第10話 冒険者登録


トナカイに乗って、2日目の昼にようやくマンハッターホールの麓の街に着いた。


「着いたね!商業の街マンチェスタ!」


ネフィがウキウキで街の入り口の線をぴょんっと飛び跳ねて入街した。

俺も続いてトナカイの手綱を引きながら、街に入った。


周りを見渡すと、可愛い少女趣味っぽい窓とバルコニーがある綺麗な煉瓦造りの家が立ち並んでいた。

冬じゃなければ、きっと花が咲き乱れているのだろう。各々の家の前には何も植えてないプランターが所狭しと置いてあった。

花を愛でれるということは経済的にも余裕がある街なんだなと感じられた。


大きな通りは、きちんと除雪されていてしっかりと石畳が見えていて、自警団などの街の仕組みもうまく回っていそうだ。


「ネフィ、まずはどこかに宿をとってからギルドに行こう。荷物もトナカイも置いていきたい。」


「そうだね、ふかふかの布団で今日は寝よう!アレク、宿代出してあげようか?」


「宿代は自分で出せるが、2人部屋で折半でいいか?」


「いいよ!ただし、私を襲うなYO♪まだ貴族令嬢だからね。」と、おちゃらけてネフィが俺の顔を指でつついた。


俺はネフィの指をペイッとはたき落として、軽く睨みながら言い返した。

「無駄な心配すんな。ネフィを襲うほど性欲ねぇよ。前世、30年間童貞でいれたんだ。舐めんな。」


「え〜、つまんない。爪の垢ほど性欲ないの??

それって、枯れすぎじゃない?お姉さん、心配だわ〜。」


「全然、心配そうな顔してねぇ。ニヤニヤすんな。

一度も経験してなきゃ、わざわざ娼館に行こうって欲も出ねぇもんなんだよ。自分で抜くくらいで間に合う。」


「ふ〜ん。そんなもんなんだ?

でもさ、今アレクは何でも屋で成功して良い所に住んでるじゃん。

周りの女性たちが放っとかないんじゃないの?モテるでしょ?」と、不思議そうに首を傾げて聞いてきた。


う〜ん。俺は斜め上を見上げながら最近の様子を思い浮かべた。

「あ〜、確かに告白されるな。可愛かったり、美人だなぁって思うけど、付き合って一緒に出かけてってイメージがつかない。恋人って良いものなのか?」


「うわぁ。そこから!?恋人の必要性を感じない??

まずいでしょ?」と、ネフィは目を白黒させてドン引いた。


「だってな、異性と出かけるなら今まさにネフィとしてるだろ?でも、動悸もしねぇ。

そりゃ、一緒にいると楽しいし、気も使わないで楽だぞ。でもそれだけだ。

これで恋人になったらキスとかするんだろ?必要を全く感じない。」と至極当然のように言いきった。


「.....。うん、アレクは今世も童貞決定だね。また30歳になったら魔力が爆発するかもね!...爆ぜればいい。

私にドキドキしないなんて、恋愛オンチさんっ!」とネフィが何故かぷんぷん怒った。わけわからん。




おれたちは荷物を宿に置いてギルドにやってきた。

「いらっしゃい〜。ご依頼ですか?」

元気いっぱいの受付のお姉さんが声をかけてくれた。


「違いまーす。冒険者登録に来ました〜。」とネフィがルンルンと受付の椅子に座った。

俺もネフィの後ろについていって斜め後ろに立つ。


赤と緑のツートンカラーの髪をしたファンキー姉さんが驚いて

「えっ、あなた貴族さんでしょ?依頼を受ける方なの!?」と聞いてきた。


「そう!貴族。ヴァンキュレイト家〜。だから魔術はお手の物♪」とネフィはウィンクをして肯定した。


「はぁ、そうですか...。 では、魔術師として登録しますね。」


「違うよ。魔術師は後ろのアレクでぇ。私は戦士登録お願いしまーす。」


「え??女の子が戦士で、男の子は魔術師?逆じゃなくて?」と受付のお姉さんマニュリさんが大混乱。


だよなぁ、普通そう思うよな。


「ネフィ、逆で登録してもいいぞ。」


「だめだよ、アレクは剣使えないじゃん?私の剣での手柄を奪るつもり?」とネフィにギロっと睨まれる。

ついでに腰の鞭に手を添えた。


「手柄を奪るつもりはないぞ、そんな顔で見るな!

なんか男の沽券にかかわりそうだったから提案しただけだ。悪かった。鞭は使うな!」と慌てて両手をハンズアップした。


「沽券?アレクに必要なのは、健全な男子の股間だ!」


またその話か!?


