第15話

「俺、なんか頭が痛くなってきた」


「私もだ」


 俺の報告に師匠と父上が揃って頭を抱えた。


「僕もこんな結果になるとは思わなくて……」


 元盗賊だったトワは、魔眼を使用して得た真実の情報により思ったりスムーズだった。父上も真偽眼を宿しているしね。


 ただそれは使用人としてではなく僕の専属メイドという形でだが、それでもいいかとトワに確認すれば使用人になるより僕の専属メイドの方がうれしいとかなり喜んでいた。


 たぶん魔眼の影響が残っているんだろう。申し訳ない。だからせめて彼女にはスラムで盗賊をしていた頃の方が良かった、なんて思われないよう少しでも良い主でありたいと思う。れ


 アンナは少し複雑そうな表情だった。でもアンナはアンナで父上が絶倫スキルのせいで日中夜、常に僕の傍にいて休む暇のない彼女の身を案じて、そうしてくれたのだと理解している。


 だから複雑そうな表情をしながらも彼女は父上に向かって感謝して頭を下げていた。

 それを見た父上も少しホッとした表情を向けている。やはりかなり気にかけていたようだ。重ねた回数が回数だし。


 そして問題は元暗殺者のレイナの方なのだが、ある方からの指示は任せるということらしい。


 というのも彼女には以前の記憶がほとんどなかったし闇ギルドの情報も元々掴んでいた闇ギルドの所在地のみで、ただそこもすでにもぬけのからで意味がなくなっている。


 はっきり言って暗殺者であった彼女は生かしておく価値すらなかったのだ。


 だから師匠と父上が話し合い最後に僕の意見を求めて決断する方針にしていたのに、


「私、クライの傍にずっといる」


 さっから僕の腕を掴にしがみついて離さない暗殺者のレイナ。師匠や父上も不思議そうに僕を見ていた。


 彼女は曲がりなりにも暗殺者だ。自分の立場があまり良くないことは理解しているのだろう。

 黙って話を聞いていたレイナが突然僕の腕にしがみついてきたのだ。


「実はですね……」


 だから僕もこうなった経緯を父上と師匠に伝えた。それで今、父上と師匠が揃って頭を抱えてしまったわけだ。


「はあ、よく分かったよクライ。ではレイナに一つ聞く。君はまだ私を狙っているのかね?」


 父上が少しため息混じりに口を開くが、父上の魔眼が赤く光っている。彼女の言葉の真偽を確かめようとしているようだ。


「それはもう……興味ない。興味あるのはクライだけ。クライの傍にいたい」


 そう口にしたレイナが俺の腕にぎゅっとしがみつく。彼女から柔らかさが伝わってくる。


「そうか、よくわかった……。ひと月だ。ひと月経ってもその態度に変わりがなければクライの専属メイドにしてやる。それまでは仮だ。仮の専属メイドとして働くこと」


 観念したように父上が言った。もう父上の魔眼は解除されている。父上はレイナの言葉に嘘はなく暗殺の意思もないと判断したのだろう。


「マクロいいのか?」


 師匠は父上の事を心配しているから、その目がやめた方がいいと物語っている。


「いや、いいんだ。元暗殺者のレイナがクライの傍にいるのも悪くないと思ったのだ。

 だが一週間毎に状況の確認はさせて貰うぞ。それとクライ。その間魔眼をレイナに向けて使うなよ」


 なるほど。父上は魔眼の影響が切れると仮定して、その際、彼女がどうなるのか確かめようとしている。


「分かりました」


 その後は軽く仮眠をとりアンナと身体を重ねる算段だったが、どうも無理っぽい。

 師匠にいつもの日課をこなすよう指示されたのだ。


 ただ師匠は父上と話があると残ったので僕たちだけ。でも今回からトワとレイナも参加した。もちろん強制ではなく本人たちがそう望んだから。


 でもトワは走ってる途中でふらふらになって倒れた。僕もはじめの頃は倒れていたから初めてにしては頑張った方だと思う。

 レイナはふらふらになりながらもなんとか完走していた。

 ただし次の訓練中にダウン。しばらく横になっていた。


 ――――

 ――


 問題はその夜だった。トワとレイナを自分の部屋に戻るよう指示したあと僕はアンナは待ってましたとばかりにいつもの行為に励んでいた。我慢していた分かなり激しい。


「アンナずるい、レイナも」


「そうですよボクも仲間に入れて」


「「え!?」」


 なぜかすでに全裸になったレイナとトワが僕の部屋の中にいて、するするっとベッドに潜り込んでくる。

 僕とアンナはお互い夢中になっていて全く気がつかなかったのだ。


「どうして二人がここに?」


 ようやく動き出した頭で考える。専属メイドになったばかりのレイナとトワにはまだ僕の部屋の鍵は渡させれていなかったはずなのに、そう思うと同時にトワが元盗賊だった事を思い出す。


「えへへ。ボクがドアの鍵を開けたからだよ」


「そう、トワ、鍵開けた」


 ――やっぱり。


 それによく考えなくてもレイナだって元暗殺者、鍵を外しての侵入なんてお手の物ってわけだ。


「はあ。今回のことは見逃してあげるから、レイナもトワも部屋に戻って」


「それはダメ。レイナ、専属メイド。仕事内容は奥様に聞いた。ちゃんと役目果たす」


「ボクもクライ様の専属メイドだもん。それにクライ様とボク、同じ歳ですよね。奥様に聞きました。

 クライ様が大丈夫なんですからボクだって大丈夫だよ。だからボクにも任せてよ」


 僕の言葉を大きく首を振って否定した彼女たちは左手の小指に嵌っている避難リングを得意げに見せてくる。


「それは……」


 どうやら二人とも母上に会ってから避妊リングをもらったようだ。その際母上に何を言われたのかが気になるけど。二人の反応を見るにロクなこと言われてない気がする。


「いやいや、それでもダメだ。レイナもまだ仮のメイド。トワもそんなことしなくても僕の専属メイドには変わりないから早まらなくてもいい。ほ、ほらアンナからも何か言ってくれ」


「クライ様……残念ながらレイナもトワもクライ様の専属メイドです。立場としては私と同じ。だから私の立場では何も言えないのです。

 けれど彼女たちの気持ちは、クライ様の専属メイドとして役目を果たしたいというその気持ちだけは私にもよく分かります」


 まるで彼女たちを擁護するようなアンナの発言。アンナらしくない。そう思ってしまったが、それでもアンナは僕に抱きついたままでその行為をやめる気配はない。そのことを不思議に思っていると、


「でもクライ様。私がこうしていれば彼女たちは何もできませんよね」


 笑みを浮かべたアンナが僕の耳元で囁く。


 ――なるほど。そういうことか……


 結局アンナが僕にずっと抱きついてきてくれたので彼女たちから手を出されることはなかったけど、彼女たちは彼女たちで環境の変化や、慣れない訓練もありよほど疲れていたのだろう。


 僕の両隣で横になったかと思えば、すぐに寝息を立てはじめてた。ホッとする僕とアンナ。その後は勿論激しくお互いを求めるのだった。

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