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お昼は紫先輩のお母さんが作ってくれたカレーだった。
手作りのカレーなんて食べた記憶がない。きっとこれがおふくろの味なんだろうな~なんて思っていた。
今のところノエルからモンスター発生の予告はないし。平和な時間を過ごしていた。
そんな中――とうとつに愛衣先輩が口を開いた。
「初めてのキスがカレー味って興ざめじゃないかな~?」
「そうか、私はケンカするたびにカレーを食べるだけで仲直り出来そうな気がするし。それはそれで悪くないと思うがな」
「ん~言われて見ると、なるほど一理あるかもだよ。じゃあ克斗君ゴタゴタ片付いたら一緒にカレー食べようね!」
「カレー食べるだけならオッケーですよ」
「んも―! なんで、こんちゃんばっかり好き好きするの! 私だってかまって欲しいんだよ!」
「はぁ、別に好きで付き合ってるってゆーか……まだ全然そんなんじゃないですよ……」
「だ、そうだぞ」
「むー! いいもん! 克斗君のハート奪っちゃうんだから!」
「はいはい好きにしろ」
「へー、紫先輩ってそんな顔もするんですね」
まるで普通の女の子みたいな笑みだった。
「む~~‼ じゃあ、代わりに最大譲歩案を提示するよ! もし私の事も好きになってくれたらずっと一緒にいるって約束するよ! 恋人だって別れるし夫婦だって離婚する。例え恋心が無くなっても一緒にいてあげる! それなら文句ないんでしょ? ほかにいい人できても諦める。ほかに好きな人できても克斗君だけに抱かれてあげる。それが普通なんでしょ? みんな心の中じゃそう思ってるんだよ! ホントは、他の娘の方が良いって! でも建前とか意地とか義務とかあって心に嘘ついてるだけなんだもん。だからそう、私も嘘をついてあげる。これでみんなと同じだよ。嘘ついて克斗君だけが好きだよ、ずっと変わらずに愛し続けるよって言い続けてあげる! それが理想の恋人さんなんでしょ?」
「いや、その……」
なんで愛衣先輩こんなに必死なんだ?
「別にずっと一緒にいてほしいなんていってないんだよ! 克斗君は好きにすれば良いんだよ! 浮気したければすればいいし! 他に好きな人ができたら別れてあげる! どうせ私には嘘は通じないんだから意味なんてないんだよ! ね。どう。これ以上の譲歩案なんてないくらい理想的でしょ?」
「その、先輩気持ちは嬉しいんですけど…よくわかんないです」
「嬉しい、分かってくれたんだ!」
「へ?」
「こやつはそうやって人の心を読むのだよ。貴様が上っ面で何を言おうと深層で思い感じ決めた事をこやつは理解した」
「えと…その。どういうことですか?」
「つまり、貴様が迷いかねているのは嘘で、すでに答えはでているということなのだよ」
「うん。あとはこんちゃんしだいだよ」
「まぁ…家の親のことだうるさくは言わんだろうが、はてさてなんて言って報告したらよいものやら」
「いや、その、意味わかんないんすけど」
「なんども言わせるな! 少しは自分の頭で考えろ」
「それはそれとしてさ、私こんちゃんに聞きたいことがあるんだよ?」
「ほ~。いまさらながら、私と対話が必要な事があるのかと私は問いかけたいがな」
「ちがうんだもん実際に声で聞いて確認したいんだもん」
「だったらそういえばよかろうに」
「わかってて、からかってるのはそっちじゃん!」
「はいはい、わるーございましたね。で、なにを私は応えればいいんだ?」
「真剣な話なんだよ」
「ふむ」
「おおまじめな話なんだよ」
「ああ、だからなんだ何が聞きたい?」
「私ってこんちゃんよりも女の子としての魅力に乏しいとは思えないんだよ」
「うむ、それは同感だな。私が貴様に勝っている点を上げるとしたら身長くらいだが…この場合むしろマイナスだろうしな」
「私ってさ、こんちゃんよりも可愛いよね?」
「ああ、むしろ私は怖いと言われることすらあるくらいだからな」
「私ってさ、こんちゃんよりも胸おっきよね?」
「ああ、残念なことに私のサイズは平均以下だからな」
「わたしってさ、こんちゃんよりも性格いいよね?」
