第21話 プロFPSプレイヤー VS 在日米軍

◆ まえがき

 このページの最後にあらすじを載せるので、FPSパートに興味のない方は、下までスクロールしてください。

 このエピソードは6000文字分、ひたすらプロプレイヤーと在日米軍が戦います。



◆ 本編 


 在日米軍チームとBoDのプロゲーマーチームが対戦する。


 マップは熱帯地方の密林にある町。

 大きな葉っぱの樹木が並ぶ隙間に、木造の集落がぽつぽつと点在している。


 米軍チームの操作する兵員輸送車両が荒れた道路の泥水を跳ねながら走る。


 車両が集落に到達すると兵士達が降り、周囲に素早く銃口を巡らせた。

 全員が別の方向を見て、死角をなくしている。

 各々が警戒すべき範囲を事前に取り決めてあるようだ。


 ゲーム開始直後に迅速に行動しているので、この拠点Cで在日米軍チームがプロチームと遭遇する可能性はない。

 しかし、米軍プレイヤーには油断が一切なかった。


 中継モニターが切り替わりプレイヤーの様子が映る。

 米軍チームは全員が野戦服を着ていて、銃型コントローラーを構えている。

 完全に、ホンモノだ。


 僕は気付いたら椅子から腰を上げていたので、息を吐きながら座り直す。


「なにこれ、ただ拠点を制圧しただけなのにヤバイくらい上手い気がする。ゲームと同じ動きじゃん。っていうか、ゲームが実際に兵士の動きを再現しているんだから、軍人は動きが同じで当然なの? あっ!」


 集落からやや外れた鬱蒼とした林の中で銃撃戦が始まった。


「さすがにゲームだから、撃ち合いならプロゲーマーの方が強いと思うけど……」


 プロゲーマーチームが張る弾幕を前にして、米軍の兵士が身動き取れないでいる。

 と思ったら、別の分隊がプロゲーマーチームの横に回りこんでいた。


「うわ。すげ……。皆が好き勝手に動くオンライン対戦じゃ、絶対に見ることのない連携だ……。四人組の分隊が二つ、完璧に連携して動いている。……あれ? 米軍チームってボイスチャット使ってない? 相手チームに行動がバレないようにしているんだろうけど、なんで無言なのに連携できてるの?」


