星の夜

 四人は受付で名前と身分を告げ、ポートレートを登録した。顔認証を行わずに校舎内を歩き回ると、ガードマンに連行されてしまうのだそうな。

 圧巻は、透明の壁。

 外に接する壁面はすべて窓になっていた。アクリルが隔てた廊下の片側には、樹木に寄りかかる学生の姿もあり、吹き抜けにいると錯覚しそうだ。

 その一方で、隔絶を感じさせる場所でもあった。

 人の賑わいも枝を揺らす風のそよぎも、こちら側には届かない。

 “自然と科学の調和“

 梓真は昨日仕入れたばかりの、この学校の理念を思い出した。

 たぶん、ここがそうなのだ。

 清潔で温度管理のされた高見から、外界を一望する――。皮肉ではなく、今、人にできることのせいぜいがその程度でしかないのだろう。

「緊張してる……」

「え?」

「ここを初めて通る人は、みんなそうなの」

 そう言うと、玲亜の手は理緒に伸びる。

 それが耳の上あたりに触れそうになり、理緒は後ろに逃れた。

「恩田さん?」

「……あの、明日対戦するんだから、その……あまり、馴れ馴れしくしないでください」

「……やさしい……」

「……え?」

「そうね。馴れ合うのはおかしい。……わたしたち、これから戦うんだものね」

「……え、ええ」

「さ、行きましょ。教授の部屋はその先」

 玲亜は歩き出し、その背中を梓真は追いかけた。

(やさしい……か)

 彼女の真意はわからない。けれど、梓真はその言葉を好ましく思った。

 それを輝矢は見逃さない。

「梓真、鼻の下伸びてる」

「なっ……」

「え? そうなのあっくん!」

「おい、おまえら、人前でそういうことをだな――」

 玲亜が振り向いたのはその時だ。

 梓真はどぎまぎとする。

「や! あの……」

「ここ」

 意匠を凝らした扉の前だった。プレートに「神経工学 広敷浩夢ひろしきひろむ」とある。

 玲亜は梓真のことなど眼中にない様子で、ノックのあとに扉を開くと、そこから鮮烈な光が漏れ注いだ。部屋の中は痛いほどの明かりで満たされていた。

「失礼します」

 返事はない。だが部屋には男の姿があった。

 最初におずおずと進み出たのは真琴だ。

「し……つれいします。……あの、顧問の万久里です。本日はお招きに預かり、まことにありが――」

「人違いだ」

「え、はい?」

「俺は教授じゃねえ」

 巨大なデスクに尻を乗せたまま、気怠そうに男は口を開いた。

 硬直してしまう真琴。せっかくいいところを見せようとしたのに。

「先輩。教授はどちらに?」

「さあ? ただ、遅れるから、俺に相手してろってよ」

 しかし男は名乗りもせず、もてなす気があるとは思えなかった。

 代わって玲亜が、

「こちら、チームリーダーの六角先輩です」

 と、おざなりな紹介を残し、その場を立ち去ろうとする。

「おーい、どこ行くんだあ」

「お茶を煎れるの」

「へっ」

 たっぷり、玲亜が消える沈黙の時間を経て、ようやく六角は体を降ろした。

「ま、その辺見て、適当に時間つぶしてくれ。珍しいモンていやあ……」

 部屋の明るさにやっと慣れ、改めて部屋を見回してみる。

 大学教授の部屋とは――

 狭苦しい、本と書類が雑然としている、そんなイメージを抱いていた。が、ここはそれと真逆の、整頓された清潔な場所だった。

 さらに強烈な照明が真っ白に染めている。

 違和感は他にもあった。

(窓がない……いや、あるのか)

 白一色の四方の壁は、大学の理念を否定するように外界を完全に遮断していた。正面に窓はあるようだ。しかしそれは分厚いカーテンでぴったりとふさがれ、自然の光の入り込む余地はない。たとえ漏れていたとしても、この明るさでは絶対に気づくことはないだろう。

 左には整理された書棚。これには興味をひかれない。右側に――ガラス?

