26



 ――そして、隣に在るビルの屋上で降ろされた。

 周りに人はいない。

 ってゆーかマジスゲー!

 始めてみた時も飛ぶように消えたかと思ってたが実際に飛び跳ね回ってビルの屋上まで来たときは、空を飛んでるみたいだった。


「付き合ってもらったのは、キミと話をしてみたかったからなんだ」


 なんとなく女性が無理に低い声でしゃべっているみたいな声色。

 殺意とかは感じない優しそうな声だった。


「いえ。いいっすよ! 助けてもらった恩人ですし!」

「恩人?」

「あ、はい! こないだ駅のホームで助けてくれじゃないっすか! マジありがとうございました」


 俺は大げさなくらいに頭を下げた。


「ふむ。だったら、もしも私が礼の代わりに私達の仲間になってほしいと言ったらキミは仲間になってくれるのかい?」

「え?」


 俺なんか仲間にしてどうするんだ?

 さっきだってめちゃくちゃてこずってたし。

 俺とは対照的。相手にはあっさりとモンスターを倒す力がある。正直足手まといにしかならないと思った。


「本当のところ、こんな感じでキミを引き入れるのは本意ではない。ただ頭の片隅には置いておいてほしい」


 予想外の展開になってきた。


「あの~。俺なんか仲間にしてメリットってあるんですか?」


 しばらく沈黙が続いた。すっごく言葉を選んでいるみたいである。

 俺、そんなに変なこと言ってないよな?


「一つ聞きたいが、キミはサイレントと呼ばれる私達をどう思う?」

「まぁ、賛否両論あるみたいっすけど俺にとってはヒーローですね!」


 命助けてもらっちゃってるしな!


「なるほど、それで憧れてカネルの話に乗ったと言う事でいいのかな?」

「は…? カネルって誰っすか?」


 またしても沈黙が続いた、今度はさっきよりもだいぶ長い。

 腕を組んで思考を巡らせているみたいだ。


「もしかしてキミは今、自分が私と同じ格好をしている事に気付いていないのかい?」

「へ……って! ぅえ~~~~‼」


 見える範囲、俺の体は赤かった。頭に手をやるとヘルメットみたいな物を被っている感触がする。


「なるほど。どうやらキミは騙し討ちかなにかで、このゲームに参戦させられたと考えてよさそうだな」

「あの、えと、俺も、サイレントになってるってことっすか⁉」

「サイレントとは、どこかの誰かがつけた総称であり。私達がそう名乗っているわけではないんだよ」

「えっ? そうだったんすか?」

「ただ、このスーツを着ている以上。キミもサイレントの仲間だと思われる可能性は高いだろうね」


 マジか! マジなのか!

 朝起きたら脳内に彼女が居ましたってなくらいにビックリな話だ!


「じゃぁ、先輩ってことですよね?」

「まぁ、そうなるのだろうな」

「俺は、菊池克斗っす! 好きに呼んでください!」

「バカかキミは‼」

「えっ⁉」

「さっきのは聞かなかったことにする! 我々がなぜ正体を隠し沈黙を貫いていると思っている⁉」

「へ……」

「国家権力の犬にだけはなりたくないからなのだよ! 今、私達がまとっているスーツ! 特にステルス機能については戦略兵器並みの価値がある!」

「そうなんすか⁉ って、ゆーか、ステルス機能ってなんすか?」

「モンスターが近くに居る時だけは強制的に解除されてしまうが、それ以外では現状我々を認識できるのは同じスーツを着たものどうしだけだ」

「そうなんですね……」


 戦略兵器とかよくわかんないけど、女湯覗きたい放題ってのだけは良く分かった。犯罪者扱いされても仕方がないのかもしれない。


「ゆえに私達はカラーで呼び合う事にしている。私ならブラック。キミならレッドだ」

「じゃぁ、今度からはブラックさんって呼べばいいですかね?」

「できればさん付けはやめてほしい。もしも共闘するようになった時。その一瞬が生死を分ける可能性すらあるのでな」

「あの~。さっきも気になったんすけど。俺なんか仲間にしてブラックさん達にメリットってあるんすか?」

「なっ⁉」


 あれ? なんで固まるかな? 俺、そんなに変なこと言ったか?


「どうやらキミは自分の持っている能力を過小評価しているようだ」

「そう…なんですかね?」

「この際だからはっきり言おう。このゲームにおいてモンスターの発生時刻は分からないことになっているし。場所の特定も発生してからでなければ分からない事になっていたのだよ」

「えっ⁉」

「しかし、キミにはそれが分かるのだろう?」

「まぁ、正確には俺じゃなくってノエルのヤツっすけどね」

「ノエル? まさかキミ以外にも正規プレイヤーが居るのかい⁉」

「いいえ。そうじゃなくって俺の脳内にいる彼女の事っす」


 ながかった。とても長い沈黙だった。

 真っ黒なバイザー越しでもなんとなくわかる。

 ブラックさんはさぞや困惑した顔を浮かべていらっしゃることであろう。


「分かった。どうやらキミは自分がとても危険な状態に置かれていることを理解していないようだね」

「や、わかってるっすよ! 落ち着いたら精神科にかかろうって思ってますから」

「いや、それは無駄だ」


 そんなにか⁉ そんなに脳内に彼女が居るのはヤバイことなんか?


「カネルが関わっている以上。そのノエルというシステムはキミと隔絶した個体として存在しているはずだ」

「へ……?」

「つまり、キミが彼女と呼んでいるモノは、カネルにより作られたシステムであり脳内に組み込まれているのであれば最悪自我を失う可能性すらある」

「マジっすか⁉」


 でも……言われてみれば、ノエルが似たようなこと言ってたな。


「だが、問題を回避する方法はある」


 なんとなく相手の言いたいことは分かる気がするが。俺も男だ! 一度決めたことをそうやすやすとかえたくはない!


「や、いいっす。俺、これからもノエルと一緒にやってくつもりなんで」

「なっ⁉ 分かっているのかい⁉ 自我を失うかもしれないのだぞ⁉」

「はい! それでもです! どっちにしろノエル居なかったら死んでたと思うし。今こうしていられるのもノエルのおかげなんで」

「ふ~~。どうやらキミは相当な頑固者のようだな」

「そうっすかね?」

「まぁ、いずれにしろ私達はキミの持つ索敵能力が欲しい。考えてみてはもらえないだろうか?」

「いいっすよ」


 またしても沈黙があった。この人頭よさそうなのに回転悪いんかな?


「本当に仲間になってくれるのだな?」

「はい。こんな俺でよければOKっす」

「正直こんなにも簡単に話がまとまるとは思わなかったよ」


 ――その後、本来なら知っておかなければいけないことを色々と教えてもらったりした。


 変身する時は、時と場所をわきまえろとか、毎日深夜に集まって情報交換してる場所とか、モンスターが湧くのは一日一回だと教えてもらい。

 ゴルフバックを回収してもらい。

 友軍登録した後――書き込みは不特定多数の者が集まらないように10分前にするようにと言われ。

 いずれは携帯端末の持ち主が俺だとばれて、最低でも重要参考人扱いになるから覚悟しておけと言われたあと――。

 式部先輩の家――正確にはマンションの屋上までお姫様だっこで運ばれて解散となったのである。


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