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 おそらくノエルがモンスターの発生予告をするようになってからはじめてであろう。比較的問題のなさそうなところでの出現予告だった。

 俺が居た――と言ってもホントに短い間だが。その学院の校庭なのだ。

 休校ということもあり、生徒は居なさそうだし。教師の姿も見ていない。

 もっとも職員室とかに行ったら誰か居るかもしれないけど。

 モンスターの発生予告まであと5分ほどなのだが……。

 あまりにも拍子抜けな内容で、困惑していた。

 赤い大きな三角形が横回転してるんだからモンスターの出現数は3体なのだろう。

 中型3体ともなれば警戒すべき内容のはずなのに――攻撃手段なしのモンスターらしいのだ。

 防御力もそんなに高い方ではないらしく。極端な事を言えば俺一人でもなんとかなりそうなのである。

 そこら辺をブラックさんに聞いてみたところ、予想外の返答が返ってきた。


「おそらく今回は、ボス戦に向けてのサービスゲームだ」

「え? ボス戦……レベル1のボス戦ですか⁉」

「あぁ、前回のレベル0の時もそうだった。調子に乗って甘く見たところを返り討ちにされた」

「じゃぁ、ここはしっかりポイント稼いだ方がいいんですかね?」

「本来であれば、誰か一人が独占した方が良いのだろうが、私達は共闘すると決めているからな」

「じゃぁ一人一体ずつって感じっすか?」

「それもあるが、今回は連携を試してみたい」

「連携ですか?」

「あぁ。せっかくの機会だからな昨日みたいに連携した方が良い相手がこれからは増えると考えている」

「わかりました」


 そこまで話したところでブルーさん到着。

 誰がどんな役割をするか決めて戦闘開始。

 出現したモンスターは三角形のはんぺんだった。

 確かに巨大ではあるがそれだけ。ふわふわと浮いていて何もしてこない。

 まずはブラックさんが、かかと落としでモンスターを地面に叩きつけ、そこをブルーさんが正拳突き。そして向かってくる相手に向かって刀もどきを左手だけで突き刺す。

 たったこれだけで、一体目を撃破していた。感触は見た目通りはんぺんみたいだった。


「うむ、どうだろうか? 実際は、こんなに簡単にいかないだろうが一つの方向性として意見を聞きたい」

「「俺は良いと思うっすよ!」」

「そうか……ならば、あと二体も同じ方法で撃破するぞ」

「「了解っす!」」


 あっさりと片付けて即撤退。

 最近恒例となった式部家のマンション屋上に移動。

 

「ところでレッド、ポイントの振り分けはどうしている?」


 ブラックさんに聞かれてふと思い出した。ノエルが何かポイントと引き換えに得た能力があるようなことをいっていたことを――。


「実は、そこらへんノエルに全部任せてるんですけど、なんか特別な能力と引き換えとかも可能なんですかね?」

「あぁ、もちろんだ。私が空中で比較的自由に動き回れるのも、そういった能力を選択したからなんだよ」

「そうだったんですね!」

「ちなみに俺は、これだ」


 そう言って、ブルーは右の拳を突き出してきた。


「見た目には、あまり変化はないがブルーのハイパワーナックルは、かなり強力だぞ」

「そうなんですね!」

「うむ。きっちり決まれば昨日の魚もどき位は一撃で行けたはずだ」

「マジっすか!」

「ただ、あれだけ人が居るところではとても使えん」

「そうですよね……」


 それこそ、トラックが人込みに突っ込むような事になりかねない。


「それから今回は、かなりポイントが入っているはずだ。振り分けは慎重にな」

「了解っす! もう、あんな事は絶対にごめんすからね!」

「だな」

「じゃぁ、俺はちょっとどうなってるのかノエルに聞いてみます。なぁ、ノエル俺のポイントの振り分けとかってどうなってるんだ?」

【回答。基本ポイントの振り分けは攻撃力及び素早さに1割。残り8割は防御力に割り振っています。ボーナスポイントについては保留中】

「なんか、スピードとパワーは1割ずつで、残りは防御力みたいです」

「ふむ、いまさらだがシールドスーツはどのタイプを選択している?」

「防御力重視型ですね」

「なるほど、防御特化型か……」

「や、でもそれだとポイントあんまり得られないんじゃないのか?」

「確かに、その一点においてはそうかもしれないが。バランスといった側面から見ると理想的だ」

「そう……なんですかね?」

「スピード重視の私に、パワー重視のブルー。そして防御特化型のレッド。前回の敗因も油断から生じたものだった。ポイント欲しさに防御力を疎かにしたのが原因だったからな」

「そうっすよね。実際防御にある程度振り分けるようにしてなかったら、こないだのやつもヤバかったっすからね」

「あぁ、それに防御特化型に対するボーナスアイテムにどんな物が設定されているか誰も知らない。状況次第ではカネルの思惑を打ち破る突破口になるやもしれんからな」

「確かに、クソゲーではあるけど穴もありそうっすもんね」

「その通りだブルー。せっかく実装したアイテムが予想外の使われ方をしてゲームバランス崩壊なんてことはネットゲームでもある話だからな」

「そう考えるとレッドは俺たちにとって希望の星ってところっすかね?」

「ぜひ、そうなってもらいたいものだな」

「や、ちょっと待ってくださいよ! 俺、まだ全然弱いままっすから!」

「まぁ、そういうな。それからおそらく今夜、同じ場所にモンスターが出る」

「え? なんでわかるんですか⁉」

「前回がそうだったからだよ……」


 ブルーさんの声はとても重々しかった。


「そこでだレッド! もし今夜同じ場所にモンスターが出現するようなら書き込みはしないでくれ」

「え? いいんすか⁉」

「あぁ、かまわない。メディアの扱いが急に大きくなったからな、できれば一般人を巻き込みたくはない」

「それに、フルパワー使えねぇってのもつれぇしな」


 言われてみれば確かに、野次馬連中はじゃまでしかない。


「だったら、嘘の書き込みして誘うってのはどうですか?」

「うむ、ありだな。ではこうしよう。10分前なら本当の書き込み20分以上前なら嘘の書き込み」

「了解っす じゃぁ時間だけは本当のこと書いときますんで」

「いつも悪いな、キミ一人に危ない橋を渡らせてしまっている」

「いいっすよ。そこらへん身内に強力な味方が居るんで」


 紫先輩が何とかしてくれるって言ってたんだからきっと何とかなるんだと思う。


「分かった。理由は聞かないが、その人の手腕に期待しよう」

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