 照明でわからなかったが、右手の壁全面をガラスケースが覆い隠している。

 梓真が足を向けると、三人も後に続いた。

「な。おもしれえだろ」

 ケースに収められていたもの、それは――

(AI! こんなに……)

 あきれるほどずらりと並べられていたのは、すべてオルター用AIだ。説明書きに製造年と名称がある。上段には最新鋭のモデルが飾られていた。精緻な造形や、優美に人の脳を模したもの。また、手のひらサイズに小型化されたものも。

 それらと比較すると、下に置かれた旧式は、ただのパーツの寄せ集めにしか見えない。

「壊れてねえ、全部生きてる。電源入れりゃ、ここでおしゃべりできるぜ」

 壁から離れて台が置かれ、ラップトップが鎮座している。操作端末として、AIたちの目、耳、口の代わりをするようだ。

 それを前に六角が弁舌を振るう。

「どいつもこいつも、今は何年の何月ですか? とか、わたしはどうしてここにいるのでしょう? とか、くだらねえことしか言わねえけどな。……どうだ、どれか気になるのとお話ししてみねえか? 暇つぶしによう」

「結構よ」

 すかさず理緒が答える。六角も即座に返した。

「おまえにゃ聞いてねえ。こっちの兄ちゃんだよ」

 これでなぜ接待役を仰せつかったのか、どこまでも挑戦的だ。

 襟首の下から厚い胸板がのぞく。獣じみているが顔立ちは悪くない。梓真が勝っていそうなのは身長くらいのものだが、もしかしてそれが気に入らないのだろうか?

「聞いてんだよ、なあ」

「遠慮しますよ、先輩」

 作り笑顔を返す。すると六角の顔はより険しく変わる。

「……」

「……」

 一触即発の空気に、ふと陶器の音が響いた。

「みなさん、こちらへどうぞ」

 その声には、みんながほっとしただろう。梓真たち四人は招きに応じる。六角だけが不愉快さをにじませ、その場を動こうとしなかった。

 テーブルにティーカップが七つ。来客用のソファは長く、それ以上の人数でも座れそうだ。

 険悪な雰囲気を引きずって、全員無言で紅茶をすする。

「あの……」

 年の功で真琴が沈黙を破る。

「広敷教授って、どんな研究をなさってるんですか?」

「人の脳を外部記憶装置とつなぐこと。非浸襲方式の」

「へ、へえ……」

 割と易しい説明だったが、たぶん真琴には理解の外だ。

 優等生の輝矢が救いの手を差し伸べる。どうやら予習済みらしい。

「脳の障害をAIで補う研究、ですよね?」

「そう。でも症状は患者によって千差万別だから、実用化の目処はついてないの。わたしは二年生だから、詳しくは教授に聞いて。専門家同士、込み入ったお話ができると思う」

「えええ、そおねえ」

 専門家からほど遠い、真琴の声がうわずった。ここは話題を変えたほうがいい。

「僕は教授の専門より、さっきのドラゴンのことが聞きたいな」

「あれは、サークルのみんなで作ったの。今年の学園祭の目玉に」

「あの高さまで首を持ち上げるには相当なパワーがいるはずですけど」

「実は、ちょっとズルしてる。人工筋肉のほかに、油圧を併用してるの」

「油圧?」

「そう。筋肉だけで持ち上げようとすると関節が潰れちゃうから、反対側から油圧で押し上げてるの。つまり、引っ張る力と押す力、半分ずつ」

「へえ」

「それでも、あんだけ関節があるとそう簡単にはいかねえんじゃ……」

「うん。大変だった」

「……設計図とか、見てみたいんだが?」

 玲亜は無言で首を振る。

「なんで?」

「苦労したんだから、よその人に簡単にマネしてほしくない。でも……」

「……?」

「ここに入学して、わたしのサークルに入るって約束してくれるんなら見せてもいい」

「いや、そんな――」

「ほう、それはいい。実にいいね」

 割り込んできた男は、立ち上がろうとした一同を押さえる仕草をして、玲亜の隣に座った。

「君も来たまえ、六角」

 悪魔と取引でもしたのだろうか? 年は四十半ばと聞いていた。が、紅茶を含む顔のどこにもしわ、シミ、肉のたるみがない。年齢を感じさせるのは部屋と同じく、白一色に覆われた頭髪だけだ。

