18
インターホンごしに、「菊池克斗ですが愛衣さんを迎えにきました」と言うと母親と思われる人からいったいどういう関係なのかと問いただされたが。
直ぐに、愛衣先輩が出て来たので一応友人ですという体裁をとってみた。
ここまでの流れは全て式部先輩に指示されたものであり。むしろここからが本番だった。
「おはよう、こんちゃん! 克斗君!」
「おはようございます。愛衣先輩! 今日もおっぱいおっきいですね!」
本音をそのまま言えと強く言われてる以上こういうしかない。
それに苗字で呼ぶのも禁止されていた。なんでも近々苗字が変わる予定なので今のうちから名前呼びに慣れておけと言われたのだ。
しかしながら、母親のいる前である……。
普通に通報案件な気がしてしかたがないが、『私が何とかするから安心して思った事を言え!』と言われてるのだからしかたがない。
そう、しかたがないのだ! 俺は言われたから仕方がなく男心をぶっちゃけただけなのである。
「ふ~ん」
愛衣先輩の顔はまったく蔑むような顔ではなく。ただただ、にこにこしている。
「じかに見たり、触ったりしてみたい?」
「はい! もちろんです!」
「ねぇ、こんちゃん!」
「良かったじゃないか願いが叶って」
「ん~~~~‼」
突如愛衣先輩はうなりながら俺の腕に抱き着いてきた!
ふにょんと柔らかくも暖かい大きな、それはそれは大きなふくらみに包まれて大満足だった。
ありがとうございます! 式部先輩! あなたの言った通りにしたら本当に抱き着いてもらえました!
大感激している俺とは真逆で、愛衣先輩は式部先輩を睨んでいる。
「こんちゃんのバカ! バラスならバラスで事前に言ってよね!」
「貴様が無駄な努力なんぞをしようとするのが見え見えだったのが悪い」
「そうだけど! 確かにそうだったけど! う~~~~~~‼」
「愛衣先輩は、怒った顔も可愛いですね」
「ふぇ?」
「や、思った事をそのまま言えって言われてるんで気分悪くしたらスイマセンっす」
「ん~ん。克斗君は全然悪くないよ! 悪いのは、いつもこんちゃんの方だもん!」
「おかしいなぁ、私としては礼を言われる予定だったのだが」
式部先輩は悪い人のする笑みを浮かべていた。
「あ~はいはいはい! ありがとうございました! あなた様のおかげで男の子の友達ができました!」
まったく気持ちのこもっていない言葉に聞こえなくもないが、こういうやり取りのできる間柄って本当にいいと思う。
「じゃあ、いこっ克斗君!」
愛衣先輩が歩き出したので俺も「あ、はい」ゆっくり歩み始める。
だらしない顔をするなと言われても無理だろこれ?
だってこんな可愛い女の子に抱き着かれたまま登校とか夢みたいである。
そんな俺の横を、ニヤニヤしながら歩く式部先輩。全ては彼女の予定通りの結果だと思うと女神に見えてきた。
心なしか、後光が差している気がするレベルである。
「あっ! そうだった! 昨日は助けてくれてありがとね!」
「いえ、こんなご褒美があったんですから、むしろ礼を言うのは俺の方っすよ!」
「一応、言っとくけどお礼が遅れたの全部こんちゃんのせいだからね!」
いくら愛衣先輩が睨んでも女神様には通用しないらしくニヤニヤと悪い笑みを浮かべているだけである。
「それとね…克斗君の頭の中に居る彼女さんにもお礼言いたいんだけどね。名前はなんて言うのかな?」
「ナナシですけど」
「ん? ナナシちゃん?」
「いえ、名前がまだ決まっていないのでとりあえずナナシって呼んでるだけっす」
「えええええええ! ダメだよそんなの!」
「そうなんですか?」
「だってね。精神的疾患にしろ外部的要因にしろ克斗君の中にもう一人居るのは間違いがないんだよ! だから、ナナシなんていい加減なのじゃなくてきちんと名前付けてあげなくっちゃかわいそうなんだよ!」
「まぁ、そうなんすけど…なんか突然だったし…声だけは女の子っぽいんで、なんとなく彼女らしい名前を思いつくまでわって……」
「ふ~ん。で、どんな感じの娘なの?」
「どんなと言われましても、基本的に声だけですし」
「そなの?」
「はい、実際に聞いたりしてるように感じるって感じっすかね~」
「ふ~ん。不思議な事もあるもんだね~」
「や、普通に電波な会話が出来る愛衣先輩の方が遥かに不思議な存在でしょ!」
「そかなぁ。だって克斗君ウソ言ってないんだもん。否定する意味がないんだよ。目は口ほどにモノを言うだよ! 私はね! 目を見るとその人がウソを言ってるのかホントのこと言ってるのか分かるんだよ!」
「なんか、先輩の方がよっぽどファンタジックな気がしてきましたよ。ってゆーか。さっきっから、先輩俺の目見てないですよね⁉」
「ん~。だって声聞いてるだけでも克斗君がウソ言ってないって分かってるから見る必要ないんだもん。それと、ノエルちゃんってのはどうかな?」
「のえる? って、だれですかそれ?」
「んも~。だから克斗くんの頭の中に居る彼女さんの名前だよ! 脳から得た彼女だから、のーえるで、ノエルちゃん。ね、なんとなく女の子っぽいじゃない」
「ん~。まぁ、言われて見ればそんなきもしなくもないですが…なんかお菓子かなんかでそんな名前ってありませでした?」
なんとなく過去に扱ってきた店の商品の中にノエルという単語が含まれていた気がしたのだ。
それも、去年のクリスマスが過ぎた頃に胃袋に押し込んだ記憶と。
途轍もない孤独感を感じさせられた食べ物だった記憶がある。
「おそらくそれはブッシュドノエルだな」
「あっ! そうっす! それですよ! おやじが注文間違えちまって正月まで毎日食ってたヤツだ! 最後の方は腹壊したんで廃棄処分だったんすよ!」
「なるほどな、貴様にとってはトラウマものの名が彼女の名となるわけか。うんうん実に愉快じゃないか。なぁ愛衣?」
「う~~~~~~~‼ そういうことばっかり言ってると克斗君に嫌われるよ!」
「安心しろ、私に嫌われる要素はあれど好かれる要素など微塵しかない」
「む~~~~~~‼ こんちゃんのバカ‼」
「や、いいっすよノエルで。なんかしっくり来たって気がしたんで」
「そう…みたいだね」
「いやいや、本当に人の心が読める人間と言うのは都合がいいなぁ」
「う~~~~~~~~~‼」
愛衣先輩がうなるたびに押し付けられる幸せなふくらみ。最高だった!
【確認。ノエルを正式名称として登録する事に問題はありませんか?】
「あぁ! これからもよろしく頼むぜノエル!」
「あ、あのね克斗君が命の恩人なら、ノエルちゃんも同じ命の恩人なんだよ。だからありがとねノエルちゃん!」
【要求。名付け親は特別な者と認識。よって愛衣お母さんと呼び友軍プレイヤーとして登録してもよろしいでしょうか?】
「あぁ、聞いてみる」
「ん? ノエルちゃんなんか言ってたの?」
「はい、名付け親は特別だから愛衣先輩のことをお母さんって呼びたいそうです」
「えへへ~♪ そうなんだ、なんか嬉しいかも」
「だってさ」
【感謝。友軍プレイヤーとして登録します】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます