番外編 年明けの憂鬱

 明けてしまった。新たなる年が。


 毎年のように、年末になると今年はもしかしたら明けないのではないか?という自分なりの希望的観測があるのだが、やっぱり明けた。

 何がめでたいのかみんな揃って、

「明けましておめでとうございます」

 と明けた瞬間に洗脳されたかのように言い放ち、神に祈りを捧げていた。

 冬休みに入ってから、一度も外に出ることなく、窓の外の景色を眺めては、冬休みの短さに若干の苛立ちを覚えていた。

 学校から出された宿題は既に終わらせている。家で学校に関することを考えるのは拷問であると僕自身が確信しているので、それを防ぐためだけに終わらせた。

 向上心あってのものではない。


 母親は何やら着飾ってどこかへ出掛けるようだった。紅色のコートがどこにあるか知らないかと聞かれたが、知らなかったので、

「いつものパーカーでいいじゃん」

 と言ったら、舌打ちだけされてお年玉の袋を無言で渡された。

 袋の裏側には『やまと銀行』と記載されていたが、変わったデザインの袋だなと思うことにした。


 今は家に一人だ。そろそろオンラインゲームにも飽きてしまい、別の娯楽に移ろうと思っていた。部屋を見渡すと、一世代前の家庭用ゲーム機が目に入った。

 ホコリを被ったゲーム機を棚から下ろし、起動できるかどうか確認する。

 テレビに浮かび上がるゲーム画面と安っぽい音楽が妙に心を躍らせた。

 コントローラーも今のものに比べると手にフィットしないし、ボタンの反応も悪い。何より、ゲームの趣旨がよく分からないから自分が何をクリアしてこれから何をしなければならないのか全くわからなかった。

 だが、何故かこの感覚はどこか普段の生活とリンクするものがあった。

 自分のやらなければならないこと、何をしたいのか、今どこにいるのか。何より、自分自身の操作方法を自分でいまいちよく分かっていない。

 自分自身と重ね合わせながらゲームをプレイしているうちにいつの間にか時計の針は夜の十二時を回っていた。

 ゲームはクライマックスを迎えようとしている。主人公が最後の敵を倒し、何故かわからないが、主人公も最終的に死ぬという斬新なストーリーに僕は一ミリも心を動かされなかった。

 

 

 

 一月二日、新たに始まった年は既に二日目に突入している。

 エンドロールが流れ終わった画面には最後に主人公の顔のバックに汚い画質で太陽が浮かび上がった。

 これが初日の出か。。。

 ゲームを片付け、お腹が空いていることに気がつく。

 コンビニでも行くか。

 僕は『やまと銀行』のお年玉袋を握りしめ、いつものパーカーを羽織った。

 またどうせすぐ終わるんだろうな。

 

 明けたばかりの年の終わりを、僕は確実に予感していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

通学路の憂鬱 とむらうめろん @kotobuki333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