 部屋の主は腰を奥に沈め、ティーカップをくわえる。

 その隣に、どっかと六角が座った。ちょうど梓真の真向かいだ。

 かちゃり。

 男はカップを置いた。そして粘り気のある視線を梓真に送る。

「君にはぜひ、教え子に加わってほしいね」

「俺を? どうして?」

「それはもちろん、我が恩師、加瀬太一郎教授のご子息だからだ」

「……」

「自己紹介をしていなかったな。ここで教鞭を執る広敷弘夢という者だ」

 男は右手を差し出す。梓真は握るしかなかった。

「お父君が身を隠され――」

 やたら強調した気がする。

「その研究はわたしが引き継がせてもらっている」

「……」

「しかしもどかしいことに、あの方ほどの才を、わたしは欠片ほどしか持ち合わせていない。恥ずかしながら行き詰まっていてね」

「……」

「才と言ったが、研究における才とは、ひらめきを指すのだ。それが君にも受け継がれているのではと、そう期待しているのだよ」

 聴くに堪えない。梓真には、父への賛辞や自分への世辞より、もっと訊きたいことがあった。

「親父の……」

「うん?」

「父の行方をご存じじゃないですか?」

「……ふむ」

 広敷の平板な顔が、初めて感情の片鱗をうかがわせる。

「噂、くらいは……」

「……どんな?」

「某国への亡命、誘拐と軟禁、あとは……自殺、とか」

 穏やかではない言葉の数々は、広敷の容赦ない口調と相まって、誰もが言葉を失った。

 ただ、梓真だけは事情が違う。

 驚きより落胆が大きい。広敷の話はネットの噂と大差なく、どれも、とっくに彼の耳に届いている。

「あ、あの……」

 空気を読まず、真琴が口を開いた。

「あっ……彼のお父さんの、その、脳に装置を付ける?研究って、そんな大それたものなんですか? 冗……談ですよね? 誘拐とか、亡命とか……」

「そうですね。どう言えばわかってもらえるか……」

 広敷はいちど言葉を切り、

「誤解してほしくないのは、加瀬教授やわたしの研究は、人々を幸福に導くものと断言できます。しかし使い方により、薬は毒へと変わる。これは科学全般に言えることだがね。航空機、ロケット、放射線。……遡れば火薬もそうか」

 梓真はじれた。実体を後回しに、解釈論を前置きしたからだ。

 輝矢も同様らしく、

「危険なものなんですか?」

「プログラムの変更で、別の個人パーソナリティーを植え付けることができる」

「……!」

「いや、将来的にその可能性がある、というだけだ。言っただろう? 研究は停滞していると。しかしそもそもこの研究の本質は、脳機能の欠落を補填するものだ。自我を失った障碍者には、それに変わるものを与える必要がある。個人を植え付けるとはそういう意味だ」

「研究は、どこまで?」

 またしても輝矢だ。

「猿より賢いマウスを誕生させたが、そこまでだ。未だ脳機能の欠落を補うには至っていない。どだい、ハードウェアによるソフトウェアの補填には無理があるのだ。といって、遺伝子による脳細胞の培養は禁止されているし……」

