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 サイレントと共闘してモンスターを撃退したことを式部先輩に報告すると――こちらも婿養子の話が内定したからと訳の分からない事を言われた。


「あの~。ちなみに誰と誰が結婚する予定なんすか?」

「私と貴様だよ」

「ん~? なんでですか?」

「あいかわらず察しが悪いな。愛衣の苗字が近々変わるといったであろう?」

「はい」

「それはつまり、我が式部家へ養子として迎え入れるということなのだよ」

「でも、それとこれってあんまり関係なくないですか?」

「では、もう一つ条件を追加しよう。貴様は例の一件以来店の手伝いは出来ていないのであろう?」

「はい……確かにそうですけど……」


 むしろ店に出たら迷惑かけちまう。


「つまり、今のお前さんは義父の負担にしかならない状況にある。それを画期的な方法で解決するにはどうしたらいいと思う?」


 あいかわらず悪い笑みを浮かべている。


「家を出て他に行けと?」

「そうだ、そこで我が式部家が喜んで迎え入れようと言っているのだよ。な、悪い話ではなかろう?」

「もしかして…先輩って……ゴクリ」

「残念ながら貴様に対する恋愛感情などない」

「へ……?」

「だが、本来結婚なんぞそういったものなのだよ。親同士が決め、始めて会ったのが結婚式だったなんて話も当たり前の時代だってあった。それに比べればいくぶんかましであろう?」

「や、でも俺って彼女居るし!」

「だったらノエル! お前はどう思うか克斗に言ってやれ!」

【報告。愛衣お母さんと一緒に暮らすのは賛成。よって紫をお姉さんと設定し友軍登録する事を推奨】

「なっ!」

「ほれみろ、別に嫌がってなどいなかっただろ?」

「まぁ、確かにそうみたいですけど……」

「安心しろ。婚約と結婚はまた別の話だ。どうしても嫌なら愛衣と結婚してもいい。それも嫌なら破棄すればいいだけの話だ。それに今回はこちらから申し出ている話。支度金として相応の額を義父にプレゼント出来る好機でもある」

「え……そう、なんですか?」

「感謝しているのであろう? 育ててくれたことを」

「そりゃもう! 気づいたら居なくなってたおふくろに代わって面倒みてくれたんすからめちゃくちゃ感謝してますよ!」

「親孝行とやらをしてみたくはないのかい? 少なくともお前さんの義父は私との婚約の話。たいそう喜んでおられたぞ?」

「う……」


 外堀埋めて逃げられない状況にしてからこれか……。

 なぜかそういう人だって分かっているはずなのに思った以上に嫌な気はしなかった。

 でもまぁ、それはそれとして、こちらの報告だってまだ残っている。


「分かりました、考えるだけ考えてみます」

「うむ。口先だけでなくしっかりと考えろよ」


 しっかりバレてるし。でも見てろよ! こっちだってとびっきりのビックリネタ用意してあるんだからな!


「まぁ、結婚の話は置いといてですね。実は俺サイレントの仲間になったんすよ!」

「そうか」

「へ……それだけっすか?」

「安心しろ、いずれ貴様に捜査の手がおよぶのは想定内の話だ。すでに手は打ってある。むしろ心配なのは貴様が他のサイレント達の情報を漏らさないか否かといったところだろうな」

「それは大丈夫だと思います。ブラックさんすっごくそこらへん気にする人でしたから」

「であろうな、例え誰に何を言われても沈黙を守り続ける、ゆえにサイレントと私が名付けたのだからな」

「うぇええ‼ サイレントの由来って先輩だったんすか⁉」

「あぁ、そのとおり私が名付け親だ」


 なんか負けた気がするが――ってゆーか、この人と争うなんて考えた時点で負けだった気がしてきた。


「ところで、先輩の部屋ってこんなに段ボール在りましたっけ?」

「全部貴様の荷物だよ」

「へ…?」

「内定とは言え婚約者が一緒に住みたいと言ったら快く引っ越しの手伝いをしてくれたよ」

「えっ! ちょっとまってくださいよ!」

「またんさ、既成事実さえ作ってしまえばこっちのものだからな」

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