21



 モンスターの発生場所は昨日と同じく赤い三角マークで示されていて……お姉さんのすぐ隣だったりする。

 俺は軽く手を挙げて会話に割り込む。


「あの~。いいっすか?」

「なんだ!」 

「そこ危ないんで、逃げた方がいいっすよ?」

「ふざけるな! 貴様なんぞに指示される覚えはない! 仮にモンスターが発生したところで一瞬で切って捨てればいいだけの話!」 

「や、ここはサイレントの皆さんに任せるのが一番かと」

「ふんっ! あんな正体不明の輩なんぞに――」


 モンスター発生と同時にお姉さんは真横に大きく吹っ飛ばされ壁に激突。

 カランカランと木刀の転がる音がする。

 モンスターの見た目は銀色で重々しく。大きな団子を3つつなぎ合わせたような感じなのだがその一つ一つにトゲトゲがいっぱい付いてるのがヤバかった。

 縦に3つ並んで湧いてくれてればよかったが、横になって湧いてくれちゃったためお姉さんと座標が重なっていた。

 バキっと何かが折れるような音がしたんで、かなりひどいケガをさせちまったみたいだ。

 逃げるにしろ戦うにしろ覚悟を決めるしかない。お姉さんを見捨てたくはないからだ。


「ノエル! 昨日のアレ頼む!」

【危険。敵モンスターの攻撃力B。移動速度B――】

「いいから、やれ! ちょうど良い武器もあることだし時間稼ぎだけすりゃあとはなんとかしてくれんだろ⁉」


 サイレントがな!

 今日もバッチリ書き込んだんだから来てくれるはずである。


【了解。安全装置解除。肉体制御開始。運動領域抑制装置解除。各部伝達系統正常に接続完了。基本運動性能200%で固定。痛覚神経遮断。動体視力向上完了。味覚、嗅覚神経遮断。心拍数正常に上昇中。各部神経伝達速度最大で固定。感覚判断基準完全共有回路構築成功。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに設定。戦闘開始】