「指、指」


 アリサが指を二本立てて、空中でくるくると円を描く。

 はっとしてモニターを見ると、米兵が拳を振ったかと思ったら掌を仲間に向けている。

 その動きに合わせて米軍の一分隊が前進し、停止する。

 そして、その間、別の分隊が敵に向けて射撃。


「え、なにこれ。映画じゃん。まさか、アレで連携しているの?」


「うん。多分、あの人達、ハンドシグナルでやりとりしてるよ」


 アリサが驚いた様子もなく呟いた。


「マジで?」


 モーションコントローラーなら指先の動きまで再現できるとはいえ、まさか、実演するプレイヤーがいるとは思いもしなかった。

 ハンドシグナルの機能って、アメリカンキッズが中指を立てて敵プレイヤーを挑発するための機能だと思ってた……。


 単純な方向の指示さえ失敗していた僕とアリサが、在日米軍チームみたいにハンドシグナルでやりとりができるだろうか。


 そっと隣の少女を窺った。

 試合にあまり興味がないのか、欠伸をしている。


 試合に意識を戻すと映像が切り替わって、解説者の芸人が映った。


『おっ。在日米軍チームの陣形が乱れていますね。バラバラに動いていますよ。これではBoDプロプレイヤーチームに各個撃破されるでしょう』


 駄目だ、こいつ、何も分かってない。

 仲間と間隔を開けるのは、爆発物による一度の攻撃で全滅しないようにしているからだ。また、等間隔に並ぶよりも敵に見つかりにくいという利点もある。


「あの解説。移動の鉄則を分かってない……」


 在日米軍チームは一見バラバラに見えるけど、全員が同じ目標に向かっている。

 二つの分隊が交互に射撃と移動を繰り返して、火線がとぎれることなく、有利な位置に移動している。

 しかも、ちゃんとゲームシステムを理解しているらしく、分隊内の兵科がばらけている。


「やっべ、勝てないって、こんなの。引き付ける役と、回りこむ役が完璧に連携している。やっぱホンモノは、違う……。立ち回りは勝てそうにもないんだけど……」


 一応、僕だってⅡを何年も遊んでいたんだから、一対一なら簡単には負けないつもりだ。

 いくら相手が軍人だろうと、BoDはゲームだ。

 撃ち合いになれば勝てる……と思う。


 けど、12対12だと手も足も出ないはずだ。

 おそらく、一対一という状況を作れない。

 常に一対多を強いられるはずだ。


 在日米軍チームが二つの拠点を制圧しているので、得点は72対11と大きく開く。


「無理に三つめの旗を獲りに行かず、確実に二つを護っている……。指揮官がきちんと命令を出して、部隊が纏まっているんだ。……まさか、BoDのプロチームがこうも一方的に追い込まれるなんて……」


 普通のオンライン対戦だと、とにかく全員が最前線に向かって走るから、制圧済みの拠点はがら空きになることが多い。

 戦況が膠着せずに、常に全方位から射撃されるスリルはあるから、ゲームとしては面白いとも言えるけど……。


 ただ、今日みたいに勝敗が重要視される場面ではやはり、チームでは戦術を共有して、しっかりと要所を護るべきだろう。


 芸能人が「おおっ」という驚愕の声を上げ、映像がプロゲーマーのモニター映像に切り替わった。


 立ち止まり狙撃銃のスコープを覗きこむと、景色が12倍に拡大。

 スモークが炊かれているため、画面は灰色に染まっている。


 だが一瞬、画面中央やや右に敵兵士の頭部が映る。


 ズドッと発射音が響き、プレイヤーは着弾を観測せず、即座に木の陰に身を潜めた。


 キルログには狙撃銃で敵を倒したと表示された。

 狙撃手は、敵兵士がどれだけ移動するか未来位置を予測し、さらに弾が落下する高さも考慮して射撃し、当てたのだ。


「あっ、この狙撃兵、偏差射撃が上手い。スモークで視界が悪いのに当てた。プロ、凄え……」


 狙撃兵が次々と在日米軍チームを倒していく。


「さっきまでは密林に隠れてた? 戦況が不利になって、前線に出てきたのか。あ、また当てた」


 狙撃兵が橋の上に居た在日米軍チームを掃討すると、僅かだが戦況に変化が現れる。


 遮蔽物の少ない橋の上にふたりの突撃兵が防弾盾を構え、拠点を制圧開始。


「さすがプロ。やっぱり上手い。この狙撃兵、アリサほど前線には出てこないけど突砂か。突撃兵と歩調を合わせてるし、少し離れた位置から援護している衛生兵も上手いな。この四人組、あまり旗に絡んでいないけど、地味にいい味だしてる。連携完璧だ……」


 序盤では一方的に戦死していたプロ陣営が、徐々に押し返し始めた。


「飛び移れる屋根や、身体を隠せる茂みを知ってるって感じだなあ……。僕も後で攻略サイトで調べておかないと。テクニックだけでなく知識でも差が付いていると、勝ち目ないぞ……」


 狙撃兵が参戦してからは、プロゲーマーチームがマップ北の橋に続き、中央の集落を確保し続けて優勢に立った。


 三つ目の拠点、川沿いの船着き場を巡って一進一退。

 個人技能はプロチームが勝っている。

 

