03-02. 次なる戦場へ

 とりあえずの目的は決まった。

 リバースダイバーへの参加だ。


 主催は小さな島の自治体で、お祭りの1イベントとして企画されている。


 さっそくと申し込もうとして、手を止める。

 順番としては自分のバックヤードを組み立てるのが先である。


 焦ってはいけない。


 出場しますと宣言しながらマシンを運用できませんでしたでは人に笑われてしまう。


 参加締め切りの要項には、先着で応募総数が一定になるまでと書かれている。

 最大枠数は16チーム。

 イベントの開始までは残り1週間。

 リバースダイバー運営は、トーナメント形式なので多少の歯抜けでも開催できると踏んでいるようだ。


 その枠が埋まるまでにスタッフを集め、中継屋との繋ぎを作らなくては。


 少女の瞳で意志が燃える。



 ここからは怒涛の勢いだった。

 人員募集を掛け、広告から規模の合いそうな中継屋を見繕う。

 書類選考に面接を経て、チーム・マッハマンのバックヤードを整える。


 最低限の人員を確保したところで、リバースダイバーへの申請エントリーを行う。

 なんとか最後の枠に滑り込むことが出来た。


 しかし、なにかと自分は最後発に縁があるなとラフィーは思った。


 準備は整えた。後は実戦あるのみ。




 時間はあっという間に過ぎ去り、イベント当日となる。


 チーム・マッハマンのフライトランスポーターが会場であるオールゴレ島へと降り立つ。


 着陸地点は閑散とした広場だ。

 今回のレースにはグランドピットがない。

 整備はそれぞれのトランスポーターで行われる。


「青空ガレージなんて、中々新鮮な感じね」


 車内から出てきたラフィーがぬんっと伸びをする。育成途中の割には大きめの双房が弾けて揺れた。


 天気も上々。青空が頭上に広がる。


「絶好のレース日和だわ」

 

