第9話「ちょっと難しいですね」
「あーーーーーーーーー」
「それもういいわ」
「いや、今回 私 喋る機会ないだろうから、先に発言しようと思って」
「いやいや、あなたも会話に参加して下さいね?」
「いや、私お金の話とか、儲けることにしか興味ないから」
あながち儲け話で間違いではないんだけど・・・と思いつつ、エマがいると話がややこしくなる気しかしないので、もうそれで良いことにしよう。
「ほな、私はソシャゲしてるんで」
まさか異世界にきて、ソシャゲという単語を聞くことになるとは・・・なんだかねぇ。
「それでは、予算の調整に関しての話をしましょう」
「あ、はい」
アーヘンがそう言うと、懐に隠し持っていたメガネをおもむろに取り出し、それをつけて本気モードっぽい感じになる。
というか、この人 財務大臣だもんね。これが本業だよね。
「高崎から藤岡にかけては、どういうルートで行くのか。そして、両都市の駅はどこに設けるのか。などの細かいところを決める必要がありますね」
「そうですね。俺としては、どちらも中心地に旅客駅、工業地帯に貨物駅を設けたいと思っています」
「旅客と貨物を一つの駅に集約しないんですか?」
「まぁ、利便性と効率性を考えると、分けた方がいいと思うので」
「なるほど・・・とはいえ、中心地は地価も高いですし、高層ビル群もありますし、予算を充分に確保できない身としては、そこに線路を敷くのは、できるだけ避けたいのですが」
「地下という手は」
「地下にも道路や地下鉄がありまして」
「そこをどうにかして、敷きたいところだよなぁ」
思った以上に問題は山積みのようだ。とはいえ、辺鄙なところに作ってしまうと、利便性が損なわれてしまう。それはつまり、利益に影響が出てしまうということだ。
「一ついいかしら」
そこへ、ソシャゲをしていたエマが割り込んでくる。
「なんでしょうか」
「これから何本もの路線が高崎に来るんでしょ? だったら、どでかいターミナル駅を作った方が、後々楽なんじゃない?」
「お・・・おぉー」
すごく感動しました。
何が感動したって、エマの口からすごくまともな意見が出たことだ。
「エマ様にしては、頭が冴えていますね。明日は雪でしょうか?」
「ちょっとバカにしすぎじゃない!?」
「それにしても、あのエマからまともな発言が出るとはな」
「普段変なことしか言ってないみたいな発言はやめてよね」
「いや、事実でしょ」
「事実ですね」
満場一致により、エマは普段 変なことしか言ってない人になりました。
「せっかくなので、エマの案を採用しますか」
アーヘンが重いため息をつくと、渋々といった感じでそう言う。
その案に関して、俺は大賛成なので言うことはない。
「かなりお金がかかりそうですけどね」
「使える予算はどのくらいなんだ?」
「年に6000億円から7000億円程度ですかね」
数字が天文学的数字すぎて、もはや多いのか少ないのかもわからないのだが。
「建設期間を五年と見積もって、おおよそ3兆円から3兆5000億円かな」
正直、距離が距離なだけに、五年で完成するかは微妙だ。
それに、工事期間は沿線の地形などにも大きく影響が出る・・・はず。
「高崎から藤岡の沿線って、どんな感じなんだ?」
「ずっと緑や農地が続いていますね」
「めぼしい都市は?」
「数万人規模の街が多数点在する程度ですかね」
「できればそこらへんの街も通りたい」
「そうすると、真っ直ぐには敷けないですよ?」
「まぁ仕方ない」
現実問題、両都市間をノンステップで結んでも、その都市間同士でしか経済効果が期待できない。なので、他の都市にも接続して、新たな産業チェーンを構築する。
うん、これ都市開発のゲームやってるみたいで、すごく面白い。
「それで、建設費用ですが」
「どのくらいかかるんだ?」
「どのように線路を敷くかによります」
「例えば?」
「そうですね」
そう言ってから、アーヘンのノーパソの画面を見せられる。
画面にはパワポのスライドがあり、そこには建設費用の目安が記載されていた。
「一キロあたり、70億円!?」
「はい。あくまで、高規格で建設した場合ですけど」
高崎から藤岡までは約800キロある。ということは、単純計算で5兆6000億円になる。
もちろんこれは目安であって、実際はもっと費用がかさむだろう。
「ど、どうにかなりますかね」
わずかな希望を胸に、目の前にいる財務大臣さんに言ってみる。
すると、彼女は意外にもニコリとした笑顔を見せる・・・が。
「ちょっと難しいですね」
「デスヨネー」
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