ぐ進み、壁に一直線に頭をぶつける。

ぶつかってやっと壁の存在に気が付いたのか、方向転換し何事も無かったように歩き出す。

「え...館宮さんって眼鏡無いとあんなに見えなくなんの?」

「らしいね...」

涼哉と俺は、ついその珍しい光景に準備を忘れ、1人教室を出て行こうとする館宮さんを目で追ってしまう。そして、また教室の閉まったドアにぶつかるも平然と出て行く館宮さんを見て、2人残された教室で小さく呟く。

「...ギャップ萌え、だね」

「そだね...」



詩波涼哉 減点☑︎(遅刻)

滝宮功樹 減点☑︎☑︎(遅刻・居眠り)





---4月20日---



~火曜日~



俺は放課後、1人図書室の整理をしていた。


〜遡る事数十分前〜


俺はもう慣れた道行で放課後図書室に向かっていた。

彼女は以前と変わらず、遅刻不登校気味。だけどここ最近、ほんの少しばかり顔を見る頻度ひんどが多くなった気がする。たまに目が合うと、あの日の顔は何処へやら。きつく睨みつけてくる。今日は5時限目の途中に来ていたらしく、寝ていた俺はまだ一度も彼女と顔を合わせる事なく放課後になり、体を起こし教室を見渡すが、彼女の姿はもう無かった。


《ガラララ》


「失礼しま〜す」

もう先に来てるのだろうと思い扉を開けるが、そこに彼女の姿は無く。見渡していると事務室の方からポットのお湯が流れ落ちる音がし、近づいてゆっくりと扉を開け覗く。

そこに居たのは、座椅子ざいすに腰掛けお茶をすする、2週間ぶりの婆さんだった。

急須きゅうすから出た湯気で曇った眼鏡の婆さんがこちらに気づき、目が合った俺は思わず体がびくつく。


「あんた、ノックもできないのかい?」


言葉と声はとても怖いのに、その曇り続ける眼鏡のせいで締まらず、そのシュールさに込み上げてくる笑いを必死にこらえ飲み込む。


「す、すみません!(こんなの反則だよっ)」

頭を下げ、小刻みに体が震える。

婆さんのお茶を啜る音だけが聞こえ、ゆっくりと深呼吸をし落ち着かせ、再度顔を上げる。

しかし、婆さんの眼鏡は何故なぜか更に曇り、真顔でこちらを見つめてくる。

「ブフォッ」

その姿に思わず吹き出してしまう。目を合わさぬ様すぐに目を逸らし後ろを向く。


「ふぅ〜〜...(あの婆さん絶対わざとやってるよ)」

まるでコントの様な流れをとうと、目を合わさない様にしつつ話題を変える。


「彼女はまだ来てないんですか?」

「今日は来ないよ」

「え。あ、そうですか...」

きっと昨日までならその事に素直に喜べていただろう。だけど何故か、今は心からそうは思えずにいた。


「...あんた。あの子の彼氏かい?」


「ちっ、違います!!」

婆さんの唐突とうとつで思わぬ質問に言葉を詰まらせる。



「...そうかい」

そう答えると婆さんは、少しばかり残念そうに見えた。

「はい」

「・・・・・・(沈黙ちんもくが辛い...)」

あまりの気まずさに耐えきれず、仕事に取り掛かろうとした時

「あのっ、俺片付けてきま」

「あんたは」

俺の声にかぶせる様に婆さんが声を掛ける。

「え?」

「あんたは、あの子の事どう思ってるんだい?」

その真剣な眼差まなざしに、あからさまに動揺する俺を見て婆さんが言葉を続ける。

「正直に。今のあんたから見たあの子の印象を教えておくれ」


その言葉に、何故か俺は自然と口が動いた。


「彼女は...正直、僕にとって第一印象最悪でした。ぶつかったのは俺が悪かったけど、にらんで舌打ちですよ?初対面の人に。初めはほんと髪も金髪で派手なピアスだし、今どき見ないスカートの長さしてて、きっと『こぶし木刀ぼくとうで乱世を生きてきました』みたいなコンビニ前タバコ片手の股開き座りヤンキーだと思ってました。まあ、それは今もあんまり変わらないんですけど...。ただ、それでも最近一つだけ分かった事があって、彼女はきっと根はとてもいい奴なんだろうなって。...そう、思いました」



