三日目 コンビニの憂鬱

 どうしたものかと。

 朝ご飯を食べたはずなのに、お腹が空いてしょうがない。

 珍しく早く起きて家を出てきたのにこれでは昼まで持たないではないか。

 歩幅が少し狭くなる。少し行ったところにコンビニがある。そこで何か食べるものを買ってもいいがどうしよう。

 財布には十分お金は入っているし、電車も定期券があるからお金の心配もしなくていい。

 だが、心配する点があるとすれば、あそこのコンビニは中学の同級生に会う確率がかなり高いということだ。

 高校に行ってからは会ってない、しかも中学時代にもそれほど親しくなかった同級生に会うことだけは絶対に避けたい。

 高校デビューと称して若干髪型をオシャレ?にしている同級生の顔を見るのは反吐が出るし、挨拶などされようものなら、雑誌コーナーの厚めの月刊誌で殴ってしまうところだ。

 ただ、お腹は空いている。これまでにないほどにだ。

 このまま行くと2時間目の持久走に響くと判断した僕は仕方なく、コンビニの前へと急いだ。



 駐車場だけやけに広いコンビニは、落ちているペットボトルの汚さを誰もが見てみぬふりをして堂々と小さく建っていた。

 とりあえず、大丈夫だろう。

 軽く店内を外から確認して自分に言い聞かせる。

 プライベートで来るコンビニと制服を着て来るコンビニではなぜこんなにも緊張感が違うのだろう。

 制服には不思議な力がある。

 皆同じものを着ているにも関わらず、その個性は隠し切ることができない。同じ素材を使っているはずなのにこのステータスの差は何なのだろうか。

 ネクタイを結び直す。準備はバッチリだ。

 同級生がいたときのためにそれ用のセリフもバッチリ自分の中に用意してある。大丈夫。僕なら成し遂げられる。

 自動のドアを若干手動気味で開け、まず飲み物コーナーへ急ぐ。

 無難な麦茶を選び、本題であるおにぎりコーナーへ。

 からあげ。鮭。昆布。ツナマヨなと、様々なレギュラーメンバーに加え、バナナ。トマト。クリームチーズなど、必ずいなくなるであろう変わり種まで様々だ。

 僕はからあげとクリームチーズを手に取り、レジへと向かった。

 朝ということもあり出勤前のサラリーマンが僕の前に並んでいる。後はお金を払うだけ。

 サラリーマンが骨なしチキンを3個も頼んでいるのを見て、こいつはやり手だな。と思える余裕もある。大丈夫だ。

 僕の番が来た。おにぎりと麦茶をカウンターに置き、骨なしチキンを頼む。

 財布を取り出した僕の手は少し汗ばんでいたけれどもう怖くない。

 お釣りを受け取った僕は素早い動作でリュックに商品を入れてコンビニを出ようとした。

 しかし、視界の端に見たことのある骨格が入り込んでくる。これは。。

 初恋の相手。澤田さんだった。

 当時からその存在感を放っていた容姿は更に磨きをかけ、コンビニという日常をすべて否定するかのような非日常感をまんべんなく発揮していた。

 初恋の相手が、その時以上の輝きを放っていることに感動しつつも、何も変わっていない自分に頭を抱えたい思いでいっぱいだった。

 澤田さんは何やらお菓子のコーナーで悩んでいるようだ。女子っぽい。

 とりあえずいちご味のものでも買っておけばいいのに。

 女子=いちご、という自分の概念に疑問を抱きながらも澤田さんを目で追っていた。

 でも、そろそろ行かなくては。

 このままでは電車の時間に間に合わない。店のドアを開けようとしたとき、背の高い美男子が店内に入って来た。

 目線の高さ的に180の後半はあるだろう。美男子は何を思ったか、澤田さんの前へと足を運ぶ。

 澤田さんはそんなに安くはない。

 澤田さんと一言も話したことがない僕の気持ちとは裏腹に美男子は澤田さんの肩を叩いた。

「あ、和希くん!」

 僕に見せることのない笑顔を見せた澤田さんは和希くんとやらに抱きつき、一緒にレジに向かった。

 何もなかったかのように僕は店を出た。

 今日の空ってこんなにきれいだったっけ?

 

 僕は駅に着くまでに買った骨なしチキンを3つ、涙をこらえて食べきった。

 電車で食べたクリームチーズ入りのおにぎりからはなぜか、いちごの味がしたのは気のせいかもしれない。

 

 

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