FPSで伍長だから雑魚だと思った? 実は最強クラスです。僕を追放した奴等は後悔しても、もう遅い。あと、リアルで会ったフレンドはメスガキでした。一緒に仲良くゲームします。
第9話 僕はアリサのお尻を鷲づかみにする
第二章 ゲームイベント初日
第9話 僕はアリサのお尻を鷲づかみにする
バスの座席に着くと同時にアリサが寝てしまったので、移動は無言で過ぎた。
アリサとジェシカさんは何処か遠くから来たのだから、朝は早かったのだろう。
正直なところ、ふたりとも異性でしかも外国人なので、僕がまともに会話できるはずがなく、無言の移動は好都合だった。
バスを降りてからは、眠ったままのアリサをジェシカさんがおんぶしたので、僕が代わりにキャリーバッグを運んだ。
歩きながら小声で聞いたところによると、ジェシカさんが僕を誘ったのは、ゲーム大会に出場するためだった。
観戦だと思っていたけど、まさか参戦だったとは……。
名古屋エンタメフェスティバルでは漫画やアニメ、eスポーツ等様々なイベントを実施していて、その一つがBoDの大会だ。
大会は、BoDの開発メーカーが主催で、ソフトのプロモーションらしい。
銃型コントローラーやモーションセンサーの精度や操作性をアピールしたいため、自衛隊、在日米軍、プロスポーツ選手チーム、BoDのプロゲーマーチームという、バリエーション豊かな四チームが選ばれた。
確かに、今時のゲーム機で、銃器の扱いに長けた軍人と、運動能力に優れたアスリートと、ゲームのプロが戦ったら勝敗がどうなるのか気になる。
ただ、直前になって日本国内の《団体》が、いくらゲームイベントでも自衛隊が出場するのはけしからんと抗議をしたらしい。
その結果、自衛隊チームの出場が不可能になり、昨日になって急遽、日本国内の非プロゲーマーが集められることになったらしい。
関係者が声をかけまくって、なんとか参加可能な地域に住んでいて予定の空いていた僕が選ばれたらしい。
個人情報なので詳しくは聞けないけど、ジェシカさんは開発メーカーの社員なのかもしれない。
BoDのプロチームが居るなら、僕達の優勝は無理だろうけど、ゲームだし、軍人やアスリートには勝てるか?
しばらくして名古屋市国際芸術センターに到着し、エスカレーターで二階に向かう途中で、事件が起きた。
ジェシカさんがアリサをおんぶしたまま上の段に立っているから、赤と黒のチェック柄のお尻がちょうど僕の目の前にある。
ジェシカさんがアリサの膝の裏を抱えているから、スカートがぴんと張っていて、お尻の形だけでなく、パンツのラインまではっきりと分かってしまう。
凝視するわけにもいかず僕は一階ロビーに視線を逃がした。
そんな僕の視線を、ジェシカさんの焦ったような言葉が正面に呼び戻す。
「ちょっと、お尻押して」
「えっ?」
「アリサの身体がずり落ちてきたから、お尻、押してってば」
え? アリサのお尻を、押す?
「あ、やべ。落ちる。早く支えて」
「あ、いや、でも、女の子のお尻」
「落ちたら危険だろ。怪我したらどうするんだよ。早くお尻、押せって。ハイヤー、ハイヤー」
「アラビア語で急かさないで!」
FPSネタで急かしてくる勢いに負け、僕は……アリサのお尻を触ってしまった。
しかも、両手を広げて、お尻の形に合わせて、がっしりと。
上に押し上げるために、手のひら全体にぐっと力を込める。
とてもやわらかい。
大丈夫なの、これ?
犯罪じゃないの?!
僕、捕まる?!
「ん、助かったよ」
「あ、うっ、うん」
ジェシカさんが軽く身体を揺すって、アリサの姿勢を正した。
「で、どうよ。アリサのお尻は」
「べ、別に」
声だけでジェシカさんがニヤニヤしているのが分かる。
僕の手はまだ温かい。
「正直に言えよー。ぷにぷにしていて気持ちよかっただろ」
ボイスチャットのノリなら、気持ちよかったって素直に白状しちゃうんだけど、現実でそれを言うと変態みたいだし、どう答えるのが無難なんだ。
「なんて答えても不正解な質問ですよね、それ……」
「オレなんて一緒に入浴して触りほうだいだぞ、羨ましいだろ」
一緒にお風呂に入ってるの?!
