第14話

 その日のお昼近く。唐突に僕の部屋のドアをノックする音がした。深夜から起きていた僕としてはようやくと来たか、というような感覚だ。


「クライ様」


 ノックの主は執事のセバスだった。師匠が何かしらの指示をもらい帰ってきたからセバスが僕を呼びに来たのだろう。


 僕が返事するとセバスはドア開けてから部屋の中に入ろうとしたが、それをやめて少し下がり、またドアを少し閉める。そしてドアを少し開けた状態で、


「クライ様。旦那様と黒影様がお待ちですが……なるべく早くお越し下さいませ」


 少し戸惑った声色だったが、セバスはそれだけを言いドアを閉めてすぐに下がった。


 なぜセバスが入ってこなかったのか不思議に思うだろうけど、セバスは入れなかったのだ。


 というのも僕には全裸になったアンナとレイナにしがみつかれているのだから。


「クライ、愛してる」

「クライ様を愛してるのは私の方です」


「ちょ、ちょっとトアも見てるからまずいよ。二人とも離れて」


 でもこれには理由があった。もうお分かりだと思うが僕の魔眼だ。

 僕は二時間おきにレイナを拘束するために魔眼を解除しては使っていた。


 お茶を嗜みながら和やかな気分でレイナの身の上話なんてものも聞いたりもした。


 ただ彼女は何を聞いても「分からない」とだけ、ほとんど記憶がなかった。


 少しかわいそうに思いつつも彼女は父上を殺しにきた暗殺者。僕の勝手な判断で拘束を解くわけにはいかない。


 たわいもない雑談をしていると、あっと言う間に二時間が経ったので一回目にかけていた魔眼を解除した。

 すると、彼女は疲労困憊といった様子で、ぺたんと尻もちをついて立ち上がることすらできなかった。そんな状態だ。当然、逃げることなどとてもできない。だがその間ずっと鋭い視線を向けられていた。


 この時は五分ほど休憩を挟んで二回目の魔眼をかけた。彼女からの鋭い視線もなくなりまた雑談に花を咲かせる。


 そうしていると、わりとすぐに二時間が経ったので、二回目にかけていた魔眼を解除した。


 彼女は当然疲労困憊。またもやぺたんと尻もちをつく。やはり立ち上がることはできないかったが、逃げる素振りもなく射抜かんとする鋭い視線もなくなっていた。

 ただ僕に、にこにこと微笑みを向けてくるだけ。


 僕はその変わり様を不思議に思いながらも、逃げる素振りがない彼女を見て。少しでも身体の負担を減らしてやろうと思い十五分ほど休憩を挟んで三回目の魔眼のかけた。


 それからさらに二時間が経ったので、三回目にかけていた魔眼を解除した。


 そう、ここからだ。ここから彼女はおかしくなった。

 彼女は当然疲労困憊。力なくぺたんと尻もちをつく。立ち上がることも当然にできない。


 ただ彼女は僕をちらちら見てはもじもじと少し恥ずかしそうにする。

 二十分に伸ばした休憩の間もちらちらと僕を見ては顔を赤くしていた。


 今思うとここでやめるべきだったのだろうけど師匠には拘束している様言われていて、その師匠が戻ってこないのだ。

 だから僕は迷いながらも四回目の魔眼を使った。


 そして、問題はさらに二時間が経って四回目の魔眼を解除したその時だった。


 彼女は当然疲労困憊。力なくぺたんと尻もちをつくし立ち上がることはすでにできないかったが、


「クライ、愛してる」


 そう言ってから服を脱ぎ出しそのまま絨毯の上にごろんと仰向けになると、両手を広げる。


「クライおいで。私と愛し合う。私初めて、よく分からないけど頑張る、よ」


 彼女はそれからずっと大の字状態で僕に向かって何度もおいでおいでと手招きするのだ。

 アンナが服を着せようとしても着たくないと言って抵抗をする。

 しかも、そんな彼女を僕がずっと無視していると、


「クライ、私きらい? 私きらいなの?」


 そう言ってからしくしくと泣き始める。女性の涙ってなんかズルい。泣いてる彼女を見るとものすごく罪悪感を抱くのだから。オロオロとする僕。可哀想に思えて少し彼女に近づいた。

 そう、そこで同情して近づいたのはいけなかったのだ。


 僕がそばに行くと彼女は、


「クライ愛してる」


 満面の笑みを浮かべてからガッチリとしがみつかれてしまった。彼女は引き締まっている身体付きだが、女性特有の柔らかさも持ち合わせている。


 正直すごく柔らかくて気持ちがよかった。だが、こそでやばいとも思った。僕の絶倫スキルが発動していたのだ。


 これはまずいと思い僕は必死にアンナを助けを求めた。

 助けを求めながら、必死に理性を保とうと抵抗していると、


「クライ様。私に任せてください」


 アンナまでも全裸になっていて僕に纏わりついていたってわけだ。

 アンナとしてはたぶん僕の反応している一部に気がついて処理してくれようとしたに違いないけど、それは今じゃない。


 でも理性はすでに限界なのです。それが今の僕の状態。もう無理かも。無理だよ。


 ちなみにトワはウチの使用人になることを決めてくれた。

 後で僕と一緒に父上と会おうと伝えていたので、待ってもらっていたわけだが、


「クライ様、ひょっとしてボクも脱いだ方がいいです?」


 そう言いつつもすでに上着を脱いでいるトア。異性の身体に興味があったのだろうか? 十二歳のトワはまだ成長期。ささやかな胸を僕に晒す。


「い、いや脱がなくていいから」


 すぐにやめさせたが、彼女はすこし不満げですぐには上着を着ようとしない。


 ――もしかして、トワにも魔眼の影響が?


 それだと少し可愛そうなことをしてしまったのではないかと少し後悔する。


「クライ」

「クライ様」


 二人に揉みくちゃにされる僕。もう無理。限界だった。


 本当なら彼女の身体のことを考えると、これ以上は魔眼を使わない方がいいだろうが、でも今の状態もなんとかしないといけない。僕も限界なのだ。父上と師匠を待たせていなかったら負けていたかもしれない。


 だから僕は魔眼の少し使った。威力はなるべく抑えて、それでいて命令にも従ってくれるくらいの威力で……


 ――魔眼展開。


「レイナ。離れて服を着て欲しい」


「ん、分かった」


 少し不満げにしながらも彼女は僕の指示に従ってくれた。上手くいったらしい。威力を抑えた分表情が少し残っている。


 ――よかった。彼女の身体の負担も少しは減っていてくれるといいんだけど……


「アンナも離れて。父上と師匠が待ってる。続きは話が終わってからな」


 絶倫スキル持ちにこの状況はよくなかった。アンナも僕も。報告を終えた後はすごいことになりそうだ。


「はい! クライ様」


 アンナも分かっているのか任せてくださいと胸を叩く。アンナの大きな胸が揺れて慌てて顔を背ける。今少しの刺激でも困るのだ。


「レイナも続きやる」


 なぜか僕たちの話を聞いていたレイナもそう言ってから身を乗り出してくる。


「あなたはダメよ」


「なぜ」


「ダメだからよ」


「ダメ違う。レイナも続きやる」


 魔眼の威力を抑えているためか彼女への制御がかなり甘いようだ。

 また少し面倒になりそうだったので僕は慌てる。


「その話はまた後でだ。父上と師匠が待ってる」


「ん、分かった」


「はい」


 レイナの僕に対する返事はうれしそうで、自分の置かれた状態を理解しているのか、理解していないのか少し不安になったが、これでようやく応接室に向かうことができる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る