「不能みたいに言うなっ!俺は、勃つわ!」

全く、女子が下ネタを喜んで言うな。

貴族の品位もなけりゃ、女子力もねぇな...。


マニュリさんは、俺たちの会話に笑いながらも測定を促してきた。

「オーケー!あはは!

女の子が戦士で、男の子が魔術師ね!ふふっ

とりあえず、二人とも測定は受けてね。その値で女の子は、魔剣士ってなるかもだし。」


「「わかりました。」」


おおっ、ファンタジー感半端ねぇ!

水晶出てきた。ピカって光るんかな??

ネフィの方をチラッと見ると、ネフィもソワソワわくわくしている。


「じゃあ、ここに手を当てて。」

とマニュリさんに言われてまずネフィが手を置いた。


水晶が緑っぽくぼやっと色づいて呆気なく終了。


えっ?こんだけ?これでなにがわかったんだ?


ネフィも、苦虫を潰したような顔をしとる。


「はい、おっけい。あと5分くらいしたら、冒険者タグができるからね。次、男の子ね!」とマニュリさんが別の水晶を持ってきた。


「えっと、すぐに測定値がわかるものじゃないんですか?」と手を置きながら質問すると


「うん、手からとりあえず情報を吸い出して、5分くらいかけて情報をタグに移しこむのよ。」と説明された。


すぐに測定値がわかる仕組みではないようだ。


俺の水晶も緑色にぼやっと色づいた。

終了らしい。


「じゃあ、タグができるまで簡単に説明するよ。」

マニュリさんが、規約のファイルを出してきて順をおって説明し出した。


「まず依頼を受ける心得!

冒険者登録したギルドに縛られることはありません。今日作ったタグで聖国全部のギルドで依頼を受けれます。

タグに印字されるランクは目安になります。FランクだとFランク相当の依頼がちょうどいいって思ってください。

その上の依頼を受けることもできますが、生死の責任はとりませんので自己判断でお願いします。

基本的に依頼内容は、掲示板に貼ってあるので確認してください。

人材指定の依頼などは、依頼用紙を持って受付にきてください。詳しい話をお聞かせします。了承されたら、紹介状を渡す流れになります。

素材採集など数が決まってるものは、定数になるまで受け付けます。朝、確認して採ってきても夕方別の冒険者が満たしてしまっていたら、無駄になることもあります。なるべく、被らないものを選ぶ目を養ってくださいね。

余ったものは、ギルドで買い取れるものは買い取ります。レートは依頼よりも下がりますが、ご了承ください。」


ふむふむ、依頼達成具合でランクが上がるって王道システムじゃないのか。

さっきの水晶で実力が完全にわかるってことか。強いパーティーに寄生してランクを上げるってことが出来ない実力主義ってことだな。


「それで強さは、FからSまであります。Sが一番強いです。

魔力は一般人だと100以下の数字が出ます。100以上だと魔術師の適性がある目安になります。魔術を学ぶ指標になりますね。

お二人は、すでに魔術を学んでらっしゃるので、100以上あるかと思います。

ちなみに名を上げるSランク魔術師だと1500そこそこあります。

力は一般女性30そこそこ、男性50そこそこが多いです。

剣士になると100オーバーは当たり前ですね!Sランクの剣士さんだと600オーバーって所でしょうか?ちょうど貴方達のタグが出来ました。えっと、ランクは....」

マニュリさんが、タグと俺たちを何度も見比べる。


「えっと、お二人ともSですね...。」

狐につままれたような顔になってる。

わかるぞ、俺たちは規格外だからな。


「え〜、まずネフェルティ・ヴァンキュレイトさん、アレックスさんで名前合ってますか?」


「はい合ってます。」

名前もタグに出るようだ。偽名では登録できないんだな。


「では、ネフェルティさんは魔力2350。この時点でSは確定ですね...。

実際に...こんな数字初めてみたわ。

力512....細身なのにすごいですね。」と引きつりながら報告してくれた。


俺は、その結果を聞いてうっかり口が滑った。

「おおっ、女を辞めてるな!すごいなぁネフィ。...うおっ!!」


バシーンっ


鞭がしなって俺の横の空気をぶった斬った。

おいおい、今俺の髪の毛数本がお亡くなりになったぞ。

そんなに悪いこと言ってねえはずなのに、ネフィはおかんむりだ。解せん。


「ちょい、待て。落ち着け!俺だけの意見じゃねぇだろ。学園でも女ゴリラって言われてるんだろ?  うわぁっとっ!!」


バシッ! ぴょん。

ベシっ! しゅたっ。

ビュン! バキッ! よっ。


「アレク逃げるな!言っていいことと悪いことがある!」(私のことを女扱いしないなんて、なんかムカつく!アレクのくせにぃ)


そんなネフィの心のうちなんてわかるはずもなくひたすら回避、回避、回避。


ネフィが、本気で俺を狙って鞭を振るってくる。

後ろに跳んで回避、机の後ろに隠れて回避、それでも鞭が飛んできたので机を身代わりにバック転!回避。


「ネフィ!っーーー俺、ーー本業っー『薬師』っ!!

