23



 目覚めると昨日と同じ天井だった。

 自宅よりも式部先輩の家の方が近かったからという理由が大きい。

 なにせ、めちゃくちゃ体痛かったからなぁ……。


【起動。克斗の意識覚醒を確認。報告。損壊した部品の修復は的確に終了。要求。各可動部の動作確認をして下さい。報告。現在は超広範囲索敵モード中】


 普通に動いた。

 感激するレベルで痛みとかもない。


「あぁ、問題ないってゆーか、よく一日でなんとかなったな!」

【当然。正規プレイヤーには自己回復促進システムが搭載されています。さらにノエル搭載によりシステムの能力が向上。よって克斗が問題ないと認識するレベルでのダメージは即日復旧可能】

「まぁ、よくわからんが、お前が治してくれてたんだな」

【肯定。克斗の破損はノエルの破損と同等。よって自己修復力を最大限発揮するのは当然】


 あいかわらずよくわからん言い回しだが、少なからず俺の事を思ってなんだと思うと嬉しくて仕方がない。


《コンコン》


 ひかえめなノックのあと部屋着の式部先輩が入ってきた。


「ほう……声が聞こえたとと思ったら昨日の今日でもう動けるのか」

「はい、なんかノエルが頑張って治してくれたみたいっす」

「理屈はわからんが多分そうなのだろうな。先日の件もそうだが貴様の回復力は非常識レベルだと父も驚いていたよ」

「そうなんですね」

「あぁ、まだ言ってなかったな。家は代々医者の家系でな、私自身も医者を目指している」

「じゃあ式部先輩のお父さんも?」

「あぁ、医者だ」

「中途半端に知識を持つものだからこそ、お前という存在が計り知れなくて困る」

「えと、それはそれとして。時間って大丈夫なんですか?」

「あぁ、当面の間は休校だ」

「え?」

「当然だろ、あれだけの事があったんだ」


 確かに、あの教室めちゃくちゃになっちゃってたもんなぁ。


「もし休校にしなかったら保護者からの苦情が殺到しているだろうし。今も警察の現場検証は続いている」

「げ……もしかして、おれってヤバいっすか⁉」

「安心しろ、五石家のボディーガードが名誉の負傷と引き換えにモンスターを退治してくれたことにしておいた」

「マジっすか⁉」

「警察なんていうものはもっともらしい理由を並べてやれば納得するものさ。それなりに情報提供もしてやったんだボロは出すまい」

「ふ~~~」


 良かった。器物破損だの弁償だのと言われたらおやじに迷惑かけちまう。ただでさえ近くにコンビニ増えて経営厳しいって言ってたしな。


「それよりもだ。私が気になるのは貴様の強さの方だ」

「え? 俺そんなに強くないっすよ」

「確かに上級者からみたらそうかもしれんが少なくとも剣術の経験はあるのだろう?」

「あぁ……はい……」


 ろくな思い出はねぇけどな!


「ふむ。言いづらい話か?」

「いえ、俺兄貴たちに憧れて剣道始めたんすけど……」

「うむ、結果としてトラウマでも背負ったか?」

「あっ、はい。勉強もスポーツも兄貴達すっごくできる方で、特に剣道は全国レベルだったんすよ!」

「ほー、それはまたすごいな」

「でも、兄貴たちが居たせいで大会に出られなかった連中もいたみたいでして……」

「なるほど。背中の傷はその時に付けられたものか?」

「あぁ…見ちゃったんすね」

「着替えさせたのは私だからな」

「鍛えてやるとかなんとか言って、回り囲まれてボコボコにされて、それがきっかけでもう二度とやるもんかって思ってたんすけど……」

「結果的に救われて複雑な気分だとでも言いたいんだろうが気にするな。しょせん実力のない者は他人を蹴落としたり自分よりも弱いものを見つけていたぶるしか能のない連中なのだよ。そんなゴミみたいな連中のために手放すには惜しい力量を垣間見た気がした」

「そぅ…っすかね……」

「別にもう一度、剣道をやれと言っているのではない。これからもモンスター相手に戦うつもりなのだろう?」

「あ、はい。それは、そのつもりですが」

「だったら、武器は無いよりあった方がいい」


 そう言って式部先輩は後ろ手に持っていた真新しい木刀を差し出してきた。


「なんか色々と気をつかってくれてありがとうっす」


 木刀を受け取ると思った以上に軽く感じた。

 心の内を話したことで気分が楽になったからかもしれない。


「それでは朝食を食べたら風呂にでも入ろう」


 そういえば、昨日も一昨日もバタバタしていて風呂に入っていなかったことを思い出す。



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