 俺はそくざに転がってる木刀を拾い上げ中段の構えをとる。

 正直あまりいい思い出はないが、この際だ文句は言ってられない。


【報告。敵モンスター索敵終了。攻撃対象克斗に決定。非正規プレイヤーの撃破から突撃攻撃が有効と判断。突撃攻撃開始まで後3秒】


 相手が何をするか分かっていて馴染んだ武器があるならやることは単純だった。

 構えを中段からやや上段に構え直し斜めに打ち付けて突進してくる力を逃がしてやればいいだけである。

 モンスターの直撃を食らった机や椅子がバラバラに砕け散っていた。


「式部先輩お願いします!」


俺が何を頼むのか分かってたみたいでモンスターの初激をいなすとほぼ同時にお姉さんを担ぎ出してくれていた。


「克斗死ぬなよ!」

「はい!」

【報告。敵モンスター分離を選択】


 やはり簡単には終わってくれないらしい。

 バスケットボールよりも少し大きいくらいのトゲトゲした球体が回転しながら3つ宙に浮いている。

 どうやら、このモンスターは空を自在に飛び回れるらしい。


【報告。敵モンスター3方向からの攻撃を選択】

「了解だ!」


 教室の中央付近から窓側の隅に移動する。

 これだけで、後ろからの攻撃を防げるんだから安いもんだ。

 後はさっきと同じく、打ち落とせばいいだけの簡単なお仕事である。


【報告。敵モンスター耐久力重視型と判明。突撃攻撃以外の攻撃手段無し】

「え? あのトゲって打ち出してきたりしないわけ?」

【肯定。現状維持で時間稼ぎに有効と判断】


 何度となく打ち落としているが本当にそれ以外なにもしてこなかった。

 打ち落とされては距離を取り。突っ込んでくるの繰り返し。

 木刀の耐久性が心配っちゃ心配だが全て受け流してるんだからまだまだいけるはず。


「なぁ、ノエルもしかしてなんだが単独撃破できるんじゃないのかコレ?」

【危険。当初の目的通り時間稼ぎを推奨】

「でもなぁ……」


 串刺しにすればいけそうな硬さなんだよなぁ。

 サイレントが来る前に木刀折れたらヤバいし。


【報告。敵モンスター現状の攻撃では意味がないと判断。3方向からの同時攻撃を選択】


 それなりに相手が俺の死角を突こうとしてたのは分かっている。

 だが逆にそれだからこそどこから来るか分かりやすかったのもある。

 つまり、死角をわざと作ってそこに誘い込めばやれるはずなのだ。


「ノエル! 相手を誘う! 一瞬だけでいいから瞬発力を300%まで上げてくれ! カウントダウン頼む! 頭狙って来たところをしとめるぞ!」


 木刀を左脇に隠すかのように引き付けながら前傾姿勢をとり後頭部を相手にさらす。


【了解。敵モンスター、ターゲットを頭部に集中。攻撃開始まで3・2・1】


 ぐわっと頭を上げると同時に相手が直線状になる瞬間を見切って突き刺す。

 3つすべてが中心付近とまではいかなかったが――2つは成功、残った1つもそれなりに手応えはあった。

 突っ込んできた威力そのままに俺の脇を狙ってくるかと思いきや距離を取ってグルグル回っていた。


【報告。敵モンスター2体撃破を確認。残る1体の耐久力僅か。通常攻撃にて撃破できると判断】

「なんだよ。やっぱやれんじゃねぇか」

【反省。克斗の適正値を低く見積もっていた模様】

「で、あとはまた突っ込んできたとこ打ち落とせば終わりでいいんだな?」

【肯定。敵モンスター突撃を選択】


 ワンパターンに突っ込んで来たところを打ち落とせば――本当に終わっていた。

 木刀だいぶ痛んじまったな……コレって弁償だよなぁ。


【報告。戦闘終了。各種感覚機器及び動作機器を初期状態に復帰完了。各種動作機器に複数の問題発生。確認。動作機器に不具合を感じますか?】

「あぁ、ひでえ筋肉痛だが問題ねぇ」

【報告。今回得たポイントによりシールドスーツ選択可能になりました。スピード重視型。パワー重視型。防御重視型。の3種類から選択可能】


 また意味の分からないことを言い始めた。

 どちらにしろ俺の言うことは決まっている。


「ノエル。お前に任せる」

【了解。防御重視型を選択しました】

「すごいんだな、貴様――正直惚れそうなくらいに格好良かったぞ」

「あれ? 式部先輩居たんすか⁉」

「あぁ、途中からだがドアの隙間から覗かせてもらった」

「じゃあ、学院長室まで付き合ってもらっていいっすかね?」

「痛むのか?」

「はい、肩を貸してもらえると嬉しいっす」

「分かった、だが途中に面倒なヤツが居るから軽くあしらってくれるとありがたい」


 あぁ、なんとなくこれからが先輩にとっての本番なんだろうなぁってのが分かっちまった。

 ゆっくりとした足取りで学院長室に向かっていると本当に誰かいた。見た目は小学生みたいに小さい。

 通路の真ん中に立っていて、ここを通りたければ『私を倒してから行け!』みたいな感じで睨まれている。

 そして予想通り式部先輩が煽り始めた。


「これはこれは五石家のお嬢様。何かご用でもおありでしょうか?」

「ちっ! 相変わらずの言い草ですわね極悪狐!」


 どうやら相手も相当めんどくさい性格の持ち主らしい。


「いえいえ、これから不出来な後輩の後始末をしなければならないので通して頂けるとありがたいのですが?」

「ふんっ! これでも五石家の端くれ。助けていただいた恩を軽んじるつもりはありませんの!」

「あの~。まじ体痛いんで、お礼はココを通して下さいでいいっすかね?」

「なっ! それではまるで私が死人に鞭を打っているようではありませんか⁉」

「いえいえ、ここはどうかこの不出来者の願いを叶えてやっては頂けないでしょうか?」

「ぐ~~~~」

「もし、どうしてもとおっしゃるのでしたら考えては頂けないでしょうか?」

「なにをですの⁉」

「どうすればこの不出来者が喜ぶのかをです」

「分かりました、では今回の礼は後日改めてさせて頂くということでよろしいのですわね?」

「あ、はい」


 通してくれてありがとうございますを付け加えると当初の目的地に向かった。


「あの~。式部先輩。あんなんでよかったんですかね?」

「あぁ! あヤツの顔を思い出すだけで飯が食えそうだ」


 本当にこの人はぶれないんだなぁと思いながら学院長室に入ると待ってましたと言わんばかりに放校処分となったのである。







『なるほど、このような戦い方もあったのですね』


 今回の戦いを用意したのもカネルなら特別席で観覧していたのもカネルである。

 昨日みたいな展開になってしまえばあっさり退場。またしても営業活動をしなければならなくなってしまいかねない。

 そこで比較的単純な攻撃しか出来ないモンスターを用意したところ、思った以上に面白いものが見れて大満足だった。

 今後サイレントと敵対関係になるのか、それとも共闘するのかも含め楽しみでならなかった。


『正直なところ3人では戦力不足な気もしますが……』


 現状の戦力でどこまでやれるのか見たくなっていた。


『モンスターの湧く回数を増やしてレベルを上げを促すのもバランス調整の一つですよね』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る