第5話  少年

 机の上で胡坐あぐらを掻いてって何時も思うけれどどんだけ図々しい奴……座っているのは、やや焦げた食パンの様な褐色の肌に茶色のふさふさとした髪に煌めくエメラルドグリーンの瞳を持つやや痩せっぽっちの少年。


 名前はサミュエル・ティンカーと言い今より二ヶ月前、ラインフェルト公国ここから南に位置するナディレン王国からほぼほぼ行き倒れ状態の所を私とトリシャが偶然見つけて治療をしたら直ぐに元気になったのだ。


 まぁ、当たり前だけれど……。


 ところが元気になって帰るかと思えばである。

 母親が不治の病だからこの国で勉強をして白魔導師となって母を治したいって言うんだけどさぁ、普通だったらなんて健気な少年なのでしょうって感激しちゃって雨霰状態になるかもしれないなんだけれど、やっぱ35年も生きているとそこの所に思わず突っ込み入れたくなっちゃったのよね。


 あんた白魔導師アルブス・マギカになるって言うけれど一体何年かかると思ってるん?

 そんなに人生は甘くもないし母親が不治の病って……どんな病で今どんな状態なん?

 抑々そもそも最寄りの治療師にちゃんと診て貰ったん?


 最後にあんたが突然姿を消せばきっと、いやそこはもう絶対にお母さんはめっちゃ心配をしているだろうし、病気のお母さんのお世話しないといけないんちゃうのかって?


 回復して間もない本人へ思いっきり言ってしまった。


 大体白魔導師だってそんなに直ぐ一年や二年なんかで簡単になれるもんじゃないし、ましてや医療に精通した魔導師だったら普通に十年単位だよ。

 まあそこは本人の才能と努力と運……も無きにしろあらずだ。

 だけど何故かサミュエル君は今もラインフェルトに居座ってる。

 然も今では私の自称にまでなっちゃってるし。


 私より一つ年下の14歳の男の子。

 私の兄様セディーとの精神年齢差は余り感じられない。

 なんか弟が一人増えた感がするし……。


 また彼は性格も明るく無邪気で、施設でも患者さんや職員問わず人気も高い。

 白魔導師になるならばだけれど兎に角故国の母君にはラインフェルトから医療魔導師レメディウム・マギカを差し向かわせるからちゃんと見て貰ってと言ったらさ。


「今は状態は安定しているから大丈夫だよ。看てくれる人もちゃんといるから……」


 怪しい。

 サミュエル君あんた、絶対に何かを隠しているね。

 で医療魔導師を送ったると言ってんのに、何でそうあからさまに断る?


 それとも何だ。

 って言葉を知っているの??


 いやいや幾ら私でも自分より年下の少年と病気の母親から金銭を搾取する程悪役じゃあないっっ。

 それに35年生きている間に犯した犯罪なんて原付のスピード違反……くらいだよ。

 まあ大体生きていて本当に何も罪を犯していないって人の方が少ないと言うよりもっ、そんな善人様が存在するのだろうか。


 そうして何だかんだとお話をした結果、取り敢えず彼には白魔導の基本でもあるマナの恵みから勉強をして貰う為に学校へ入学させる事にした。

 勿論そこは私ので。

 うん、本気で白魔導師になるのかは兎に角として……。


 行き倒れを助けたのも何かの縁かも……しれない。


 それにまだ子供とは言えよ。

 手に職を持たない男は結婚する資格はない!!

 ちゃんと妻子を養えなくては将来一家の大黒柱にもなれないだろうしね。


 まあ奥さんが共働きでもいいって言うならばいいけれど。

 でも、私の手元へ来たのならばちゃんと立派に成人させてやりたいしね。

 これって所謂……って奴ですかね。


 トリシャも何だかんだと文句を言ったけれども最後はちゃんと了承してくれたし、何か曰くありげだけれどもそこはもう仕方ないっかぁ。


 ――――っておい、その学校はどうしたの?

 今は午前中で普通に学校でお勉強の時間じゃあなかったっけ、サム?

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