第三章 未知なるもの9

「……そうなると、あやしいのはルベールと一緒にいたあの男ということか」

「そうだ」


 しかし、ルベールに直接聞くこともはばかられる。

 もしも男になにか目的があってルベールに近づいたのだとすれば、こちらの動きが向こうにばれるのは非常にまずい。


「だが、どうするつもりなんだ?」

「問題はそこだ……」


 いくらカメリアが妹であるとは言え、始終ルベールと一緒にいるわけにもいかない。むしろカメリアが動けば、間違いなく相手は警戒するだろう。


(そうなれば……)

「お前が兄上を守れ」

「俺が守ると言ってもどうするつもりだ。下手に動けば警戒されるだけだろう」

「逆に今のこの状況を利用すればいい」

「なるほど……俺に注意をひかせる計画か」

「話が早くて助かる」


 そうすればルベールの注意は自然とセロイスへ向き、男も不用意にルベールに手出しをすることは出来ないだろう。しかしカメリアの考えはこれだけではなかった。


「そしてお前も兄上を追いかけるんだ」

「俺もルベールを追いかけるのか?」

「あぁ。その方が何かと都合がいい」


 妹を奪った男を追いかける兄に妹との結婚を許してもらうべく兄を追いかける男。

 そんな構図が自然とできあがる。

 そうすればふたりが一緒にいても、それを不思議に思う者はいない。

 

(それにルベールと共に過ごす時間が増えれば、セロイスにも告白の機会は巡ってくるだろう)


 カメリアにはそんな考えもあった。

 仮にルベールとあの男が恋人同士だとしても、カメリアよりもセロイスがルベールのそばにいた方が男の余裕や計画を崩せるはずだ。


「俺がルベールのそばにいる間、お前はどうするんだ?」

「私は男について調べてみる」


 ルベールをセロイスに任せれば、その間にカメリアは不審な男とルベールと共にいた男について調べることも出来る。

 不審な男とルベールと一緒にいた男は何らかの関係があるのか。

 それとも、ただの偶然なのか。


(それにあの笑みも偶然だったのかどうか……)

あの時のことを思い出して黙り込んだカメリアにセロイスは声をかけた。


「何か気になることでもあったのか?」

「いや、何でもない……とにかく、兄上のことを頼んだぞ」

 カメリアはベッドから立ち上がると、ドアの方へと向かった。

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