25
ドラックストアや100円ショップから高級衣料品まで取り扱う地元のショッピングセンターに来ていた。
ここの一階にあるイベント等が行われる場所に大きな三角マークが横回転していた。
時には大勢の人が集まったりする場所。今回も出現場所が悪い。
武器の木刀は式部先輩のお父さんが昔使っていたという細長いゴルフバックの中に入っている。
さすがに木刀むき出しで歩くのはよくないという配慮からだった。
問題があるとすれば警官が居たり。サイレント目当ての連中が思った以上に多い。
事前に書き込みしているのだから、ある程度は覚悟していたが……式部先輩の言ってた通りの状況になっちまっている。
モンスター発生時刻までは、あと少し。俺は3階にあるゴルフショップを背にして手すりから静観していた。
今回はの相手は中型らしく今までとは比べ物にならないほど大きいそうだ。
だが、大きいイコールめちゃくちゃ強いというわけでもないらしく基本攻撃は音波だとわかっている。
そこで、立てた作戦は――。
ちょっと皆には悪いが初激は受けてもらい。逃げるなり耳をふさいでる時の混乱に乗じて参戦という形をとろうと思っている。
【報告。敵モンスター発生まであと30秒。敵モンスターの攻撃。音波攻撃と断定】
今のところ特に変わった様子はない。警官がおそらく二人居て巡回していたり。
モブラーの連中も所かまわず動き回っている状況だ。
書き込みでは時間とショッピングセンターの1階としか書いてないのだから正確な位置は俺にしかわからない。
幸いなことに三角マークの近くに人はいない。イベントでもなければステージの上にあがったりする人は少ないからだ。
予定時刻になり現れたのは強大な黒いシルクハット、その両サイドには拡声器みたいな物が刺さっている。
もしかするとイベントステージにでも合わせたモンスターなのだろうか?
奇声と歓声が上がる中――それらを一瞬でかき消す音波が鳴り響く。
相手の攻撃が音波だとわかっていれば最初から耳をふさいでいればいいだけの話。
後は、ここから飛び降りて相手の上に着地する度胸くらいのものである。
木刀を取り出して!
「いくぞノエル! いつもの頼む!」
【了解。安全装置解除。肉体制御開始。運動領域抑制装置解除。各部伝達系統正常に接続完了。基本運動性能200%で固定。痛覚神経遮断。動体視力向上完了。味覚、嗅覚神経遮断。心拍数正常に上昇中。各部神経伝達速度最大で固定。感覚判断基準完全共有回路構築成功。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに設定。外骨格装甲展開。ステルス機能強制解除。戦闘開始】
手すりに飛び乗って跳躍からの落下。思ってた以上に恐怖感はない。
【報告。シールドスーツ正常に展開成功】
またわけのわからないことをノエルが言っているが気にしている場合じゃない。
《ほぷっ》
なんか気の抜けそうな柔らかい感触と共に着地成功。
同時に木刀も突き刺したからそれなりにダメージ入ってると思うが……どうなんだこれ?
宙に浮いていた相手を床に押し付けたまではいいが、まるで中身のない物を突き刺してるみたいで手ごたえがほとんどない。
それでも、ここはチャンスと思い連続で突き刺してみるが硬い所は見当たらない。
もしかして本当に帽子みたいで中身はすっからかんなのか?
【報告。敵モンスターの本体は左右にある金色の部分と判明。現状の攻撃に効果なし】
「やっぱりか!」
飛び降りざまに右側のでかいラッパみたいなものを思いっきりぶっ叩いたが、あまりダメージを与えられた気がしない。
見た目は薄い金属みたいなんだから少しくらいへっこんでもよさそうなものなのだが。
【報告。敵モンスター攻撃対象無差別と判明。音波攻撃以外に突撃攻撃ありと判明】
《キーン》
周りの反応を見る限りかなり大きな音だと思うのだが初日に味わった痛みというか頭がぐワングワンするような感じはまるでない。
まるで自分だけ耳栓でもしてるみたいだ。
それでも警官の一人だけは肩で耳をふさぎながら反撃しているが狙っているのが的の大きな黒い帽子である以上無駄玉でしかない。
【報告。敵モンスター音波攻撃が有効と判断。攻撃範囲を広めるため分離を選択】
まずい!
叩けば俺に向かって来てくれるかと思えば完全に無視。
とにかく片方だけでも仕留めるしかないと思い足止め目的で回り込んで叩き続けるが、手応えが悪い。
「ノエル! これって効果あるのか⁉」
【肯定。僅かずつですがダメージの蓄積を確認。現状のままで撃破可能と判断】
「ちなみにどのくらいかかる⁉」
「推測。約10分】
「ざけんな!」
10分も待てるか!
ふよふよと浮きながらもう一方が被害を広めているのは間違いないだろうし。
こいつはこいつで突撃攻撃とやらを仕掛けてくる気配もないから昨日みたいなカウンターも期待できない。
ひたすら、キーンというかん高い音を響かせているだけである。
「ノエル! もっと短い時間で何とかならないのか⁉」
【無謀。300%のパワーで現状の攻撃をした場合、武器の大破確率大。もう一方を倒す余力皆無】
どちくしょう! このまま叩き続けるしかねぇのかよ!
いくら叩いても突いても、ふわふわ浮いてる相手にあまり効果がないのも当然だった。
力が逃がされてしまっているからだ。
壁か床にでも押し付けられたらもう少しましなんだろうが、相手がでかくてそれもできない。
【警告。敵正規プレイヤー№3の乱入を確認。もう一方の本体撃破される可能性大】
「よし! だったら向こうはそいつに任せてこっちに集中するぞ!」
はっきり言ってラッキーなだけだ。
【了解、最大攻撃力を250%まで上昇】
先輩には悪いが買ってもらってすぐにボロボロになっちまった木刀の寿命もあとわずかといったところであろう。
【報告。敵正規プレイヤー№3によりもう一体の撃破確認】
「マジかよ! こっちはあとどんくれぇだ⁉」
【推定。約1分で討伐完了】
ちくしょうー。なんで突っ込んできてくれねぇんだよ!
結局一度も攻撃らしい攻撃を食らわないまま撃退していた。
ステージの上で、ふわふわしていた黒帽子も消えている。
【報告。戦闘終了。各種感覚機器及び動作機器を初期状態に復帰完了。各種動作機器に複数の問題発生。確認。動作機器に不具合を感じますか?】
「あぁ、あいかわらずのひでぇ筋肉痛だ」
【報告。ステルスモード復帰完了。警告。敵正規プレイヤー№3急速に接近中】
「は?」
「レッド話がある付いてきてくれ」
「へ?」
ステルスモードってなに? レッドってだれ?
よくわからないが俺の事なんだろうと思って付いていこうとしたが全く付いて行けず。
人生初のお姫様抱っこを味わうはめになっていた。
なんでも現場から素早く立ち去るのがサイレントの流儀だそうだ。
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