第7話「地図に挨拶してきたらどうだ」


提案書の参考書には、政策の具体的な内容と、その予算、それによる効果予想などを書けと記してある。



「政策の具体的な内容か。どうします?」


「私に聞かれてもねぇ」



そう言うエマは、現在自分の机に頰をべたーとくっつけてくつろぎ中だ。これが一つの国の君主とは思えない。



「やっぱ高速道路かな」


「それは良いけど、大した効果は無いと思うわよ」


「それはどうしてだ?」



高速道路の開通は、思っている以上の経済効果をもたらす。いや、あれほんとすごいよ。うん。


それが主要都市同士の幹線であるなら、その威力は絶大と呼んでも不足するほどだ。


なのに、エマは効果が期待できないと言う。


少し疑問に思うが、その答えはすぐに理解する。



「この国ってガソリン車はないじゃない?」


「だな、確か水素か電気自動車が主流なんだっけ?」


「そうなんだけど、水素の場合、走行距離は百キロと満たないわ。電気自動車に関しては、長くても四百キロぐらいしか走行できないし、充電に八時間程度は要するのよ」



つまりエマは、高速道路を開通させても、現在の水素、電気自動車では、走行距離や充電時間の問題上、都市間同士の移動は難しいと考えているわけだ。



「四百キロか・・・ギリギリ行けそうな都市はあるけど」



なにも無補給で都市間を結ぶ必要はない。


途中にパーキングエリア乃至(ないし)はサービスエリアを設けて、そこで充電、水素なら補給をしてもらえばいいが、そもそも高頻度に充電又は補給をするのは、効率が悪いし費用もかかるしで、デメリットだらけだ。



「だとするなら、やはり鉄路・・・」


「鉄路?」


「鉄道のことね」


「なるほど・・・投資額が増えそうね」



それは否定できない。


それに、鉄道は維持費や人件費も莫大だ。


実際、俺が住んでいた日本でも、高速道路より鉄道の方が赤字になりやすいものだ。



「とはいえ、俺は鉄道に関して完全に無知だぞ」



何なら高速道路に関してもそうだけど。



「まぁ地下鉄とかはあるわけだし、その技術を応用すればいいんじゃない?」


「あ、地下鉄あるのね」


「我が高崎には、十数もの路線があるのよ」


「具体的な路線数は?」


「覚えてない」



ドヤァ。


まぁ、なんかもう知ってたよね。



「じゃあ鉄道建設で決定っと」


「そんな簡単に決めていいわけ?」


「いや、エマが俺に任せたんだろ」


「あぁそうか・・・じゃあいいや」



それでいいのか君主様。


ということで、提案書には『主要都市間の鉄道建設』と題することにした。


次はその具体的な計画だ。まず最初は。



「どこの都市まで繋げるか?」


「秋斗はどう思う?」


「うーん。俺はこの国の経済とかまだ分かりませんから」



できることなら、首都に次ぐ第二の経済都市と繋ぎたいところだ。


「やっぱり前橋かしら。それか、藤岡」


「藤岡?」



初めて聞く名前だ。きっと群馬県の地名なんだろう、聞いたことないけどな、きっとそうだ。群馬の地名に違いない。



「藤岡は、ドイツで言うところの、ハンブルクみたいな都市よ」


「ということは、第二の都市かな?」



エマがドイツに例えるのが大好きなのは、ここ数日間の彼女との会話で分かりきっている。


なので、俺も少しドイツに関して勉強したのだ。


この異世界はすごいのです。ネットでなんでも調べられてしまうのです。


何より素晴らしいのが、Wi-Fiが爆速なんですよ。速度は脅威の100Gbps。


俺が転生する前にいた現実世界では、爆速と言われる5Gなるものがあるのだが、それがせいぜい10Gbpsなので、いかに爆速なのかがわかるだろう。


んで、話を戻して、調べた結果『ハンブルクはドイツ北部にある大きな港湾都市』と出てきた。



「まぁ、ハンブルクかもしれないってとこね」


「なんだよ、煮え切らないな」


「実質的には・・・っていうことよ」


「つまりどういうことだ?」


「あの都市は、貿易都市なのよ。海沿いだから」


「あー、なるほどなぁ」



つまり、海沿いで航海がしやすいため、貿易で発展した都市、ということか。


ハンブルクも港湾都市だから、想像通りだが。



「確かに経済は発展しているけれど、国内の各都市とはそんなにねぇ」


「なら前橋か? でも、あそこってフランクフルト並みなんだろ? だったら、もっと発展している都市があると思うけど」


「あら、あなたも勉強したのね」



少し関心されたが、相手が相手なだけに自然と怒りに変換される。


まぁそれはそうとして。



「太田という都市が、ドイツで言うミュンヘンにあたるわ」



第三の都市ですな。



「だったら、まずはその太田という都市と繋いだら」


「上出来じゃないか。もういっぺん地図と挨拶してきたらどうだ?」



めちゃくちゃ煽るやん。と、思ったが、地図を見て俺も笑いこげたくなった。


距離が・・・長すぎるのです。


その距離なんと二千キロ(片道)。


日本なら、新幹線で東京から博多を往復した距離に相当しますね。いいですか? 片道ではありません、往復ですよ?


ドイツなら首都ベルリンから、ベルギーを経由してフランスはパリまでの往復距離に相当する。あ、ここも片道ではなく往復ですからね?


このカリホルニウム王国、どんだけ広いんだよ。


ちなみに、日本の群馬県にある高崎と太田の距離は道なりで44キロらしいので、こっちだとその45倍に相当しますね。



「もっと手頃なところないのか?」


「自分の目で確かめなさいよ」



要約すると、地図を見ろ。ってことでしょうね。わかりましたよ。


国内地図を見ると、高崎からの主要都市は主に十都市ある。今回はその中から、人口が百万人を超える都市に厳選する。


その結果、高崎、太田、藤岡、前橋、伊勢崎の五大都市が浮かび上がってくる。


この中で、首都である高崎からの距離が一番近いのが『伊勢崎』だ。


資料によると、人口は130万と数千人。距離は高崎中心部より六百キロだ。



「ここで良いんじゃないか?」



伊勢崎が最適だろう。そう思い、地図で伊勢崎のところを指差し、エマに見せる。



「いいんじゃない? 私は責任取らないけど」


「残念だが、これは国王様主導の政策になりますので」


「うっそだろお前」


「マジです」



ということで、提案書には高崎から伊勢崎までを結ぶ路線・・・いや、ここは明治時代みたいに、『高崎カラ伊勢崎ニ至ル路線』。



「よし、完璧だ」


「変な字ね」


「雰囲気だよ」


「アーヘンに破り捨てられるわよ?」


「そのアーヘンって人 何者なんだよ」


「バケモノよ」


「えぇ・・・」

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