 “魂の座“の遺伝子的複製を、公言できる国は存在していない。もっとも、隠密裏には行われているだろうが。

「でも、教授――」

 口を挟もうとした玲亜に、広敷は口に指を立てて見せた。

「もしかして、アレを喋ろうとしていないかね。アレは部外秘だよ」

「……ごめんなさい」

「もっとも、いずれこの研究室に来るというのであれば明かしてもいいが。……阿澄くんと言ったかな」

「はい……?」

「君も梓真くんに劣らず将来性がありそうだ。わたしの研究に興味が?」

「いえ……はい、ただの興味です」

「ふふ。……さて、雑談はこのくらいにして、そろそろ明日の予定について話したいのですが。先生、どうです?」

「え……ええ、もちろん」


「じゃあ、名残惜しいけどこれでバイバイね」

「くれぐれも夜更かしするなよ」

「えー、せっかく理緒ちゃんと二人きりの夜なのにー」

「頼むから! 運転できるのおまえだけなんだから!」

「むー。あっくんには理緒ちゃんの本命の人、教えてあげないから」

「本命? 先生、テキトー言うのやめてくださいよ!」

「うふ、これから聞き出しちゃうから。……じゃね、お二人さん。……ほら理緒ちゃんも、バイバイって」

「……お休みなさい」

「おっおう」

「お休み」

 輝矢も手を振る。

 そして女子二人は男部屋から退散した。

「やれやれ。……そっちはどうだ?」

「異常なし。どうする? オートメンテは?」

「いいだろ明日で。駐車場で物音したら、旅館の人びっくりすんだろ」

「そりゃそうだ」

「……あいつらも、ゆっくりしたいだろうし」

「かもね」

 微笑を浮かべた輝矢は、何か思いついたように立ち上がり、

「……ちょっといいかい?」

 と照明の紐に手をかけて、小部屋を暗闇に変えた。

(おいおい……)

 まさか――

 そうだったのか――

 などなど、梓真はアブナイ想像を巡らせる。

 けれど輝矢は早とちりする彼をよそに、一人ベランダへと歩き出した。

 梓真は安堵のため息を吐いた。

 窓からほのかな明かりが差し、それを頼りに追いかける。

 すると突然、彼を星空が包んだ。

 視界すべてに星の世界が広がっていた。

「……」

 眼下は湖。揺れる水面みなもが夜空を映し、二つとない美景を生んでいた。

 夢幻の星屑に見惚れることしばし。魔法の解けた梓真は、ラップトップの背を外に向けている輝矢を見つけた。

「環境データを入れとかないとね」

 その言い回しだと、映像をリアルタイムでマルスたちに送信しているのだろう。小旅行の思い出をお裾分けしているのだ。感情を持たない彼らに、どんな影響を与えるかはわからないが。

「梓真……」

「ん?」

「思い出したよ。僕、前に広敷教授を見たことがある」

「そう……なのか。いつだよ?」

「梓真が入院してた時だよ。君は……記憶にないだろうね」

 つまり、梓真の意識がなかった頃だ。

「そうか……」

「お父さん――加瀬先生と何か話し込んでた」

「よそうぜ、あいつの話は」

「ふふ。夕食のお誘い、しつこかったね」

「ったくよお。その上、あの六角とかまで来た日にゃあ……」

「あはは」

(……それより今は……)

 梓真は夜景に目を戻した。

 二人にとって星空は特別な意味があった。忘れもしない、小学四年の初夏のことだ。

 ある日、母が不思議なことを言い出した。

「お父さんのお使い、手伝ってくれないかな? 望遠鏡、病院まで持ってきてほしいんだって」

 それは自分でなければダメなのだろうか?――そんな疑問を浮かべながらも、梓真は言いつけに従った。そこには、大好きな父とマルスたちがいたから。

 お役御免となったマルスたち第一世代機械歩兵は、研究用として各所の科学者の下へと送られていた。父・太一郎は脳とAIリンクを研究する第一人者だ。

 姉と妹に留守を任せ、病院にたどり着いた頃には日が暮れていた。さらに父の指示で屋上へと向かう。

 そこには、少年が夜空を見上げていた。

「これ、持って行くように言われたんだけど……」

 少年は何も言わない。梓真は歩み寄って、

「これの組み立て方、わかるか?」

 首を振る少年。

「じゃ、俺がやってやる。ちょっと待ってろ」

「……」

「おまえ、何歳?」

「……十」

「じゃ、俺のが一つ年上だな。名前は?」

「……あすみ、てるや」

「俺は加瀬梓真。よろしくな」

 ノリで差し出した手を、少年はおずおずと握り返した。

 思い返すと、少し恥ずかしい。

(くそ、全部親父のせいだぞ……)