「...そうかい」



目を逸らしていてあまり見えなかったが、視界の端に映った婆さんは少し微笑ほほえんで見えた。

「あの子とは縁あってもうとても長い仲だけど、あの子はあんたの言う通り優しい子でね。ただ、自分の気持ちを外に上手く伝えるのが人より少し苦手な子なんだ」

俺は婆さんの言葉にいつしか真剣に耳を傾けていた。これが、歳を重ねた人ゆえの言葉の重さってやつなのだろうか。それとも彼女の事だからだろうか。

そんな事を考えていると、婆さんの手がスッと伸び。事務室の真ん中に1つ、不自然に置かれた机を指差す。

「それが、今のあの子の精一杯だ」

指差す机に足を運び、机の上に置かれた一枚の紙を手に取る。

そこには——



[1人大変だった。これでチャラにしてやる]



そうしるされていた。

「あんたがあの子にとってどうでもいい存在だったら、こんな置き手紙置いて行きやしないよ」

「...」

手に取った手紙を見つめ、俺の中に一つの感情が芽生えた。




彼女と《友達》になりたい。




「で、あんたこの前仕事すっぽかしたんだって?」

「え...」

とても暖かかった空気が一気に冷え凍った。

「今日はその分しっかりと働いてもらうよ」

婆さんの笑った顔を初めてしっかりと見た瞬間だったが

「はいっ...」

積まれた段ボールの山を前に俺は素直に笑えなかった。




「ふぁ〜、終わった〜」

「お疲れさん。はい、これ」

仕事が一通り終わり、座り込む俺に婆さんがねぎらいをくれる。

「ありがとうございます!俺これ大好きなんですよっ」

「...そうかい」

婆さんが故のチョイス〘おしるこ!!〙俺の大好物!しかも粒増量!!普通の学生なら戸惑とまどい嬉しそうに作り笑顔を作る所だが、俺は初めて人から貰うおしるこに心底喜び、湧き上がるよう感動と同時に心を踊らせた。

「婆さんって初め冷徹無慈悲れいてつむじひな人だと思ってたんですけど、いい人なんですねっ」

「それ褒めてるのかい?」

婆さんが顔をしかめめながら、こちらを覗く。

「もちろんです!」

「...そうかい」

「はい!」

少しの間が気になったが、俺は自信を持って答えた。

「しるこ没収」

「え!?」




図書室を出ると、外はもう日が沈みきっていた。


「もうこんな時間か...」

1人暗い廊下を歩きながら、彼女とぶつかった日と重なる情景じょうけいに、そこまで日がった訳でもないのにとても懐かしい気持ちになった。

《ブー》

かばんまたいで廊下に鳴り渡る携帯のバイブ音。その音に思わず肩がびくつく。

「びっくりしたぁ...あれっ?俺通知オフにしてたはずなのに」

軽く疑問を抱きながらも鞄から携帯を取り出し、開くと一通のメールが届いていた。



          4月20日(火)17:53

             [ dogomo ]

——————————————————

From::詩波 涼哉

To:kouki0221@dogomo...

