僕が配信者を続ける理由

桜部遥

僕が配信者を続ける理由

二十一世紀に入って、インターネットが世界中に普及した。

それは、日本も例外では無く、今や生活の一部になっている。

そんな日々の中で、ある職業が光を浴びていた。


ーー『配信者』。


ネットを通じて様々な娯楽を配信する職業。

その特徴は、どんな年代の者にでも、配信者になれるという事。


そして、現代の高校生の多くが配信者として活動している。


もちろん、僕も。



「・・・・・・アーカイブの再生回数、昨日より伸びてるなぁ。」


学校までの道のり、電車の中でスマホをいじる。

僕は、どこにでも居る高校生、柊新太。

見た目も中身もぱっとしない男だ。

けれど、そんな僕にも秘密はある。

それは、僕が配信者だと言うこと。

「あ、コメント来てる。」

あるアプリで、顔出し無しの配信をする僕だが、実はそこそこの知名度だったりする。

アプリでのフォロワーは一万二千。

高校生の中では、かなりいる方だ。

とは言っても・・・・・・。


「こいつまだいたのかよ。死ね、人間の恥。暴言厨おつ・・・・・・。」


そのほとんどはアンチ、だけど。



電車が止まると、プシューという音と共にドアが開く。

大勢の人が電車に入ってくる。そして、その人ごみの中には、見覚えのある人影も見えた。

「あ、おはよう。新太。」

「おはよう、ミチル。」

須川ミチル。僕のクラスメイト。

すらっとした体に、栗色のボブ。スカートから見える真っ白な肌は通り過ぎる人を魅了させた。

一言でいるのなら、美少女。

「そうだ、昨日の配信見たよー。相変わらず叩かれてたねぇ。」


それから、彼女は唯一僕の秘密を知っている。


「にしても、酷い言われようだね。昨日の配信でのコメント、その八割は新太への誹謗中傷だもんね。」

彼女が見せてくる、昨日の配信。

スマートフォン向けのFPSの画面がそこには映されていた。

音が無くても思い出す。この時の自分を。


『マジで味方雑魚。こいつらいらねーよ。っつーかセンスない。早くやめた方がいいわ。』


そう、配信者としての僕はいつも暴言を吐いている。

だからこそ、嫌われているというのもある。

僕を叩いている視聴者の半数は、面白半分なのだろう。

けれど、そのコメントをどういう感情で送信しているかなんて関係ない。

流れてくる文字に、感情も何もありはしないのだから。

たまにコメントでも聞かれる事がある。


『配信者をやめたいと思った事は無いのですか?』


僕だって、やめられるなら、とっくにやめているさ。

それでも僕が、配信者を続けている理由はただ一つ。


「可愛そうだね、新太は。こんなに嫌われてて可愛そう。」


目の前の彼女は、ニヤリと笑う。


「なら私が慰めてあげなくちゃね。新太の事全部知ってるのは、私だけだから。」


僕は、彼女の瞳に囚われている。

僕の事を哀れみ、蔑んで、愉しんでいる瞳。

もう、僕は彼女無しではいられない。


僕が配信者を続けている理由、それは彼女に慰めてもらう為、なんて言ったら君はどう思う?


僕はそんなどうしようも無いほど、彼女がいないと生きていけない、哀れな人間なのだ。


そして明日も僕は、配信者としてアンチに叩かれる。

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