第9話 冬季休暇も振り回されます

凍えるような朝、暖炉に薪を追加して暖をとる。

暖炉の上には、朝ごはんのシチューがぐつぐつ煮たっていい匂いが部屋じゅうに立ち込めている。


ここは、平民街の中でも富裕層が集まる地帯だ。

ここが今の俺の拠点である。

薬師として、お金を稼ぎ余裕が出てきたので風呂付きの大きな3LDKの家を借りた。

一階は、キッチンと風呂とトイレと俺の店と作業場だ。

二階には寝る部屋と物置がある。

店舗の上は物干し場があって、錬金術の材料を天日干しするのに絶好の場所だ。

かなり気に入っている。

更にネフィの小屋も貴重な素材や本の保管場所としてまだ使わせてもらってる。

貴族の家だから警備がいいしな。


「あ〜、寒いぃぃ。冬は、家から出たくない...。でも今日は、ネフィの小屋に行かないと...。嫌だ〜。会いたくない〜。」ズズッとスープを飲みながらひとりごちた。


とうとう冬季休暇でネフィが帰ってくるのだ。

こないだ手紙が届いて、出かけるぞと連絡が来た...。


こんな真冬に野営って馬鹿じゃね?凍死すっぞ。

また何を見に行くんだろう。

俺は、行きたくないんだが。はぁ〜。


今から行くぞと無茶振りされても大丈夫のように、ノロノロと野営セットと防御魔法陣シートを持ってネフィの屋敷に向かった。


屋敷につくと、ニコニコご満悦のネフィがいた。

「アレク!久しぶりだな。元気だったか?」

仁王立ちで偉そうである。


(ネフィが、なんかますます男らしい言葉になってる...。)

俺は苦笑いを浮かべながら右手を頭上に掲げてフリフリ手を振って答えた。


「久しぶりだな。俺は、元気だったよ。

ネフィ...、見た目は美しいんだから言葉をなおせよ。もったいない...。

なんとなく似てる永遠の美女キャメロンディアスもoh my godだ。」


「チャーリーズエンジェル、私も好きだった!オーケードーキー!

金髪・碧眼・いい女ってところが私にそっくりだね。光栄だ♪

言葉は、騎士科にいると周りが男だけだから荒れるんだよねぇ。特に帯剣すると、気持ちが昂っちゃうんだよ〜。」とご機嫌に鞭をバシバシ地面に叩きつけながらネフィはいい女ポーズをとった。


うん、ちっとも萌えない。残念感が半端ないな。


そして、ビシッといつもの命令という名の提案をしてきた。


「アレク、今からアイスゴリラを見に行こう!」


うん、やっぱり今からなんだな。

びっくりしないぞ、想定済みだ。


「アイスゴリラってなんだ?」

そんなもの聞いたことないぞ。


「ふふん♪アイスゴリラとは幻の雪男。イエティのことだよっ!

都市伝説好きでしょう?

やっぱりファンタジーの世界に来たからには、イエティを見なきゃ。

北のマンハッターホールにアイスゴリラってやつが度々目撃されてるらしいの。なんかすごい強いみたいで、周りの魔獣が街の方に流れてきてて冒険者がてんやわんやしてるみたい。

今回は討伐対象になってるから、冒険者登録して討伐するよ。楽しみだね〜。」くるっと回って幸せそうだ。


「イエティか。地球の東京大学でも探査チームが出されたこともあるし、現実にいそうなUMAだった...懐かしいな。

いるなら俺も見たい。

でも実際にいるのか?行って見つからなかった、いませんでしたじゃ困るぞ。

骨折り損は勘弁だし、凍傷になって指が壊死とか洒落にならないぞ。」


「大丈夫!実際に遭遇した冒険者チームがいくつかいるんだってさ。

でも異常に硬いみたいで一太刀も入れれてないみたい。

そこでアレクの魔術の出番だよ!無尽蔵の魔力で、アイスゴリラを燃やしちゃおう!」と気楽にネフィが言う。


だが、ちょっと待て。

イエティのイメージって、白いもふもふした2足歩行生物だと思ってたが、一太刀もいれられないほどの硬さっておかしくね?


「アイスゴリラって、燃えるのか?

氷で覆われたゴリラか?

それとも筋肉ムキムキ硬質の皮で覆われた雪山にいる普通のゴリラ?

どんな外見で弱点はなんだ?」


情報大事!命に関わる事は慎重にだぞ。


「え〜、頭固いなぁ。臨機応変に戦うのが面白いんじゃないか。

えっ、情報大事?.....う〜ん、行って見てみればわかるっしょ。詳しいことは、わかんない!

学園の噂だと、毛むくじゃらっていう人もいれば、ゴーレムみたいだったって人もいてわかんない。

マンハッターホール近くの街のギルドで情報見てから行けば大丈夫だよ!だからとにかく出発しよう。」

楽感的にネフィが出発を促す。


なんてケ・セラ・セラなんだ...。俺の命がいくつあっても足りない(泣)

死の契約を破棄って出来ないかな。

ネフィの味方辞めたい...。グスンっ。

エド様病が俺にもうつったみたいだ。

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