第二章 そして王子は逃亡する7
一方、ルベールと別れたカメリアはセロイスに腕を引かれたまま、城の廊下を歩いていた。
(なんなんだ、これは……)
いい加減に手を離してほしいなど、カメリアがセロイスに言いたいことは色々あるが、背中から不機嫌さがにじみ出ているセロイスに声をかけることははばかられた。
(それにあんなところを見られてはな)
ルベールが妹であるカメリアを可愛がり大事にしているのは今に始まったことではないが、あそこまでだとはさすがのカメリアも思っていなかった。
(待てよ……だとすると、セロイスにとって恋のライバルは私ということになるのか……?)
セロイスがどう思っているのかはわからないが、そう考えると不機嫌さや先程の言動の理由も理解できる。
(意外だな……)
カメリアが知るセロイスはいつも冷静で口数も多くはない。そんなところがクールでかっこいいと女性達から人気が高いことも知っている。
そんなセロイスが恋をしていることを知った時にも驚いたが、ルベールの妹であるカメリアに嫉妬していることにもひどく驚いた。
(今のセロイスは冷静と言うには程遠いな)
すれちがう者達はこちら見た途端、まるで見てはいけないものを見たかのように目を反らして足早に通り過ぎていく。
(だが、このままだとさすがにまずい……)
セロイスの表情は見えないが、すれちがう者達の反応で想像はできる。
感情を顔に出すことのないセロイスが不機嫌さを隠さずにいれば、なにがあったのだと怯えても仕方ない。
恐らくセロイス本人は無意識だろうが、そんなセロイスに脅えている者部達がいることもまた事実だ。
カメリアは周囲に人がいないことを確認すると口を開いた。
「おい」
「何だ?」
「その……悪かったな」
「何がだ?」
そこでようやくセロイスは歩みを止めて、カメリアを見た。
話をするなら今しかないと、カメリアは一気にたたみかけた。
「兄上に悪気はまったくないんだ! ただ幼い頃からの癖と言えばいいのか……とにかく何度もやめるようにとは言っているんだが、全然直してくれなくて、そんな兄上に私もどうしたものかと困っているくらいで……だから兄上に他意は何もないんだ! もちろん私にも他意はない! 兄上から私にあるのは少しばかり大きくて重い家族への愛なんだ!!」
そこは間違えてもらっては困るとカメリアが力説した言葉を聞き終えたセロイスはひどく不思議そうな顔をしてカメリアにたずねてきた。
「……それで?」
「それでって、嫉妬したんだろう?」
「嫉妬というのは誰に対してだ?」
「誰にって、私に対して嫉妬したから不機嫌なんじゃないのか?」
「不機嫌……? 俺がか?」
(驚きたいのはこっちだ!)
カメリアの言葉に驚くセロイスに、カメリアは思わずそう叫びたくなった。
「お前、気づいていなかったのか?」
「あぁ、言われるまで気づかなかった。それにお前の手を引いたままだったことも……すまなかったな」
セロイスはようやくカメリアから手を離した。
「私は気にしていない。少なからず動揺したんじゃないのか。好きな相手が妹とは言え、別の誰かをかまっているところを見て」
「そういうものなのか」
「私に聞くな! 恋をしたことのない私にわかるわけないだろう!」
「そうか……」
再び歩き出したセロイスはどこか戸惑っているように感じた。
(恋とはこうも人を変えてしまうものなのか……)
「……恐ろしいな」
「なにか言ったか?」
「いや、なんでもない……」
(私は絶対に恋などしない。してなるものか)
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