「ううん、ジェシーうるさい……」
アリサが目をこすりながら、ジェシカさんの背中を昇るようにして姿勢を直す。
ふりっふりっと揺れるお尻が、僕の視線を吸い寄せてくる。
じゃなくて、落ち着け。見るな。
僕は変態じゃない。
ロリコンじゃない。
「なあアリサ、今カズがな、お前の――」
「あーっ。あっ、ゲームイベント参加者の控え室って、まだですか」
「ぷっ。すぐそこだよ」
「なに? ジェシー、カズがどうしたの? アリサを除け者にして、ふたりだけで楽しいお喋りしてたの?」
「ん。カズがお前のこと、可愛いって言っていただけ」
「えっ? カズが? 私のこと……」
おんぶされたままのアリサが首だけで振り返るから、僕は恥ずかしくて視線を逸らした。ちらっと見た限りでは、嬉しそうにしている。
「そうなんだ。ふ~ん。カズ、私のことが気になるんだ……。スカートの中を覗こうとして階段から落ちちゃっても知らないだから。カズのエッチ~」
ぐ、ぐぬぬ……。
なんて言い返すのが正解なんだ。
ここは上りエスカレーター。
逃げ場はない。
激しい砲火に身をさらしつつも、退かずに堪えるべき時……!
耐えるしかない。
くそう。
ゲーム参加者の控え室に移動するだけなのに、ふたりといると心臓に悪い。
「着いたぞ。アリサ、降りろー」
ジェシカさんはアリサを降ろすと、サングラスを外して胸元に引っ掛け、ドアを開けるとさっさと中に入っていった。
入室する前に深呼吸をした僕の緊張なんて知るはずもない。
ああ、ドキドキする。
僕はふたりの後から部屋に入る。
遅刻して教室に入ったときのように室内の視線を集めてしまうのかと思うと、気後れしてしまう。
けど、すぐ気が楽になった。
誰も僕を見ていない。
視線を集めているのは先頭のジェシカさんだ。
ミリタリーファッションの超絶美女だもん。
視線を集めるのは当然だよなあ。
入室の瞬間、雑談が止まって、しんとしたし。
部屋は、四つのロングテーブルが口の字に並んでいる。
空いていた入り口側のテーブルに右からジェシカさんとアリサが並んで座った。
(あっ……)
僕も席に着いたところで、失態に気付いた。
普段、人の隣に座らないようにしているから、アリサとの間に一つ席を空けて左端に座ってしまった。
(しまったぁ……。ジェシカさん、アリサ、無人、僕という配置で座ってしまった……。一緒に来たのにスペースを開けるなんて、明らかに不自然……)
アリサが『何こいつ、なんで隣じゃないの』と言いたげに首をかしげている。
(やばい。ジェシカさんまで気付いた。僕がふたりを避けているとか、変な誤解をされたらどうしよう。それに、これから知らない人がやってきて、僕達の間に座ったら、ますます気まずい! どうしよう!)
いまさら席を移動するのも謎行動だし、どうしようと、僕が中途半端に腰を浮かしていたら、ジェシカさんが失笑。
「わりい、わりい。荷物、預けたままだったな。ほら、アリサ、一個ずれて」
あれ。気にした様子もなく、ふたりが席を一個ずつズレて僕の方に移動してきた。
荷物……?
そうか。僕はジェシカさんの大きなキャリーバッグを左側に置いている。
大きな荷物があるからテーブル端の席を選んだと解釈してくれたようだ。
焦ったぁ。
危うく、変に気まずくなるところだったよ。
とりあえず喉でも潤そうと、鞄からお茶のペットボトルを取りだしたところで、部屋の前方に居たスーツ姿の男性が立ち上がった。
「そろそろ時間ですね。本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
男性は名乗り、大会スタッフであることを告げると、イベントの説明を始めた。
概ねジェシカさんから聞いていたとおり。
参加チームは四つ。
在日米軍、プロスポーツ選手チーム、BoDプロチーム……。
そして最後に、今この場にいる12人が一般参加者チーム。
一応、関係者がゲームの得意な人を集めたらしいけど、FPS経験者は少ないらしい。
ああ……。
説明がひととおり終わったら、やっぱり始まる自己紹介。
左からだから、僕は五番目だ。
辛い。
でも先に四人もいるんだから、同じような発言をしよう。
なるほど。
名前と、得意なゲームを言えばいいのか。
安藤、井上、内田、江原……。
左のテーブルにいる男性陣の苗字が、あ、い、う、えときている。
凄いな、偶然が続いている。
僕の番だ。
立ち上がり口を開く。
「お、です」
……しまった!