件名:SOS

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           2021年4月20日



教室に

携帯忘れたかも

見てきておくれ






——————————————————





「はぁ...」

階段を降りきった直後のそのメールに溜息をこぼすも、俺は職員室へとつま先を向ける。教室の鍵を貰いたいと担任に問うと、担任は後頭部を掻き首を傾げながら

「たしか、教室で勉強会?してる女子らがまだ居るんじゃねぇかな?鍵返ってきてないし」と適当な返事に加え、「あ、丁度よかった。ついでに女子にもう帰る時間だよ〜って伝えといてくれ」と追加注文まで頼まれ、つくづくこの担任はと心の中で呟きながら

「つくづくこの担任は...」

「お〜い。口に出てるぞ〜」

教室へと足を運んだ。



すると、案の定自分のクラスの明かりだけ付いており、わずかに女性の笑い声が聞こえてくる。

「(やっぱり。勉強とか言って、ただ笑って話してるだけじゃん)」

そう思いながら段々近くなる甲高かんだかい笑い声に、教室の一歩手前で足が止まる。

「(......入りづれ〜)」

中学から陽だまりのような輪が苦手でずっと木陰を心地よく感じていた俺は、光と影の境目を前に立ちすくみ、中々踏み出せずにいた。夜と影が成すひんやりと冷たくなった壁を背中で感じ、和気藹狂わきあいきょうと聞こえて来る会話に耳を傾けて入るタイミングを伺う。


「え〜、次私〜?」

「これクリアできたらジュース奢るから〜」

「言ったよー?」


「(ん?何かのゲームか?そうだとしたら終わるまで入れないじゃん...)」

大きく肩を落としつつ、また耳を傾ける。


「昨日も私負けたからな〜」

「あれヤバかったよね!過去一いい音鳴ったわ〜」

「最後にあんな綺麗に決まるの流石あみだわ」

「でしょ〜」

「でもこれ大丈夫かな?昨日のとかは服で隠れるからいいけど、これミスったら絆創膏ばんそうこうじゃ隠せなくない?」

「大丈夫だって!それにこのスリルがいいんだよ」


途中から所々不可解な会話に、疑問を抱きつつも耳をませる。


「そう〜?」

「そう!指と指の間をスレスレで攻めていくこの感じ」

「でもエリカ血とか見たくないな〜、グロいし」


会話が耳に入っていく度、次第に嫌な予感と妄想が増してふくらんでいく。


「こんくらいしないと、こいつもう全然反応しないから楽しくないでしょ?」

「まぁ確かにね〜、それにこいつ最近涼哉くんにちょっと仲良くしてもらってるからって調子乗って、誰も求めてないのに色気づいてアピールまでしてほんっとマジキモいし...私達が制裁せいさいしないとだもんねっ」

「そうそう!」


「ま、多少。穴は開いちゃうかもだけど」


この時、疑問と嫌な予感が頭の中で繋がり


「え〜やめてよ〜。想像しちゃったんだけど〜」


その光景がコマ送りのように頭の中をめぐった途端、俺の体は考える事より先に教室の扉を開けていた。


「え......何?」

「誰こいつ」


そこには、一見いっけん1つの机に3人の女子が集まり団欒だんらんしているよう。もしここに誰か来たとしても、笑って話してただけと言って誤魔化ごまかせれられただろう。

だが、俺は会話を聞いていたのもあり瞬時に理解できたこの状況に、ただひたすら自分への嫌悪感けんおかん罪悪感ざいあくかんで激しい吐き気におそわれると同時に、込み上げるコイツらと自分への怒りでおかしくなりそうだった。

こちらを振り返る2人の女子。その奥に隠れるように机に顔をつき、うつむく髪の乱れた1人の女子。振り返る女子1人の片手に持たれたコンパス。机に置かれた俯いた女子の右手。所々見える皮膚ひふがめくれ赤くなった指の怪我けが。机に転がる芯の折れた鉛筆。