 父の指示は望遠鏡をダシに、とにかく話しかけること。彼の素性や何故こうしているかは聞かされなかった。

「梓真」

 現実の輝矢の声に、梓真が我に返る。

「星川市で事件だ」

 深刻な顔をモニターの光が照らしている。

「ネットに出るほどの? ウチも都会なみに物騒になったな」

 オルターは犯罪抑止のシステムでもある。

 その普及率が地域の治安向上と相関関係にあることは統計からも明らかだ。星川市はまさにその代表例であり、なぜ立て続けに事件が発生するのか。

 記事によれば――

 “早朝、市役所前交差点近くの植え込みで破壊されたオルターが見つかる。AIがないことから、警察は先週の事件と同一犯と見て、事件の捜査に当たっている“

 その付近には、洋服店や飲食店、それにイベントスペースなどもあり、月に一度は訪れる場所だ。

 あの時も思った。

(いったい、どうやって……)

 オルターは今でこそ総合的防犯システムとして機能しているが、導入当初は彼ら自身が犯罪行為の対象となっていた。どれほど強靱であっても、それを無効化する手段はいくらでも存在する。カメラを塞ぎワイヤーで絡めたり、あるいは弱者を装っておびき出し罠にはめたり、など。

 それらの物理的セキュリティーホールを塞ぐ形で録画、相互監視、無線による通報と、オルターの保安システムは構築されてきた。

「こっちに関連記事がある」

 輝矢はリンクを押した。

「オルターキラー?」

 その文字には見覚えがあったが、梓真はあえて触れないようにしていた。

「東京で同じような事件が連続してあったんだよ。手口はほとんど一緒だ」

 リンク先には事件が複数、羅列されていた。段落ごとに地名はすべて違うが、破壊、頭部、AI、目に付く文字はあの日の出来事を連想させる。

 では、オルターを狩る動機はなんだろう?

 警察、監視カメラ、ボディーガード。

 犯罪抑止そのものに不快を感じる輩がいなくなることはない。根本にあるのは抑圧やモラルへの嫌悪、反発だ。

 梓真は事件に不安を覚えながらも、かすかな興奮を感じていた。

 そう、この時点ではまだ他人事でいられたのだ。

 それが輝矢の言葉で覆る。

「最初の記事、あの犠牲になったオルターは僕の知り合いだよ」

「……なんだって……?」

 反射的に答えるも、その意味を理解するまでに至らない。続く言葉でようやく、だった。

「別のリンクに、被害を受けたオルターの詳しい情報が上がってる。写真もあるよ。……ほらこれ、僕の行くカットハウスの前掛けだ。たぶんあの娘だ」

 画像のオルターは植木に倒れ込み、不自然に片手を伸ばして硬直していた。

 そこは大手のカットハウスで、理容専門のオルターがいることで知られている。もちろん梓真が利用するわけもないが、ここで輝矢と別れたことは記憶に新しい。つい先日、十日ほど前のことだ。

 輝矢を親しげに迎えたオルターを苦々しく見守った覚えがある。彼女だろうか。

 夜風が首筋を撫でた。悪寒が走る。

 狭い町のことだ。もちろん偶然だろう。

「ごめん……」

 ぱたん、と唐突にラップトップが閉じ、梓真はまた闇の中に放り込まれた。

「なんだよ?」

「こんなの、今見なくたって……」

 漆黒にゆっくりと、幼なじみの顔が浮かび上がる。

 その双眸はあの日と同じように星空に魅入られていた。

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