第37話 眠り姫と東京タワー

「わー! 高いですー!!」


 土曜日。都営大江戸線赤羽橋駅から徒歩10分。

 叶多と白音は、赤い方の東京タワーに来ていた。


 昨晩の白音の「東京タワー、一緒に行きませんか!?」という唐突な提案に流された形である。


「確かに、間近で見ると結構高いな」


 流石は、長きにわたって日本一の高さを誇っていただけある。

 真下から見上げる東京タワーは、ずっと眺めていると首が痛くなってしまいそうだ。


「まるで、空に向かって伸びる橋みたいですね」

「言われてみれば」


 そういう見え方もあるのかと、シンプルに感心する。

 とりあえず記念に、下から見上げたら東京タワーをぱしゃり。


「せっかくなので、東京タワーとセルフィーしましょう!」

「えーと、自撮り?」

「正解です!」

「遠慮しておくよ」

「ええーっ、どうしてですか?」


 恥ずかしいから。

 とは、恥ずかしいので言えない。


「とにかく、早く行こう」

「あ、はいっ」


 特に自撮りにこだわりもないらしく、叶多の後ろを白音がひよこのようについてくる。

 年代物の自動ドアを潜って中に入ると、そこは想像と違ったフロアが広がっていた。


「わー! なんだか、ショッピングモールみたいですね!」

「本当だ、意外だな……」


 電波塔というものだからてっきり、受付と屋上行きのエレベーターのみ設置されている簡素な施設だと思い込んでいた。

 しかし実際は、ファッションショップやフードコート、お土産屋さんがずらずらと並んでいて、イオンにでもきたような心持ちになる。


 実際に足を運んでみないとわからないものだ、なかなかに面白い。


 フードコードのメニューをふんふん頷きながら見つめたり、雑貨屋さんのアクセサリーを物欲しそうに「ほえー」と眺めたりする白音についていって、受付へ。


「展望台は150mのメインデッキと、250mのトップデッキがございますが、どちらに参りましょうか?」


 タイトで昭和風な制服をぴっちり着こなした受付嬢に尋ねられる。


「せっかくだから、高いほうに行こうか」

「ですね! せっかくですし」


 白音が財布をごそごそと取り出す。

 その前に、叶多が二人分の料金を受付嬢に渡す。


「えっ、あっ、そんな……悪いです」

「気にしない」

「いやいや気にしますって、結構お高いですし……」

「大丈夫、バイトしてるし」

「でもっ……」


 いつものお礼だから、と言いかけて、代わりにこう返した。


「じゃあ、明日の晩御飯、肉じゃがを作ってくれると」


 白音が作る和食系の料理の中でも、個人的No.1メニューにおリクエストを告げる。

 白音は目を丸めた後、「んもぅ……」と頬を膨らませ、最終的に微笑んで、


「わかりました、とびきりのをご馳走します」

「楽しみにしてる」

「その……本当に、ありがとう、ございます」

「気にしない」


 女の子にカッコつけたいという見栄からきたものなのか、それとも白音に対する純粋な感謝の気持ちなのか。

 どっちもか。


 そんな二人のやりとりを、受付嬢は微笑ましそうに眺めていた。

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