よみがえる記憶——


「いっ」

「あ、ごめん!大丈夫??」

「ええ、平気よ、気にしないで。そこはあなたの名前でいいわ」

「もしかして腕怪我してる?」

「え、そうなの?!」

「大丈夫よ、昨日少しぶつけただけだから...」



「あれっ、委員長今日眼鏡は?!」

「あっ!ほんとだ!」

「ちょっと、落としちゃって...ってそんなジロジロ見るなっ!」



俺の足元に落ちた、赤色のヘアゴム。




それを拾い、強く握りしめる。

「ちょっと!何勝手に入って来てんのよ!」

何やら女子がぼやいでいる。

俺はゆっくりと俯いた彼女に近づき、机の前まで行って立ち止まる。


口を開くが、蘇る記憶に中々喉が動かず、必死に声を絞り出す。

「......館宮さん」

「はあ?何。あんたこいつの彼氏かなんか?」

「黙れ」

初めて他人に放つ言葉と声色。萎縮いしゅくする女子2人。

さっきとは打って変わり、とても優しい声でもう一度名前を呼ぶ。

すると、彼女はゆっくりと顔をあげた。

いつもつややかで整っていた髪は乱れ、机に何本も抜け落ち。とてもひどく悲しい顔色をした彼女を見て、さらに胸が締め殺される。

「...行こう」

手を差し出し、館宮さんは目を合わそうとしなかったが、俺は彼女から目を逸らさず、ゆっくり上がった傷だらけの手を優しく取り、彼女の歩幅に合わせてこの教室を出ようとした。

すると、何とかそれを止めようと大きく声を上げる。

「ちょっと、待てよ!!何勝手に連れ出してんだよ!」

その女の声に、込み上げる怒りを押し殺し、冷静を装う。

「こんな事してるお前らの方がよっぽどキモいから。消えろブス」

「なっ!誰がっ」


〈ガラララ〉

 《ドン》


「何あいつ...」

「絶対、許さねえ」




廊下に出て、少し歩いた場所まで行き壁にもたれ腰掛ける。

「怪我。大丈夫...?」

彼女の右手をとると、鉛筆の跡と赤くなった傷でとても痛々しくなっていた。

「平気よ。ありがと」

こんな時でも気を使い笑って返す館宮さんに、俺は気付き止めれなかった自分を憎み許せない気持ちでいっぱいになった。

「正直、あのままだとまずかったから助かったわ」

「おれ...気付けなかった。こんなに舘宮さんが苦しんでたのに、おれ...」

余りの自分への不甲斐ふがいなさと悔しさに思わず出したくもない涙があふれ出る。

俺より舘宮さんの方がよっぽど痛くて辛くて苦しくて泣き出したいだろうに...。ほんと、情けない。

「なんで、あなたが泣くのよ。ほら、ハンカチ」

「ありがとう。ごめん...ごめんっ」

「あんな事言う柄じゃないのに、無理するからよ」

舘宮さんの傷ついた右手を両手で優しく包み、泣く俺の頭をとても優しくでる舘宮さんの柔らかい左手。温かい声。

「私ね、嬉しかった。あなたの声がした時、とても。嬉しかった...ありがとう」

ほほを流れる一滴の涙。初めて見る彼女の涙に、色んな感情が込み上げ更に溢れ出す涙。俺はその彼女の涙を前に、心と未来に誓う。

「うぅ...もう、こんな事させないから、絶対。絶対...!!」

子供の様に泣く俺に、彼女は頬を緩まして呟く。

「次泣かしたら、許さないから」

涙を服の袖で払い、震えながらも強く答える。

「...はい‼︎」



言えなかった彼女と、気付けなかった彼。

そんな僕らに、満月の月明かりが窓を越して差し込む。

それはまるで、2人の流れる涙を明るい未来にせんと、必死に輝き照らしてくれているかのようだった。





館宮誘希たちみや ゆうき

7月8日生まれ16歳 蟹座A型 身長149cm

チャームポイント:長い茶髪を括る赤いヘアゴムとそれに合わせた赤色の眼鏡 視力(眼鏡)〈右〉1.2(あり) 〈左〉1.4(あり)〈両目〉0.1以下(なし)得意科目:国語・体育 苦手科目:強いて言うなら家庭科

口癖:「◯ね」




功「...」

涼「...」

功「...せ〜のっ」

功&涼「「萌え〜」」

館「死ねっ」



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