第8話「俺って三番目なのか?」


「あーーーーーーーーー」


「どうした」


「いやね、さっきまで真面目な話で退屈だったから叫んでみたの」


「そんな意味不明な理由で叫ばないでください。ビックリしましたよ。ホームで電車を待ってるときに、反対側の電車が思いっきり警笛鳴らしたとき並みにビックリしましたよ」


「いや、それ貴族の私が共感できると思ってるの?」


「この金持ちがぁぁぁぁぁ」



落ち着こう。


んで、その電車、もとい鉄道についての話だが。



「次は予算か、使える予算ってどんな感じなんだ?」


「私が知るわけないじゃない」



この君主様ほんっと使えねぇな。


高崎から伊勢崎までが約六百キロだ。


日本なら東京から神戸ぐらいだろうか。そしてドイツだと、首都ベルリンからフランクフルト・・・と言いたかったけど、微妙に距離が足りないので、おおよそケルンあたりまでだろうか。それでも数十キロ距離が足りないが、そんなことはどうでもいい。



「予算のことの諸々は、うちの財務大臣ちゃんに聞いてみるといいわね」


「あ、そんなのいるんだ」


「この前話したアーヘンちゃんよ」


「アーヘンさん、財務大臣だったのか」



ということで、呼んでもらいました。



「アーヘン・ヴェストファーレンです」


目の前にいるアーヘンは、見た目から察せるほど真面目オーラがすごい人でした。服の着こなし、姿勢・・・何もかもが完璧だ。


そんでもって、大きくも小さくもない身長、そして胸。なにより、黒タイツが、俺の性癖をくすぐる。だが、そんなことはどうでもよくてな、第一印象としてまず思ったことがある。



「女だったのか」


「あ?」



めっさ睨まれました。


でも、勝手に男だと思っていたから、少し意外でした。



「それは失礼だよ秋斗」


「す、すみません」



確かに、今回に関してはエマの言う通りだ。なので、アーヘンに向かって頭を下げる。



「いえ・・・というか、あなたが国王様の側近ですか?」


「あ、一応そうです」


「それは失礼しました」



急に敬語である。こういう態度をとるということは、国王の側近は大臣よりも立場が上ということで良いのだろうか。



「こ、こちらこそ」


「いえ、私の不手際が」



どうやら頭が上がらないようだ。



「なぁエマ、この国の国民階級ってどんな感じなんだ?」


「急にどうした」


「いや、アーヘンさんに上司のような接し方をされたから」


「あぁ、秋斗は地味に位は高いわよ」


「そうなのか?」


「そこら辺は私が説明しますね」



エマはこの後の説明をめんどくさがる、そう見越したアーヘンが説明役をしてくれるようだ。


今の対応を考察するに、アーヘンとエマの付き合いは相当長そうだ。



「まず、国王が一番上です。そこから、王家、国王側近、王家の親戚、各大臣という形になります」


「おいちょっと待て、俺って三番目なのか?」


「そうよ。だから地味に高いって言ったのよ」


「マジだったのか」



確か、エマが俺のことを側近にするって言ったときも、周りがざわついてたな。そういう理由でざわついたのか、納得だ。



「各大臣の次からは、領主貴族、上級貴族、中級貴族、初級貴族、庶民もしくは市民・・・ですかね」


「全部で九段階もあるのか」


「そうですね」


「アーヘンさんは財務大臣とお聞きしましたが」


「さん付けしなくて結構ですよ。そうですね、私は財務大臣を務めさせてもらっています」



敬語で話されるのは少々慣れないな。なんせそういう経験がないもんだから。



「あ、あの、少しお願いをしても良いですか?」


「私にですか?」


「そうです。敬語をやめてほしいのですが」


「け、敬語を・・・そんなことできませんよ」


「いえ、こっちも居心地が悪いだけなので」


「で、では・・・」



なぜか顔を紅潮させて、俺の願いを承諾してくれた。


ということで、本題に入る。



「伊勢崎への鉄道建設」


「そ、そうです」


「なぜ伊勢崎なんですかね」


「えっと、百万都市で、ここから一番近かったから」


「なるほど・・・」



何か言いたげな様子で黙り込む。



「言いたいことがあるなら言ってみれば?」



そこへ、スマホを弄りながらエマが口出しする。


ってか、しれっとスマホ弄ってるけど、今は公務中だからね?



「わかりました。えっとですね」


「敬語・・・」


「あ、すみません。えっとな、伊勢崎に繋げる理由がけったいなんよ」



おぉ・・・これがアーヘンの敬語じゃない喋り方・・・ただの関西弁じゃないか。


いやまぁ、イントネーションがそんな感じっていうだけで、実際関西弁なのかは分からないけど。


でも、一つだけ言えることがある。



「可愛い・・・」



なんかよく分からないけど、とにかく可愛かった。はい以上。



「いやいやいや、そんな可愛くもないですよ。あぁもう、せやから敬語じゃないといやなんよ」


「そういうことなら、無理にタメ語で話すこともないです。敬語でも良いですよ」



アーヘンのこの喋り方は可愛いのだが、本人が嫌がっているのなら仕方ない。


俺も、彼女に無理強いさせてしまったのは反省しなくてはな。



「すみません」


「それで、伊勢崎に繋げるのが・・・けったい?」



けったいってなんだ?



「結論から言いますと、伊勢崎より他のところに繋げることをお勧めします。ということです」


「え、えっと・・・何がダメだったんですかね」


「そうですね。別に悪くはないのですが、使える予算なども含めて考えますと、今回敷設した路線で大きな利益を上げてほしいんですよ。それを次の建設予算にしたいので」


「なるほど、でも、高崎と伊勢崎なら、それなりに利益が見込めるかと」


「その通りです。なので、悪くはないんです」


「は、はぁ・・・」


「私が考えますに、最初は高崎から八百キロほど離れた藤岡とを結んだ方が良いと思います」



藤岡、エマから話は聞いていたので、その地名に心当たりはある。


確か貿易都市なんだっけか。海外との貿易が盛んで、国内の都市との流動は期待できないというエマの一言で、今回の敷設候補からは外れたのだが・・・。



「ワタシハワルクナイ、ダカラセキニントカワタシトラナイ」



早速エマが責任転嫁しようとしています。せめて言い訳ぐらいしろよな。



「えっと、藤岡は国内の都市とは流動が期待できないのでは」



一応アーヘンにもその意見を伝えてみる。



「現状はそうです。ですが、藤岡は屈指のモノづくりの港町で、工業先進都市です。鉄道路線が開通した暁には、そのモノの流動が国内でも活発になると予想します」



言われてみれば・・・というか、少し考えれば当たり前の話だ。

そもそも、都市間の移動が活発じゃないのは、どの都市間においてもそうだ。それを活発にさせるための鉄道じゃないか。



「人口は八十万人と、貴方様の言う百万人には及びませんが、それでも大都市の方だと私は思います」


「あ、俺は桜沢秋斗です」



そういえば、俺の自己紹介をしていなかったな。


さすがに『貴方様』は気が滅入る。



「では、秋斗様」



様呼びも気が滅入るが・・・まぁでも、これもまた一興ということで。


というか、下の名前呼びなんだな。


文化基準が海外で、いろんな意味のカルチャーショックの連続だ。



「そうだな、じゃあ伊勢崎から藤岡に目的地を変更しよう」


「では、予算の話に移りますね。大変厳しいものとなりそうですが」



厳しい・・・そういえば、この国財政がカツカツなんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る