第14話

 こちらに気付いた彼女が、切なそうに笑った。自分が、幻だと思ったのだろうか。

 新幹線の窓の外に目をやる。

 そして、もういちどこちらを見る。とりあえず、ほほえみかけた。

 彼女。

 手が、伸びてくる。頬に触れた。


「暖かい」


 それだけ言って。彼女は。何か言おうとして、また、黙った。


 喋れるのか確かめているのだと、思った。さっき、暖かいと喋った。もう、彼女は喋れる。でも、自分と会って、その上でまた、昔のようになってしまうのではないかと、思っている。


「大丈夫だよ。神様の雷は私が受けたから」


 彼女。深呼吸をして。


楠樹見来くすのきみらいさん、ですか?」


「いいえ」


 彼女。衝撃を受けたような顔。


「1回死んだので、戸籍が変わったんです。その関連で、ずっと都会で仕事をしてて。ようやく1年経って戸籍関連が整ったので、街に戻るところなんです」


「あの。今のお名前は」


「楠樹見来2です。かっこいいでしょ?」


「2って」


 彼女。笑った。笑顔は、あの頃と同じ。変わっていない。


 彼女の左手薬指には、指輪がなかった。


 きっと、もう、昔の関係には戻れないのだろう。そんなことを、なんとなく思った。

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