騎士科の奴らと違っーーて、いっ般人だ。ただでっーーさえ、普通の奴っーーーがっーー鞭をふるってもっー音速なのっーーに、お前がふるうと光速にっーーなるっーーーかもっ。当たれば、体っーーが切断っーーーで殺人事件だっ。」

息も切れ切れに必死に回避しながら叫ぶ。


周りの机や床が大惨事だ。

えぐれるわ、粉砕するわ、阿鼻叫喚だ。


しばらくしてネフィがようやく落ち着いてくれた。


「ふぅ、アレク?

こんな美しいゴリラがいる訳ないだろう?

人間の力を超越した女神だ!」

ビシッと俺に指を突きつけて女神宣言をしてきた。


厚かましい!


「なわけあるか!女神に謝れ。失礼だ。

天罰が下るぞ。」

俺は呼吸を整えつつ、反論した。


ふぅーっと息をはいてから、魔術を構築しようと試みる。

頭上に魔法陣を出して呪文を唱えた。


『状態復元レストレイション』


指をパチンと鳴らして、ギルドの待合室を魔法陣で囲む。

壊れた椅子や机が、キラキラした粒子に包まれゆっくりと元の状態に戻っていく。

ゆっくりとした巻き戻し再生のようである。

完全に復元を確認した後、魔法陣をパンっと消した。


ギルド内の人たちは、ポカーンとして俺たちを見ている。


まあ、そうなるわな。


特定の無機物を時間を逆行させて治すのは、自然の理から大きく外れている。

なので、魔力をめちゃくちゃ使うことになる。

それこそ賢者クラスの魔術師が何十人もいないと普通は出来ない。

俺一人で構築展開できるのは異常なことなのだ。

かつ理論上、時間逆行出来ることが解明されているが今まで出来た例がないとされてる。

だから、周りは信じられない心境なのだろう。


俺はしょっちゅうネフィに物を壊されるから、状態復元もよく使うし慣れっこなんだがなぁ。


「ごほんっ。マニュリさん、僕の結果も教えていただいていいでしょうか?」と紳士的な笑みを浮かべて俺は受付の椅子に座った。


「え?え?え?なに?なにが起きたの?」

未だにマニュリさんは大混乱中だ。


「いつものことですのでお気になさらず。で、僕の結果を教えてください。」

俺は『なにも言うな』圧力をかけながら、微笑を浮かべ丁寧に言った。


「は、はい!アレックスさんは、Sランクでして魔力が測定不可で、振り切れてるようです!5000以上はあるかと思います。(うん、知ってた。俺前世の貯金額2000万以上魔力あるからね)

力は、120あります。」


えっ?120もあんの?なにも鍛えてないのに?

錬金術の材料集めで、険しい場所によく行ってたから体が鍛えられたのか?

