標準体型に戻るとき

第6話


「ちゅうわけでドン。拙僧が新キャラ、噂の転校生こと都・ザ・スタンピード・京太郎でござい。兵科は歩兵ポーン、役職としちゃあたぶん突撃兵ポイントマンにでもなるんじゃないですかね。

 実家では寺の坊主と神社の神主とかいうアブねー二足草鞋わらじしとりました。特技は料理と声帯模写、あと一つありますがそいつは好感度を一定値まで稼いでからのお楽しみに。あ、趣味はレスバと二次コンテンツの摂取でござる。それと右腕の包帯は暗黒の炎を封じてるので悪しからず。質問はござりまするか?」

「都」

「はい燕氏なんでっしゃろ?」

「制服はどうした」

 日本衛士学園制服、流行のデザインを取り入れつつもフォーマルなシルエットを残した有名デザイナーによる一品。

 日本三大霊山の一つである霊峰白山に自生した桑の葉を糧とした蚕の生糸と、化学合成繊維を編み込んだ技術のキメラ。

 防刃防弾に優れ、デザインを改めて要人警護のシークレットサービスの制服に充てられたりもしている。

 なにかと式典やイベントが多い性質の場ゆえ、普段の学内生活では私服も認められているが公の場では万が一の襲撃を考え制服を着用するようにと義務付けられている。

「形式上Mサイズは貰っとりますがいざ着ようとしたら豚なのに腕がチキンウイングになり申したのでクローゼットの肥やしになっとります」

「貴様は学期が終わるまでに痩せろ、でなければ死ね」

「んんwwwクラス全員の前で罵倒とかwwwwww」

 転居翌日。あるいは転入当日。

 まずはと教壇に立たされ自己紹介をさせられる朝のショートホームルーム

 クラスはB、兵科カテゴリ歩兵ポーン

 学園では一番多い役職に該当する。

 偶然か必然か、冬薙が担任を務めるクラスに入ることになっていた。

「いいですか燕氏、ツンデレとは比率が大事です。カレーライス、柿ピー、なんだって比率、黄金比が大事です。ツンツンデレツン、ツンデレデレデレツンツンツン。ルーティーンはなんだっていい、ツンの表現が暴力でもいい。しかしデレが無いツンデレとはすなわちロシアンでもなんでもないただのシュークリームをリアクション芸人に食べさせるが如く目も当てられない様になるもんで」

「長い」

「もっと優しくして♡」

「断る、早く席につけ」

 やれやれとかぶりを振った京太郎が教室中央の空席にどっしりと腰をかける。

 周辺生徒が椅子の耐久性に驚いたのは語られずともよい事実である。

「先生、都くんで黒板の八割が見えません」

「都は最後尾の席と交代しろ、そして痩せろ」

「んもう、痩せろ痩せろと燕氏に言われたくないでござるよう。未だに胸が成長期なのに億劫だからってサイズの合った服に買い換えずに、ただでさえ三組一セットで九百八十円のやっすい下着使い回して等閑なおざりなんですからそろそろナイトブラでもお胸の形がエギョ!」

「先生、今の調子で都くんを窓から放り出してると窓際の私が死にそうなので都くんと席を交代してもいいですか?」

「許可する。都は転入生だ、これからわからないことも出てくるだろう。面倒を見てやるように」

「先生、転入生もう水平線に消えたんですけど」

「放っておけそのうち帰ってくる」

「ふぃー、デブじゃなきゃ即死だった」

「本当に帰ってきちゃった……」

「以上でホームルームを終了する、解散」



 ◇



「フフ、窓際最後尾なんて主人公ポジに来たのにこの明確に歓迎も拒絶もされてない空気、緊張で吐きそゲロロロロジュルルルル」

「音響兵器に近いので吐きかけたのを啜らないでくださいましご主人」

「カロリーが勿体無くて……転校生って普通ホームルームが終わり次第囲まれて質問責めに会うものじゃなくて?」

「今しがたのやり取りを見て話しかけてくる輩は前世が梁山泊百八星か何かですよ?」

 たしかに今現在も卓上の白い狐と会話している包帯ぐるぐる毒電波おしゃべりラードそのものだ。

 先ほどの自己紹介の際にツイナについて話しておけばよかったなどと思っても後の祭り。

 それよりなによりこの脂肪の前では動物とおしゃべりしていようが奇異の目が1.5倍から1.75倍に変化するくらいのもの、些事である。

「じゃあ拙僧から話しかけチャオ☆ 調子はいかがお隣さん!」

「ホンッッットコミュ力おばけですよねご主人」

 京太郎がなるたけ愛想良く隣の席で机に突っ伏したクラスメイトに話しかけると、少女は寝惚け眼で一瞥する。

「ぇ……あー……うん、そうだね……?」

 噛み合っていないおざなりな返答をした少女はそのまま腕の枕に突っ伏した。

「クッソドライな反応をありがとうごぜえます、もしかして陰キャ特有の寝たふりムーヴ?」

 たとえウザがられても反応さえ引き出してしまえばこちらの勝ち、と大振りな仕草で耳を傾けるが聴こえてきたのはノンレム睡眠特有の深い呼吸。

「嘘でしょ寝つき良すぎやしやせん? というか今から一限始まるのにそんなガチ寝する人いる?」

「目の前にいるじゃないですか」

「オゥ、ホンマや」

 結局隣席の少女は授業が始まろうとも起きることはなかった。


 ────一限目、古典。

「『その声は──我が友、李徴子ではないか?』

『……如何にも、自分は──隴西の李徴である』」

「そこまで熱演しろと言った覚えはないんだがな」


 ────二限目、数学。

「じゃあこの問いを……都、解いてみてくれ」

「わかりゃーせん!」

「少しは考えろ。んじゃあ単位にカロリーが付くものとして」

「デブだから食べ物に例えさせればいいとかいう安直な発想はやめてくださいまし。x=562Calですね、200gのジャポニカ米が330Calとしてそうですね拙僧なら鶏そぼろ作りますかね」

「そこまで求めろとは言ってない」


 ────三、四限目、家庭科。

「あの、一応ね、家庭科……なのよ? 彫刻の大会とかじゃなくて」

「へえ、存じとりますが?」

「たしかに林檎でウサギを作ってとは言ったけどね、こんなにリアルにしなくていいのよ?」


 ────そして、昼休み。

「おい、転校生が予想の三倍くらい強烈だぞ……」

「絡みに行っても自分がその後も付き合いきれる気がしない……」

「あのキツネ触ってみたいんだけどな……」

 ひそひそと教室中の話題になっているのを尻目に欠伸を食む。

 何度か授業でグループワークになってクラスメイトと話をしたのに昼食に誘われる気配が一切ない。

「都会人はドライすなぁ」

「海上に放置された爆弾をわざわざ解除しようとする酔狂なんてそうは居ませんよ」

 ツイナからの厳しい言葉に嘆息しながら教室を出て学園の食堂へ向かう。

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