 ボートで移動してきた米兵をヘッドショットするという、まぐれだと思いたくなるような技が炸裂した。


 でも、プロだから実力でやったんだろうなあ……。

 オンライン人口2000万の中には居るんだよね、こういう変人。


 僕の知り合いにもいるよ、変人技量のプレイヤー。

 400メートル先で走っている兵士をヘッドショットしたり、ヘリのパイロットを撃ち殺したりする、変人。

 例えば、隣に座っている女の子。


「プロと互角に戦えるのはアリサくらいだろうな……。見たところ、プロチームの人はまだ油断しているというか、手加減しているというか、本気じゃない感じだし」


 手榴弾が、船着き場の小屋に居た在日米軍チーム兵をひとり倒した。

 直後、複数のRPGが命中して小屋が倒壊。


 プロゲーマーは敵を3キルしつつ、拠点内から敵を完全排除。


 これで全ての拠点がプロゲーマーチームのものになった。

 得点差は65対84まで追いつきつつある。


 僕は同じゲーマーとしてプロゲーマーチームの逆転に期待したけど、巻き返しは長く続かなかった。


 いくらプロチームが個人技で上回っていても、総合的には在日米軍チーム軍が上だった。


 たとえ狙撃兵が在日米軍チームを倒したとしても、次の弾を装填する数秒間で、別の在日米軍チーム兵が苛烈な反撃を加える。


 在日米軍チームは徹底して1対1の状況を作らずに、複数で対応している。

 結果として、プロチームは個人技能や少数での連携が突出していても、すぐに在日米軍チームに倒されていく。


 在日米軍チームはあっという間に北と橋を奪い返し、さらに中央の集落に東西から圧力をかける。


 たまにプロチームが連続してキルしていくが、戦況に大きな影響は出ない。

 大半は、在日米軍チームの連係攻撃がプロ兵に後退を強い、やがて押しつぶす。


 100ポイント先取ルールで、72対100。


 第1ラウンドは在日米軍チームの圧勝だった。

 第2ラウンドも在日米軍チームの優勢が続く。


「プロがあまり連携とれてない感じだけど、なんでだろう。米軍の連携が上手すぎるのかな? 陣地を入れ替えても、同じ展開になる?」


 序盤は第1ラウンドと同じような展開になった。

 だが、20対60あたりから、状況が一変し、急にプロゲーマーチームが優勢になった。


「おっ、でかい家の陰に地雷。よく米軍チームの動きを読み切ったな。まあ、中央の通路は待ち伏せが想定されるから、小道を移動するのはセオリーと言えばセオリーか」


 在日米軍チームの移動用車両は行く先々で地雷原に遭った。


「また地雷。凄い。完全に読みが的中している。攻撃が緩んだし、全拠点押さえたまま、本陣まで攻め上がれる?」


 けして多くはない道路は、ほぼ通行不能状態になり、在日米軍チームから機動力を奪った。

 川に沈めた地雷をRPGで起爆してボートを破壊する技も決まる。


「けど乗り物を殺しても、歩兵の連携を何とかしないと。おっ?」


 プロチームの突砂が1対4という敗北の見えた状況ですら、一方的に撃ち勝った。


「え? あれ?」


 歩兵同士の遭遇戦ではプロチームが数の不利を覆して、ことごとく撃ち勝つ。


 撃ち合いになればゲーマーの方が強いのは分かるけど、いくら何でも勝ちすぎじゃない?


「あれ? 今、ひとり目が撃ち殺された直後、米軍って反撃したよな?」


 米軍プレイヤーのGameEvent10がM16の三点バーストを三回撃ち、ヒットマークが三回出た。

 その直後、モニターが狙撃兵に切り替わったけど、ライフが70もある。


「あっ! こいつ、ゲーマーIDが[KR]だ! 午前中に僕達に絡んできた悪質プレイヤー!」


 米軍の連携ばかりに気を取られていた気付くのが遅れた。

 プロチームの突砂[KR]Ree001は、さっきの悪質プレイヤーだ!


 三点バーストが3回当たったのに30しか削ってない?


「確かに昨日数時間遊んだ感じだと、Ⅱよりアサルトライフルが弱体化していた気がするけど、胴体に3回当てて30しか削れないくらい弱体化した?」


 三点バーストなのにM16の集弾率が低くて一発しか当たらなかった?

 距離によるダメージ減衰が大きい?


 いや、でも、いくらなんでも三点バーストのアサルトライフルで三回当ててライフを30しか削れないって、ある?