う〜ん、わからん。


「なので、お二人とも魔剣士と判定されてます。」


「「二人とも??」」


「え、俺剣使えないですが?剣士ですか?」

俺の頭の中は、ハテナでいっぱいだ。


するとネフィが「素材採集で、ナイフとかタガーとかを一般人より使ってるからじゃない?」と発言した。


「.....。ネフィ、その理論でいくと世の中のオカンはみんな包丁を毎日使ってるから剣士ってことになるぞ。おかしくね?」


「うーーーーん。何でだろうね?」「な?わかんないよな。」と二人でうんうん唸っていたら、マニュリさんがおずおずと話しかけてきた。


「あの〜、先程の鞭の回避反応を見るかぎり魔術師単体って判定は出ないかと...。

攻撃スタイルの拳闘士でもないですが、身のこなしはそれみたいですし。

苦肉の策で魔剣士なんじゃないでしょうか?」

マニュリさんも、適当な想像しか出来ないみたいだ。


「ふ〜ん。この職業で何か不利益ってあります?」

俺は別に職業なんて薬師で十分だから、迷惑をこうむらなけりゃなんでもいいんだが。


「はい、あります。依頼の縛りが出てきます。依頼対象が、剣士・魔術師ならお二人はどちらでも受けれます。ですが、拳闘士等他の職業対象依頼だと、受けれません。

ただどうしても受けたい時は依頼人と面談してもらってからになるので手間がかかります。」


「じゃあ、問題ありません。俺たちは、ほとんど冒険者として活動しないので。

今回アイスゴリラの討伐さえ出来れば問題ありません。情報はどこで見れますか?」


「壁側のファイルにありますよ、討伐に行くんですか?かなり手を焼いているので難しいと思いますよ?一応、応援しておきますね...。」


駆け出しの冒険者には無理だと思うって気持ちがありありと見えるぞ、マニュリさん。

だって、仕方ないじゃないか!

ネフィが行くと言ったら行くしかないんだ。

行かないと俺は死ぬかもしれないんだ!

契約魔術のせいだ!

くそっ、あの時の俺バカだった。無知は身を滅ぼす...。


「アレク〜!あったよ〜。これこれ!」

ネフィが早速アイスゴリラの情報を見つけた。


ん、なになに?


・アイスゴリラは、白い毛に覆われた2足歩行のゴリラである。(うん、イエティだな。ちょっとやる気出たぞ。)


・白い毛の下に、てかてかした鱗がある。(なんで?鱗から毛が生えてる??え、想像できない。)


・その鱗が異常に固く剣が入らない。(じゃあ、眼球を刺せばいいんじゃないか?そしたら脳天貫くよな。)


でも次の情報で、目は弱点じゃないことがわかった。


・目を刺そうと試みたパーティもいたが、目も硬くて無理だった。→そのことにより、目で視覚を得ているか不明。(ふ〜ん。蛇のように熱感知で視覚を得ている可能性もあるな。なんせ鱗があるんだもんな。)


・魔術師がいるパーティが火炎魔法を試したが、白い毛だけが燃えた。(火じゃ鱗燃えないのか。ふむ。)


・水魔法は全く効かない。


・攻撃魔法は、氷系で氷柱を飛ばしてくる。


・体術が優れていて、素早く、回避能力が高い。パンチやキックの威力は、人間が吹っ飛ぶ。


以上が今までの戦闘で分かったことだある。新しい情報をもたらした冒険者には金一封。


「ネフィ、どうする?

雷・植物・闇・光魔法とか試してみるか?

効くかどうかの情報を与えて金一封もらって帰るか?

それとも討伐をすることに全力出すか?」


俺は軽くいろんな魔法を無駄撃ちして、情報料もらって帰るだけでいいんだがなぁ。

そうは問屋が卸さないだろうな。


「討伐、一択だよ!」と鼻息荒くネフィは言う。


「そういや、なんか鱗があって硬い機敏なゴリラって、ドラゴンみたいじゃね?」

俺は、夏のドラゴンとネフィの戦いを思い出した。


「あー!言われてみればゴリラの姿をしたドラゴンだねっ。」

ネフィはポンっと手を打って同意しつつ、期待で目をキラキラさせて熱い視線をよこした。


なんだ??


「今回は討伐対象だから完全にやっつけていいんだね!

あの時は、殺さず痛めつけるってだけだったから中々加減が難しかったよねぇ。

今回は私がランチを食べて待ってるから、アレクがやっちゃって。

討伐部位の採取だけ手伝うよ。

アレク、腕の見せ所だよ。首さえ持って帰ればいいみたいだし、ぐっちゃぐっちゃにしちゃおうね!」


昼ごはん何にしようかな〜っともうネフィの頭の中はご飯でいっぱいだ。


俺がやるのかぁ、はぁ。

捕まえられるなら魔法連発でなんとかなるが、どうやって足止めしようか...。

植物魔法で蔦でも出す?いや、雪山だし蔦はないな。

土魔法で落とし穴に落とす?いや、雪崩が起きたら大惨事だ。

風魔法で周りを囲んで拘束するのがいいが、動きが早いから抜けられる可能性も否めない。うーーん。


「ネフィ、悪いけどイエティの足止めしてくれるか?

色々考えたが、素早いらしいから魔術範囲から逃げられるかもしれない。

ネフィのブルウィップなら足止めが一瞬でも出来るだろう?」


「ん、それくらいならいいよ。ほんとに一瞬かもよ。鞭を引きちぎられたり、私ごと飛ばされるかも。」


飛ばされても、こいつなら大丈夫だろう。


「鞭が引きちぎられたら、スマン。先に謝っとくわ。」


討伐計画も立てたので、俺たちはギルドを後にした。



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