第4話

義母バイ子が再び妊娠した。

その一報を聞いたとき、俺は愕然とした。


子供を出産してから一年間は避妊をするよう、日本の産科医ならば産後すみやかに指導する。

妊娠・出産の母体へのダメージは、決して軽くみていいものではないからだ。

だが、この世界は、日本のように医学が進んでいるわけではない。

産めるときに産んでおくか、ぐらいの発想しかないのだ。


まったくもって甘くみていた。

日本の知識が足枷になってしまい、そうしたことが起こりうるとは想定もしていなかった。

まさか、スネリオの出産してから二か月ほどで、次の子供を妊娠するなんて。


そうして、義母バイ子は、露骨に俺にマウントをするようになった。

こいつの前世は、きっとマウンテンゴリラだな。


家族の食卓では、スネリオが離乳食を食べ終えるまで、俺だけが待たされるようになった。

つまり、スネリオよりも俺を下に位置づけるような行動を始めたのだ。

食事という場面で露骨にやり始めたのは、日常的に俺に屈辱を与えることが目的だ。


当然、離乳食を食べ終えるまで待っていると、俺の飯は冷めてしまう。

そう。

俺は、リアルに冷や飯を食わせられるようになったのだ!


そして、冷や飯をリアルで食わされることに困惑した俺に対して、彼女は口角を上げながら、見下すような視線を送ってくる。

イラッとするわー。


この行動に対して、父が何か問題意識をもったかというと。

まったくの無関心を貫いた。


彼は、自分の配偶者(政略結婚のパートナー)には気を遣うが、自分の息子(所有物)には気を遣わない主義だった。

むしろ、積極的に子供を産もうとするバイ子に対して、肩入れしているように感じるぐらいだった。


あかん。

これはあかーん。


そうして、リアル冷や飯を食わされるようになった俺だが、生活にも変化が起きてきた。

廊下ですれちがっても、挨拶をしない使用人が増えた。

それどころか、俺から挨拶をしても、挨拶が返ってこないことも稀にあった。


どうやら、俺に対して、着々と包囲網が築かれてしまっていたようだ……。


あかん。

これはあかーん(二回目)。


そんな感じで俺が困惑しているうちに十月十日が過ぎた。


バイ子がまたも男児を出産した。


俺は六歳にして、『スネリオのスペア』という地位すら失ってしまったのだった。

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