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 他人の家の風呂に入るなんて初めてで少し緊張してしまう。

 とりあえず体を洗っていると!


「じゃまするぞ!」


 と言って、式部先輩が入ってきた。


「えっ⁉ えぇぇっぇえっぇ‼」


 全裸である!

 どこも隠そうとしていなかった。


「うむ、ではせっかく一緒に入るんだ。背中を流してやろうではないか」


 まるで同姓を相手にでもしてるみたいに恥じらう事なく近づいてくる。

 普段下着でおおい隠されている部位が眼前に晒されていた。


「って、なに考えてるんですか⁉」


 慌てて目を閉じて顔を背ける。

 ごちん、と脳天にゲンコツが降ってきた。


【報告。準友軍プレイヤーと思われる相手から攻撃を受けました。確認。反撃しますか?】

「しねぇよ! いいから、ちょっと黙っててくれ!」

【了解。沈黙します】

「バカもの! なぜ目を反らす!」

「あ、当たり前じゃないですかそんなの‼」、

「では聞くが、私の身体は目が汚れるほどに醜くかったのか?」

「そっ、そんなことないじゃないですか! 俺だって男ですよ! そんなの見せられたらもうヤバイですって! ガマンできなくなっちゃうじゃないですか⁉」

「だったら我慢なんぞせんで拝めばよかろに」

「って! 先輩は俺に見られても平気なんですか⁉ っていうか、見せたいんですか⁉」

「あぁ見せたいし見て欲しい」

「ええぇ、そそれって……」

「身も心もさらけ出すといった言葉があるだろう。まさしく、その言葉通りの意味さキサマはその醜い背中だけでなく、心の内も語ってくれた。だからこそ私も相応の態度で応じているのさ。あいにく私にはキサマのように辛い過去と呼べるほどのものは思い当たらない。だからこそ、せめてもの礼として身を晒しているのさ。もっとも女性として見たら、乏しい点もあるがさほど悪くないと自覚していたが私の自惚れだったのか?」

「はぁ、つまり目を開けてしっかり見ろってことなんですね?」

「うむ、そーゆーことだ。では、背中を流してやろう」


 先輩の身体に、つい視線が流れ隅々まで記憶しようとしてしまう。

 そんな俺を式部先輩はニヤニヤしながら見ている。


「まったくデートとやらをすれば海やプールで遊ぶ事もあるだろうに。ましてこうやって共に入浴したのなら嫌でも肌を晒す。少しは考えなかったのか?」

「はい、今の今まで考えたこともなかったっす」

「まったく、よくそれで学院の女は全員俺の嫁とかいえたものだな」

「って! ちょっとまってくださいよ! なに、めいっぱい尾ひれつけてんですか!」

「いや。そうでもないぞ、噂では学院全ての女を孕ませるとなっていたからな。これでもかなりマイルドにしたつもりだ」

「げ…」

「まぁ、あれだけ皆に避けられているんだ。相応の噂が広がり。彼女達の中ではそれが真実となっているんだろう」

「ですよね……」


 確かに昨日のあれはすごかった。

 必死に逃げる姿は圧巻だった。


「では今度は貴様の番だ」

「へ?」

「私の体を洗ってくれ」

「冗談ですよね?」

「もちろん全身くまなくコースで頼む」

「冗談ですよね⁉」

「ほれ」


 式部先輩に泡のたっぷりついたスポンジを半ば強引に手渡さた。

 いいのかこれ?

 本当にいいのか?

 もしかして!


「後で慰謝料請求とか考えてないっすよね⁉」

「そうだな、少なくともココで逃げ出すようであれば考えるな」


 絶対になにかあるのは悪い笑みを見れば分かるけど……。

 洗ったよ! 本当に全身くまなく洗わされたよ!

 スポンジごしとはいえめちゃくちゃ感動したよ!

 だって式部先輩、確かに胸は控えめだけどすっごく綺麗だったから!

 そして一緒に湯船に浸かる。

 二人で入れば嫌でも肌は触れ合うし、目を逸らすわけにもいかない。


「ふふっふふふ。愛衣のヤツがこの事を知ったどんな顔をするか見ものだな」

「それが、目的っすか?」

「いいや、ほかにもある。私は口も悪ければ性格も悪いと自覚している。ゆえに男に抱いてもらえるのかが少なからず不安だったのだよ」

「や、確かにそうかもっすけど。先輩ってそんなに悪い人には思えないんっすよね」

「まぁ、貴様とは付き合いが浅いからな、そう感じる部分もあるだろう」


 コホンとわざとらしく式部先輩は咳払いをするといかにもこれからが本題だという顔をした。


「以前も話したこともあるが、私と愛衣も一蓮托生の身なのだよ」

「そういえば、そんなことも言ってましたね」

「あぁ、ゆえに生涯を共にすると誓い合っている」

「そうなんすね」

「ふっ貴様も他人事ではないのだぞ」

「えっ?」

「愛衣のヤツが貴様を気に入っているからな。もしもお前と愛衣が恋人になるようなら私も同じく扱ってもらわなければ困る」

「それってつまり……」

「あぁ、私たちは生涯同じ男性と共に暮らすことを目的としている。つまり女として抱いてもらえないようでは困るのだよ。もっともその一点については問題ないことが立証されて大満足といったところではあるがな」


 そりゃ俺だって健全な男子だもん!

 こんな状況になったら反応するさ!


「それとだ、少なくともここに一人は――貴様の醜い背中を抱きしめられる者が居るという事を覚えておけ」

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