あ、い、う、え、を意識しすぎた!
本当は『あいうえ、と来たのでおで始まる名前を言いたかったんですけど、藍河和樹でーす! よろしく!』って言いたかったんだけど、無理だった!
やらかし……あれ?
ウケてる。
意外なことに、室内が大爆笑だ。
みんな、あ、い、う、え、に気付いていたのか。
「藍河和樹です。BoDはⅡまで遊んでます」
よし。
場が暖まっていたからすんなりと自己紹介できた。
多分、本日最大の難所を乗り切ったぞ……。
次はアリサの番だけど、立ち上がる様子はない。
いつの間にかイヤホンをして俯いている。
まさか……と思って見てみれば、テーブルの下にVirtual Studio Portableを隠して遊んでいる。
ゲームしていて、自己紹介に気づいていないみたいだ。
どうするんだろうと思っていたら、ジェシカさんが代わりに立ち上がった。
「みなさん、ごめんね。この子はアリシア・サンチアゴ。オレの妹。ゲームに熱中しちゃっているの。集中したら周りが見えなくなるタイプだから、勘弁してね」
ジェシカさんが代わりにアリサの紹介をしてしまった。
アリサの次にジェシカさんが自分の紹介をしていると、ドアのノック音。
ガチャッ。
「大会運営委員です。サンチアゴさんは、来られていますか」
「んー。オレだけど?」
「事前にオンライン申請していただいた情報について少し確認したいことがあります」
「ん。何だろうな。ちょっと行ってくる」
ジェシカさんが前の方に移動し、スタッフと何かを相談し始めた。
何があったんだろう。
不思議に思っていたら、隣からアリサが袖をくいくいっと引っ張ってきた。
「カズ、助けて。四人組にレイプされた……」
泣きそうな声は小さかったけど、近くにいた数名をぎょっとさせたようだ。
「あ、ああ。ゲームで敵にフルボッコにされたんだね!」
僕は慌てて誰にでもなく説明した。
非FPSプレイヤーはレイプの意味を絶対に勘違いするはず。
だから、誤解を解くためにも、僕は人前で大声を出すしかなかった。
アリサは、薄らと涙ぐんでいる……。
「えっと、画面、こっちに向けて」
「うん……」
「え? 2キル25デス?」
2回敵を倒して、25回自分が死んだという記録だ。
携帯ゲーム機の赤外線通信は有効距離がけっこう広いので、イベント来場者と対戦していたのだろう。
25回も殺されているのに、よく中断せずに続けているな。
そうだよな……。
Sinさんって、どんな負け試合でも中断せずに最後まで続けるよな。
「携帯機だとほぼ初心者なんでしょ? こんなもんじゃないの?」
「アリサが下手なんじゃないもん。こいつらが卑怯なんだもん」
「卑怯? ルール表示して」
アリサに試合のルールを表示してもらったら、確かに相手はかなり卑怯だった。
ただでさえチーム人数が1対4で圧倒的に不利なのに、ハンデ設定がオフになっている。
アリサが初期装備の非力な武器しか使えないのに対し、相手は追加装備や強力な火器を使っている。
「あー。全員ゲーマーIDの先頭にKRって付いているし、クランかな。悪質クランと遭遇したのかも。これは運が無かったとしか……」
憤りを覚えていたら、相手からメッセージが届いた。
「ねえ、何て書いてあるの。さっきからメッセージが来るけど、日本語、読めない……」
アリサの声はしょんぼりと消え入りそう。
アリサが日本語を読めなくて良かった。
こんなクソメッセージを見て、気分を損なう必要はない。
『Alisiaちゃん、ひとりで来てるの? ゲーム終わったら一緒に遊ぼうよ』
『性別設定女だけどホントに女? 写真送ってよ』
「マジかよ……」
なんだよ、このアホみたいなメッセージは。
悪戯目的にしても糞過ぎるだろ。
あー、まじで、ふざけんなよ。
アリサは僕のゲーム友達のOgataSinだぞ。
マイ、ベストパートナーだぞ。
なに、舐めたことしてくれんの。
「カズ?」
気付いたら僕は立ち上がっていた。
部屋の前方にいるスタッフやジェシカさんに聞こえるよう、大きな声を出す。
「ちょっと、トイレ行ってきます!」
僕はゲーム機の入った手提げかばんを掴み、部屋を出た。
イベント開始までまだ時間がある。
アリサをレイプしたやつは僕が倒す!
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