 解説者は「プロチームの調子が上がってきた」とか「在日米軍チームの戦術を見抜いた」と分析しているようだが、何かがおかしい。


 まさか……。


「いやいや、いや、それは駄目でしょ」


 僕はキルログを見て、プロチームが突然有利になった理由を悟った。


「モニターが在日米軍チーム軍ばかり表示しているから、誰も気付いていないの? プロの代表、バグ技を使ってるんじゃないの?」


 バグ技とはゲームプログラムの隙を突き、本来なら不可能な結果を導くことだ。

 ソシャゲで例えるなら、資金やアイテムが増えたり、ゲームバランスが崩壊する大ダメージを与えたりする現象がバグだ。


 つまり、バグとはゲームの開発者が想定しない現象のこと。


「プロの突砂、リロキャンしてる。リロキャンはテクニックって言い張る人がいるけど、バグだろ。バレットを連射するなよ」


 リロキャンとはリロードキャンセルのことだ。

 突砂リーが使用しているバレットM95狙撃銃はボルトアクションを採用しているため、連射はできない。

 本来なら一発ごとに弾を装填し直す必要があるのだ。


 けど、リーはリロードキャンセルというバグ技で連射している。


 リロキャンはFPSの定番と言ってもいいバグ技だ。

 狙撃銃を撃った瞬間にハンドガンに持ち替えて、特定のタイミングで再び狙撃銃を持ち直すことにより弾が一瞬で装填されたり、足下に落ちている別の狙撃銃を拾って装備して発砲してまた拾い直したら弾が装填されていたり、様々な条件でリロードがキャンセルされる。


 それに、工兵がひとりなのに地雷が多すぎるのも怪しい。

 地雷の増殖バグをやってるヤツも居る?


 対戦車地雷はひとり三つまでしか設置できない。

 僕は全てのキルログを記憶している訳ではないが、読みが的中しているにしても、米軍チームの移動先にことごとく地雷が設置してあるのは不自然だ。


「全部の道路に置いてあるって、絶対におかしい。え、それとも、Ⅴって補給すれば四つ以上の地雷も設置できるの? 四つ以上設置したら一つ目が消えるんじゃないの?」


 スマホで攻略Wikiを調べても、工兵が設置できる地雷は三つまでで、四つ目からは消えると書いてある。


「バグじゃなくて、本当にプロゲーマーの読みが米軍に勝ってるの? 僕がバグだって決めつけているだけで、上手すぎるだけなの?」


 僕の困惑が伝わったはずもないが、米軍チームの動きが鈍りだす。

 さながら、泳ぎ疲れた漂流者のようだ。


 一方、プロゲーマーチームは水を得た魚、いや、サメだ。

 混乱する漂流者の間近に突然現れてはその横っ腹を食いちぎっていく。


 ついにプロチームは、米軍チームを出撃拠点にまで追いこみ、一切の反撃を許さないほどに、一方的な攻撃を加えた。


 第2ラウンド100対73。

 プロチームの逆転勝利。

 第3ラウンドのデスマッチでも、プロチームが終始優勢を維持し、勝利した。


「いや、バグ技のオンパレードじゃないの? Ⅴになってからリロキャンとか地雷増加とかってバグじゃなくて、普通に使えるの? 解説の芸能人、ゲーマーなんでしょ。何で気付かないの? 後半で明らかに傭兵チームの銃が当たってるのに、プロチーム、死んでなかったじゃん。Ⅳから導入されたスキルを使ってた? でも、大会ルールだと禁止じゃないの? イベント会場だから回線絞ったとも思えないけど、なんか、ラグアーマー着てなかった?」


 高速ダッシュとか壁すり抜けとか透視とかホーミングナイフとか視覚的に分かりやすいバグは使っていなかったみたいだけど、胡散臭い状況が多すぎる。


 それとも、僕の理解が及ばないほど高度なテクニックを使ってたの?


「あっ!」


 テレビ画面が切り替わり、見覚えのある不愉快な姿を映しだした。


 蛇を思わせる顔つきの男だ。


「間違いない。さっき絡んできた奴等だ……」


 モニターの向こうにいる蛇顔と目が合ったような気がし、殴られた場所がじくりと痛んだ。




◆ あとがき、という名の、今回のあらすじ


 在日米軍はゲーム中でハンドシグナルを用いて連携をとるという離れ業を披露。

 一糸乱れぬ行軍により、プロチームを圧倒する。

 在日米軍が第一ラウンドを圧勝し、第二ラウンドも優勢。

 しかし、途中からプロチームが反撃開始。急激に点差を縮めていく。

 中継を見ながらカズは違和感を抱く。

 プロチームは、バグ技を使ったチートをしているのでは?

 BoDⅡをやりこんだカズだけが気づける些細な違和感だった。

 試合はプロチームの逆転勝利に終わる。

 そして、モニターに映されたプロプレイヤーの姿は、午前中にカズに絡んできた四人組であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る