「そうだな、一般論で言ったらやはりきさまに軍配は上がるだろうな」
「じゃあさ、なんで克斗君は私に振り向いてくれないのかな?」
「さぁな、むしろそれは私が聞きたいし。その理由だってきさまは知ってるはずだ」
「む~~~! 分かってるもん! 分かってるもん! 分かってるけど納得いかないんだもん! 私って克斗君の好みのど真ん中なんだよ! ドストライクなんだよ! 直球なんだよ! なのになんで変化球通り越して大暴投に手が伸びちゃうの?」
「さぁな。その理由とて貴様の方がわかるだろうに」
「わかてる、わかってるもん、でも、でも納得がいかないんだよ! ねえ、私ってそんなにも魅力無いのかなダメなのかな?」
「さぁな、その理由も貴様の方が遥かに私より知ってるだろうに」
「む~~~~!」
「それにだ…そんなことだったら、私ではなく直接本人に聞けばいいだろう?」
「や…その…すっごくこの場から逃げ出したい気分なんですけど」
「でもね! だからっておっぱい小さい方が好きってことはないよね! おっきほうが好きだよね⁉」
「はい、それは否定できない事実かと……」
「うん。それは分かってるの! でもね! 今の克斗君の頭にはこんちゃんの裸体が浮かんでるんだよ!」
「げ……」
ホントに隠し事できないんだなこの人には。
「あはははは、だったら愛衣も一緒に風呂に入ってこい。そうすればきっと今よりも親密な関係になれる」
「む~~~~~! 克斗君のバカ! 絶対私の方が良い身体してるんだからね!」
「や、だから…」
「って! やったよこんちゃん!」
「ん? そうなのか?」
「うん! どうせなら三人でお風呂に入りたいって!」
「そうかそうか、三人一緒となると少し手狭かもしれんが、その望み今夜から叶えてやるとしよう」
*
部屋割りとしては、紫先輩と愛衣先輩が同じ部屋で、俺は自室を与えらえていた。
ただし、ベッドはない。代わりに寝室があり、そこにキングサイズのベッドがあり。これで『今日から一緒に寝れるね♪』なんて言われている。正直なところ興味はあるが……。
ちょっと前までの俺だったら涙流して喜んでたはずの展開なのに……なぜか素直にそう思えないのだ。
ノエルに対する罪悪感というよりもノエルと戦っている時の方がはるかに興奮しているし気持ちよく感じる気がするのだ。
まるで性欲が戦闘欲に負けてしまったかのようだった。
そこで気になるのは、ボロボロになってしまった木刀……。
「もう、だめだろうな……コレ?」
「だろうな、だが安心しろ、代わりの物を用意してやった」
部屋が開けっ放しになっていたからだろう気付いたら紫先輩が何やら物騒な物を持って近づいてきた。
見た目で金属製の物だという事だけはわかる。
「安心しろ、刃が付いていないから銃刀法違反にはならんはずだ」
「や、でもそれで叩かれたらめちゃくちゃ痛そうですけど?」
「でなければ、武器として役に立たんではないか」
「ま、まぁ、確かにそうですけどね」
いったい、どこからそんなもの持ちだしてきたんだろうか?
「医者というものをやっていると嫌でも顔が広くなるものでな。そこで金型を作っている知り合いに父が頼んでくれたのさ。なんでも娘婿がモンスターと戦いたいから武器が欲しいと言って頼んだら喜んで作ってくれたそうだ。感謝しろよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
受け取ると、ずっしりとした重さを感じる。
「なんでも硬い鋼を削り出しているから木刀なんぞよりはましなはずだ。それに柄の部分が重くなるように仕上げてあるから取り回しもそれほど悪くないと聞いたがどうだ?」
握るところにはテーピングテープが巻かれていて滑り止めになっている。試しに振ってみると思った以上に扱いやすそうだった。
「ありがとうございます! なんかこれなら今まで以上に戦えそうです!」
すっごく嬉しかった、3人一緒にお風呂入るとかよりもよっぽどワクワクした。
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