夢の中の男は、僕のいるこの世界をギャルゲーだと言っていた。

第13話

「クライ様もういいですよ」

「そう。アンナありがとう」

　アンナの合図で僕と師匠は向き直る。暗殺者と盗賊はすでに服を着ている。

　なんでだろう。少し残念に思っている自分がいることに困惑するが、今はそれよりも彼女たちから情報を得ることの方が先月か。

「じゃあまず君から名前と年齢、屋敷に侵入した目的を話してくれる」

　僕は暗殺者とは繋がりはないと思える盗賊の少女から尋ねた。繋がりがなければ聞くことも少ないしね。

　ほっかむりを取っている少女は肩辺りで切り揃えたピンク色の髪をした少女だった。

　やはりというか見た目は僕と同じくらいの歳に見える。

　ただ初めて会うはずなのに何故か何処かで会ったことがあるような、見たことがあるような気がする。なんでだろう。

　――『サブキャラ』

　ふとそんな言葉が脳裏を過ぎる。こんなこともあの日を堺によくあることだ。ほとんどの場合僕にはその意味が分からないけどね。

「はい。ボクはトア。たぶん１２歳。目的は食べる物が欲しかった……」

「たぶん？」

　深く聞けば彼女は物心ついた時にはすでにスラムに住んでいて、名前もなく正確な年齢も知らなかった。

　だから名前も歳も自分で勝手につけたのだという。

　それから一人で必死に生きてきて、今回は偶然、屋敷に潜り込む人影を見かけたから自分も紛れて食べる物を奪ってしまおうと思ったらしい。

　ちなみに暗殺者に彼女のことは気がついていたのかと尋ねたところ、気づいていたらしい。当然だよな。気づいていて放置した。少しでも陽動になれば良いと思ったらしい。

　――しかし、僕と歳が変わらない少女が、幼い頃から一人で生きてきたなんて……

「トア、君は今までどんなことをしてきた？　人を殺したことは？」

「はい。主に食べる物を、盗めるものはなんでも盗みました。あとは服だったり下着だったりも、人を殺したことはありません」

「そう」

　――当然か。

　彼女には育ててくれる親がいないのだ、生きるためには自分でどうにかしないといけない、けれど彼女は子どもだった。

　子どものとれる手段なんて限られている。それが盗むことだったのだろう。

「孤児院には行かなかったのか？　幼い子どもが一人で生きるには辛いと思うが」

「孤児院は行った。けど余裕がないと追い返された」

「クライ、この王都には孤児院では賄いきれないほどに、スラムに住む子どもがいる。親を亡くした子どもがな」

　僕が知らない王都の現状を師匠が補足してくれた。

「……そうですか。師匠ありがとうございます……だいたい事情は分かりました。それで師匠」

「そいつは関係ないと分かった。クライの好きにしろ」

　僕が魔眼で操っているので彼女は淡々と答えているが、彼女の話を聞いていると自分がいかに恵まれた環境にいたのかと、そう自覚せずにはいられなかった。だから俺は彼女に提案する。

「トア、これも何かの縁だ。もし君さえ良ければウチの使用人として働いてくれてもいい。もちろん住む場所は用意するが、盗みはやめてもらうことになる。

　いっとくがこれは命令ではない。同情からそう提案しているんだ。だから仮に断ったとしても君を捕らえることはしないから正直に考えてくれ」

　そう言ってから僕は彼女を解放した。解放した途端に彼女の目に色が戻るが、腰が抜けたようにペタリとへたり込んだ。

「あれ？　あはは、なんかごめ、すみません。ボク、力が抜けて……立てないや」

「気にしなくていい。たぶん僕の魔法（魔眼のことは伏せている）の影響だ。でも記憶は残っているだろう。そこのソファーで休みながら少し考えてくれ、アンナ頼む」

「はい」

　それからアンナがトアに肩を貸してから僕の部屋にあるソファーに座らせた。

　次に僕は暗殺者に目を向ける。

　暗殺者は白い髪でトアよりも短くカットされていた（ショートカット）。しかも白さは髪だけでなくその肌も。人形かと思わせるような風貌だった。

「では聞かせてくれないかな。君の名前と年齢、屋敷に侵入した目的を」

　まずはトアと同じような質問をしてみる。

「はい。私はレイナ。歳は１６、目的は魔眼所持であるネックラ家当主を殺害すること」

　彼女に視線を向け質問をしているとふと頭に過ぎる言葉があった。

　――『暗殺戦闘員』

　トアの時と同じように頭の中に浮かんでから消えた。これも僕には意味が分からなかったが、こうも続けてあるとなんだかモヤっとするが、考えても意味がないので頭の片隅に寄せる。

　それから質問を続けたが、彼女は闇ギルドの一員、しかも末端としか分からなかった。依頼主もギルド長の指示に従っただけでそれ以上は何も分からない。

「師匠どうしますか？」

「ふむ。これ以上有力な情報は得られそうにないだろう……問題はこいつの処遇だが」

　そうだ。彼女は情報を洩らした、というか僕が吐かせたんだけど、彼女は闇ギルドを裏切った形となっている。彼女は意図せず闇ギルドから追われる立場となってしまった。あくまでも闇ギルドにバレたらの話だけど。

「とりあえず今日のところはこのままクライが拘束しといてくれるか？　俺はちょっと確認してくる」

　師匠は陛下に報告して指示を仰ぐのだろう。

「はい分かりました」

　僕はそれを了承する。

　ただ気をつけないといけないのが、魔眼で操ったままの状態であれば拘束する必要はないが、三時間もこの状態でいれば彼女は達してしまう。それはさすがにちょっとまずいよね。

　まあ、師匠はそのことを知らないからそんな指示をしてきたのだろうけど、そこはまあ、僕が二時間おきに魔眼をかけ直せばいいこと。それこそ鍛錬の賜物で僕は三日くらいは寝なくても平気だから朝まで寝ないなんて苦でも何でもない。

「うむ。頼むな」

　それからすぐに師匠は僕の部屋を出ていったが、僕はレイナに二時間おきに魔眼をかけることになった。

　もちろんアンナも僕に付き添ってくれたので、せっかくなので三人で紅茶を呑んで朝まで過ごすことにした。

　レイナはついでだ。暗殺者とはいえ抵抗すらできない女性に黙って立たれているのも悪い気がしたのだ。

　ちなみにトワは疲れていたのかいつの間にかソファーで寝てしまっていたので、そのまま寝かせてやった。