30
待ち合わせ場所は屋上から校庭の中央付近に変更してもらっていた。
一番は、俺の能力では屋上までジャンプなんてできないからだった。
どこまで本当か分からないが、モンスターを倒して得たポイントをきちんと振り分けていけば俺でも似たような事が出来るらしいのだが……。
全てノエルに任せると言ったのだから今後もお任せモードで行こうと決めている。
なにせブラックさんの説明が本当なら、俺はとんでもないデスゲームに参戦しちまってることになるからだ。
かと言って今日のヤツみたいに無差別に暴れまわるような奴らを無視したくもない。
となれば戦う以外の選択肢なんてなかった。
待ち合わせ場所に着くとすでにブラックさんと青い人が居た。
周りは真っ暗なはずなのに、変身してると夜でも物が良く見える。
ノエルの説明では、夜間戦闘も考慮しての装備だから当然なのだそうだ。
「スイマセン! 待たせちゃいましたかね?」
「いや、今日キミに教えた時間はわざと少し遅くしてある。どうしてもブルーと話しておかなければいけないことがあってね」
「――っ! マジで赤いのかよ!」
どうやらブルーと呼ばれた方にはよく思われていないらしい。
新参者に対するいじめみたいなものだろうか?
「ふ~~。すまないね。これでも丁寧に説明したつもりだったんだが…なかなかキミをレッドと呼ぶことを了承してもらえなくてね」
「や、俺は何でもいいっすよ。ようは戦闘に支障がなければいいんですよね?」
「みたまえブルー。レッドの方がよっぽど大人の対応をしている。ここは先輩として恥じるべきところだぞ」
「わかりましたよ! よろしくなレッド!」
【警告。敵正規プレイヤー№4による敵意を感知。接触した場合の大破率大】
差し出された右手をスルーした。
どうやら青い人とはあまり仲良くできなさそうだ。
「どうしたんだいレッド?」
「や、にぎり潰されるの分かってて握手できるほど俺、強くないっすから」
「どういうつもりだブルー⁉」
ブラックさんの声色が明らかに怒気を含んだものになっていた。
「やっぱ、俺納得できないっすよ! レッドさんは、やっぱり赤はレッドさんだけのもんすよ‼」
「だが、彼は何も知らされず気付いたら巻き込まれていただけで他意はない! いい加減、子供じみた考えは改めてるんだ! それに、今がどんな時かキミ自身だって良く分かっているはずだ!」
「分かってますよ! でも、それでも納得できないんすよ!」
なんか、サイレントの皆さんに会えると思ってルンルン気分できちゃった自分がバカみたいに思えてきた。
式部先輩とは方向性が違うが相当めんどくさい人みたいである。
「だったら、こうしませんか? 俺、情報だけ提供するんで後は好きにしてください」
今日の戦いで思い知らされた圧倒的な戦力差。たぶんだけど俺なんかいなくても二人でじゅうぶんな気がしたのだ。
「待ってくれレッド! 昼間も言ったが私はキミと共闘したいと思っている!」
「でも、チームワークって大事だと思いますよ?」
このまま仲間割れとか最悪過ぎる。
「もちろん分かっている! だから頼む! 時間をくれ!」
ブラックさんに頭を下げれてしまっていた。
命の恩人にここまでされては、さすがに『はい、そうですかさようなら』なんていえない。
「ちょ! 待ってくださいよ! ブラックさん! なんでこんなヤツに頭下げてるんすか⁉」
「キミのせいだろ? 頼むから少しは理解する努力をしてくれ」
「ちっ……わかりました。努力とやらをしてみます」
そう言って青い人は俺に向かって空手だかなんだか知らないが明らかに格闘技経験者であろう構えを取って見せる。
「や、圧倒的に弱い相手に向かってする事じゃないと思うんですけど……」
「悪いな、俺はどちらかというと脳筋タイプでな、キサマが強い弱いは関係ない。身体で語り合おうってだけの話だ」
つまりボコられて泣いて見せろと?
正直なところ冗談じゃない。さっきのノエルの反応からしても圧倒的に向こうが強すぎる。
やはりここはハンデが欲しいところだろう。
「じゃぁ、二人同時にかかってきてもらえませんか? それならOKですよ」
「「なっ!?」」
「ノエル! いつもの頼む!」
【了解。安全装置解除。肉体制御開始。運動領域抑制装置解除。各部伝達系統正常に接続完了。基本運動性能200%で固定。痛覚神経遮断。動体視力向上完了。味覚、嗅覚神経遮断。心拍数正常に上昇中。各部神経伝達速度最大で固定。感覚判断基準完全共有回路構築成功。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに設定。戦闘開始】
「脳内お花畑のてめぇとは違うところみせてやる!」
「レッド、キミの意図は分からないが乗らせてもらうよ」
勢い良く迫りくる二人。
それでも、明らかにブラックさんが青い人のタイミングに合わせようとしているのが見て取れた。
なんとなく、ブラックさんがスピード重視型で青い人がパワー重視型なのかなとは思ったが予想通りみたいだ。
【敵正規プレイヤー№4の攻撃。左手による突きと見せかけて右手によるフルパワー突きと判明。友軍プレイヤー№3の攻撃右足による蹴りと判明】
右手側に青い人。左手側にブラックさん。
明らかに手加減された蹴りは実に合わせやすかった。
後に倒れこみながら伸び切る瞬間を左足で蹴り上げる。
向かう先は青い人の腹部。
「ぐはっ……」
当たると信じて思いっきり突っ込んできたところにカウンターの蹴りを食らってバランスを崩す青い人とそれに巻き込まれたブラックさんはもつれるように倒れこむ。
「なるほど、ふたり一緒とはこういうことだったか」
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