 チーム・マッハマンのトランスポーターを見つけて、スーツ姿で眼鏡をかけた女性が近づいてきた。


「こちらはラフィーさんのAFチームでよろしいでしょうか?」


「ええ、そうよ。あなたが中継屋津島つしま交信局こうしんきょく高島たかしま宮保みやほね。よろしくお願いするわ」


「こちらこそよろしく」


 ふたりはしっかりと握手した。

 ラフィーが振り返る。


「わたしのチーム・スタッフの紹介よ」


 トランスポーターから2人の人物が降りてきた。


「ディジュハ・ハリバ、主に管制を担当するのでよろしく」


「コトーネル・シジッロ、です。

 メカニック、です。

 よろしく、おねがいします」


 早口気味の男性ディジュハと、スローペースの女性コートネル。中々に対照的なコンビだった。


 2人とも超特急のスケジュールを越えてきた幸運持ちである。


「それじゃさっそくミーティングよ」


 さっと魔法のようにグライブがティーテーブルと人数分の椅子を並べる。


 席に着いたラフィーがすぱっと切り出す。


「フォロワーの再集結ぐあいはどの程度まで進んだの?」


「20%から30%といったところですね。

 登録初回から間が空いた上、あまり知名度のないレースだと思えば上出来の部類です」


 宮保がはっきりと答える。


 ラフィーの場合、イーストEエンドEグランプリGPでフォロワーになってくれた相手が全て味方になるわけではない。

 個人の応援先としてみているだけで、フォロワーが一致団結しているわけではないのだ。

 事前に今回のリバースダイバーへの出場を告知しても、リアルタイムで観戦しパルスリンクを送ってくれる相手は数限られる。


「一人も居ないより十分な数よ。特に今回は瞬発力の勝負だもの。数より質よ。

 コトーネルはどう? わたしのアルス・ノヴァは快調に飛べるかしら?」


「えっと。はい、だいじょうぶ、です。

 マシンドレスだけじゃなくて、機材まで高価なものを用意してもらってましたから。

 トーナメントの最多4戦、十分に飛べます」


「いい返事ね。

 ディジュハから報告することはあるかしら?」


「現状特にありません打ち合わせするまでもなく」


 3人を見渡してラフィーは満足げにうなずくと、立ち上がった。


「それじゃ、運営本部に行って手続きを済ませてくるわ」


 スキップでもしそうな少女の背中を見て、ディジュハが口を開く。


「さて皆さんから見て雇い主オーナーの印象を聞いておきたいのですが、もちろんこちらが最初に、機体や背景は特別だけど新人としては大きく外れていないと」


 早口にまくしたてる。

 宮保が受けて感想を述べる。


「幼い印象は拭えませんね。力を秘められているのは感じますが。

 新人という枠でいうなら、どちらに転ぶかはこれから次第でしょう」


「ビジネスパートナーとして冷静に見ての話? ことによっちゃ切り捨てもありえるのかな?」


「そう受け取ってもらって構いません」


 最後に目元まで前髪で隠しているコトーネルが、俯きながらぽつぽつと言う。


「うんっと、ラフィーちゃんってかわいい、かなっと……」


 それはそうだと他2人はうなずく。

 エアリエルなのだから見てくれが良いのは当然といえた。


「わたしたちのためにも、頑張ってほしいなって、思います」


「せっかくの恵まれた環境なんだから長く続いてほしいよね」


「レース宣材の他にも、グラビア商材を展開したいと正直に申し上げておきます」


「オーナーの外見ならそっちの仕事も間違いなく需要あるし、ところで歌の方はどの程度なのか知ってる?」


 宮保とコトーネルにディジュハが聞くと2人とも首を振った。

 不安にカクつくディジュハ。


「まあ優勝しなけりゃいいか」


「一応は準備期間中に個人でレッスンを受けられたと聞いています。

 ラフィー様の態度からして歌えないということはないでしょう。衣装の発注もありましから」


 宮保の言葉が慰みか。


「だいじょうぶ、だよね、たぶん」


 コトーネルは一抹の不安を胸に抱いた。




 無事にリバースダイバー運営との事務関係を終えたラフィーが、トランスポーターまで戻ってくる。


「わたしたちの出番は一番最後。第8レースからになるわ。

 遅れないように準備をしなさい」


 口調こそ変わらないが、ラフィーからは場に浮ついている感じがする。


 前2戦EEGPとSPDのようなあとのないレースではないからか。それとも自分でレースの準備が整えられたことへの高揚か。


 付き合いが短い3人には判断がつかない。


 そんな中、ディジュハが切り出した。


「それじゃまあレースの概要から復習しておきましょうかオーナー、最後発ってことは実はかなりのデメリットなんですが解ってます?」


「勝利するにつれて、レース間隔が短くなるんでしょ。

 それぐらいトーナメント形式なんだからわかるわよ。

 ちゃんとレース規定にはインターバルがとってあるんだから平気よ」


「それだとしても後が追われることに変わりがない、対戦相手をゆっくりと確認できる時間がないってこと、ただでさえ情報収集が足りないんだから」


「安心しなさい。わたしとアルス・ノヴァがあれば誰が相手だって勝てるわ」


「自信があるのは、いいことよ」


 コトーネルがぽつりと言う。


「でも、ちゃんと準備もしないと、いけないよ」


「なによ。あなたたちはわたしに不満があるの!」


「そろそろ第一レースが始まるということですよ。

 実際のレースを見てみるのは良い経験になります」


 膨れ面のラフィーを笑顔の宮保がフォローする。


「こちらの出番まで時間に余裕がありますから、敵情視察といきましょう」


「ふふん。そこまでいうのなら見にいってあげてもいいわよ」


 すぐに気分を直したラフィーが軽い足取りで発射台に足を向ける。


 バックスの3人は、顔を見合わせて見えない嘆息を吐いた。

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