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 追撃が来るかと思って即座に立ち上がったのだが……。

 続きはなかった。

 種を明かせば簡単なこと格闘技経験があるからこその弱点だった。

 おそらく青い人は相手の目を見て戦うことが身についてしまってるのだ。

 目は口ほどにモノを言う。コレは格闘技にもあてはまる。

 人は本能的に何処を攻るか自然に見てしまうからだ。

 例えるなら、胸の大きな女性を見ると、ついソコに視線が向かってしまうようなものである。

 だからこそ相手の目を見れば次にどこを攻めてくるか分かってしまうのだ。

 しかし、このバトルスーツを着込んでしまうと、内側から外の景色は普通に見えるが外からは真っ黒でなにもわからない。

 対峙した相手が普通の人間だったら問題ないが、同じ条件下では別だった。

 だから、動態視力と経験測を頼っての行動になる。

 つまり、全力を出しきれないフラストレーションを積もらせながら戦うのと視覚的な情報が不足していても相手の行動が手に取るように分かるものとでは差があって当然。

 迷いがないのだから、一つ一つの動作は鈍くとも切れがある。

 ましてや誘いに乗った振りをしたところに攻撃してくれるのだからなおさらだった。


「一つはソレですね。俺には先輩方のように強い攻撃力はありません。ですから、ブラックさんの力を利用させて頂きました」

「なるほどな、一理ある」

「ざっけんじゃねー! 言うほど簡単じゃねーはずだ! 何を隠してやがる⁉」


 青い人が起き上がりながら吼えていた。


「そして、二つ目の理由。ブルー先輩は、右の突きを出す時にモーションが大きくなるんですよ。ですからそこを狙って合わせて見ました」

「なっ⁉」

「あはは、だから言ったじゃないか。キミはもっとコンパクトに動くことを心がけた方が良いって」

「で、ですがブラックさんっ!」 

「まぁ、言うな寝ていろ! 正直なところ、まさかこんなものを狙っていたとはな。レッド! キミに興味がわいた! 一対一で測らせてもらう!」


 強烈な蹴り足で直線的に加速して迫ってくるブラックさん。


【報告。友軍プレイヤー№3の攻撃。初激の中段右回し蹴りはフェイク。下段左後ろ回し蹴りが本命。かわされた場合の追撃あり】


 退避方法は後方退避を選択。ぴょんっと後ろ飛びして距離を稼ぐ。

 着地した右足を軸に回転を生かした強烈なのが本命!

 狙いは足払いをして態勢を崩す事か! 回避方法は、跳躍による空中退避がベストなきがするが。

 しかし、その選択は――その先に繋がるであろう長い足を武器にした上段回し蹴りで撃墜される可能性が大きい。

 だから、相手が背を向けて一瞬視線が切れるタイミングに合わせて左足を浮かして一歩前へ出して蹴りを跨ぎ残った右足も蹴り飛ばされる瞬前に軽く浮かしてかわす。

 そして次撃の中段後ろ回し蹴りが来る前に両手でブラックさんの腰を押した。

 右足が地面に着く寸前に押されて体制を崩したブラックさんは無様に倒れ込む。

 俺にとっては割と力を入れた方なのだが…やはりブラックさんの次撃を止めただけに過ぎなかった。

 ブラックさんは上半身を起こして、俺をを見上げた。


「ほ~。アレを前に出て歩いていなすか…ふむ。どうやら、ブルー。お前の言ったとおり、私もどこかの道場にでも入門して基礎から教わった方がよさそうだな」

「いやいやいやいや、ブラックさん、いくらなんでも今のはありえませんって!」


 たぶんだけどブラックさんは元々身体能力が高かったんだと思う。だから特に格闘技の経験がなくともそれなりに戦えてたんじゃないだろうか。

 そこに青い人がアドバイスしてたってことなんだろうな。

 今の蹴りだって、めちゃくちゃ早かったし。


「はぁ。今の結構力入れて吹き飛ばしたつもりだったんですけどね……全然ダメージ与えられないなんて…やっぱり、俺は圧倒的に弱いですね」

「って、おい! 俺達二人を軽くあしらっといてなにほざいてやがる!」

「いやいやいや! 全然軽くじゃないっすよ! 全力っすよ! もう、っめちゃくちゃギリギリで、ひやひやなんですから!」

「どうやらキミは、本当に私達の動きが読めるんだな」

「あ、はい。だいたい二手くらい先までなら読めるみたいですね」

「はぁ⁉」

「なるほど、それはそれで素晴らしい力の選択だったと言うほかないだろうな」

「って、まてや! じゃあ、キサマは俺達二人の動き全部理解した上でアレをやったってことか⁉」

「ん~。理解って言うか…。なんかその、対処方法とかは自分で考えなくっちゃいけないんですけど、それを選択した時の動きっていうかタイミングっていうかなんか上手く説明出来ないんですけど…だいたい分かるんで」

「はぁ⁉ なんだよそりゃ!」

「ちょっと、まてブルー私がまとめよう。つまり、キミの能力は見切りなんだろう。相手の行動や攻撃方法。そしてそれらに対しどう対処したらどの様な結果になるかが瞬時に理解できてしまい対応も出来る。でなければ、私の蹴りを利用してブルーを突き飛ばしたり蹴りを歩いていなすなんて芸当を簡単にやってのけた説明がつかないからね」

「見切りっていうよりは、カンニングに近いイメージですけどね」


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