第19話 薪ストーブ生活(仮)
田舎暮らしの三種の神器というものがあって、軽トラ、ユンボ、チェンソーだったかな。
それぞれ人力では不可能だったり、多大な労力を必要する作業があっさりできてしまう、ありがたい道具。
軽トラは軽トラでなくもっと大きなトラックでもいいのだけれど、なんといっても維持費が安く小回りがきいて置き場所にも困らない。
だいたいこういった三大美女とか三大がっかり名所とか三大なんとかには諸説あって存在感薄いのが一つ混じりがち、この中ではチェンソーがちょっと弱いか。
なので、チェンソーとセットで加えるべきと思うのが都会人の憧れ薪ストーブ。
都会の住宅地では費用面と設置場所がクリアできたとしても薪の入手とその管理、そしてご近所的に排煙と火災の心配やら難題が多く、決して不可能ではないが著しくハードル高い。
軽トラとユンボはまだないけれど、このたび齢30にして念願の薪ストーブ持ちにはなりました。
家の中でマッチ棒や紙屑を灰皿の上で燃やし、焚き火ごっこをしては怒られていた経験の持ち主としては、ここまで来たかと感慨深い。
まあ、車庫の中で味も素っ気もない焼却炉みたいな安物のストーブではあまり気分も出ないけれど。
5月半ばとはいえ、朝夕は寒く火の気なしではいられない。
小型の灯油ストーブとファンヒーター併用でも充分とはいえず、温泉のお湯チョロチョロ出しを試してみたら結露でエラいことになった。
ストーブは夜間点けっぱなし、ファンヒーターは明け方にタイマーでオン、あとは犬の体温頼りでこちらでの夜を過ごしてきたが、薪ストーブの実力はいかに。
まあ暖かいのは間違いない、そしてこれは薪ストーブの現実ではあるのだけれど、全てはぶっこむ薪の量と質に依存する。
薪ストーブのカタログで、熱量○○キロカロリーで○○坪(畳)まで暖房可能、燃焼時間○時間とうたわれてはいても、鵜呑みにしてはダメ。
大型のストーブは大量に薪が入れられるのでより暖かいだけ、ケチって少ししか入れないのはダメ。
燃焼時間というのも暖かさが持続する時間ではなく、薪をパンパンに入れて放置した場合に苦労なく再び燃やし出せる程度の熾が残っている間の時間らしい。
調子よく燃えると暑いし、薪が湿気ていると燻ぶり、せいぜい2~3時間しか暖かさは持続しない。
そんな扱いの面倒くさいやつだけど、火が目の前で燃えているというのはそれだけで何ものにも替え難く落ち着く。
ただの焚き火と違い火の粉が飛んできたり煙たい思いをすることもない、薪ストーブ生活それなりに満喫中。
が、そんな日々は続かない。
引越し時のダンボール類を焚き付けに、工作した際の端材やらと薪になりそうな枝を拾い集めて燃やしていたのだが、二晩ともたなかった。
本格的に薪作りをしないといけない、幸い基地周辺を整備する際に切り倒された雑木が敷地の脇に積まれている。
それを薪にすべく品定めしたが、樹種はマツっぽいのとシラカバ以外はよくわからない。
加工用ではないが移動させる関係でか長さは2メートル程度に切りそろえられ積み上げられている、落とされた枝も脇に山のようにこんもりとこっちは焚き付け用か。
ざっと見ると、かなり前に切り倒されたっぽいのと最近のものとが混在、地面に直に接しているものは腐朽が進み、時間が経ちすぎスカスカになったものも多い。
マツ類をはじめ針葉樹は薪に不向きというのは知識としてあったので、ぱっとみて判別できるシラカバと、持った感じが重い広葉樹っぽいのを薪にすることにした。
さてその前に、迷惑そうな顔のクロマル乗せて町まで買い出しに、食料品や日用雑貨を購入し、ガソリンスタンドに寄ってゲレンデにはハイオクを携行缶にはレギュラーを満タンに。
フェラーリやポルシェの様な高性能車がハイオク指定なのはわかるが、欧州車はファミリーカーでもだいたいハイオク指定。
これは日本のレギュラーガソリンのオクタン価が海外より低いせいで、海外と同程度なら割高なハイオクが必要な車種はぐっと少なくなるはず、いつも納得いかないままリッター10円ほど割高なハイオクを給油。
そして帰りに道の駅によってキジ撃ち、最近の公共施設のトイレはどこでもキレイだし温水洗浄便座付きなのでありがたい。
いまだ温泉はあってもトイレはない生活をしているので、午前中の買い出しと合わせての用足しはほぼ日課。
なんとかしないといけないのだが、ただでさえ狭い車庫の中に仮設型といえトイレを設置するわけにもいかず、小はクロマルと連れション、大は外出のついでに済ませている、いまだその時はきていないが緊急時には野グソか、大雨の日に下痢したらどうしよう。
アジトに戻り、ショップで試運転しただけのスチールMS260を引っ張り出してくる。
スチールはドイツのメーカー、双璧となるハスクバーナはスェーデン。
どちらが優れているということもないだろうが、ネットで集めた情報ではスチールはドイツっぽい手堅い道具のイメージ、一方ハスクはエンジン特性とか感性にくるものがあるのか、そういったファンが多い。
個人ユーザーが選ぶ場合は、ほとんど当人の好みと入手性で決まるだろう、スチールは認定ショップでの対面販売中心な一方、ハスクはホームセンターでも扱っている。
MS260は排気量50CCでプロ用の中型機になるがシロウトが使うにはほぼ最大サイズ、初めてなので小さいやつにしようと思っていたのだが、用途を説明したら店長にこれを勧められた。
新型が出たせいでお買い得価格だったのと、信頼性が高くいい意味で枯れているのでトラブルも少ないとのこと。
そこでは防刃のチャップスやら長靴やら安全装備などと油脂類に小物含め必要なもの一式を購入
エンジンは2ストロークで燃料は混合油、チェンソーやら刈払機では一般的な仕様。
混合油は出来合いのも売られているが自分で作る、そのためのポリタンがあってガソリンとオイルを目盛りを見ながら分けて入れ振って混ぜ合わせる。
ここで混合に用いるオイルはピンキリで混合比もいろいろある、エンジンの寿命にも関係してくるのでいいものをと店長に強調された。
自分はプロの木こりでもなく使う量もしれているので高級品で混合比は50対1、チェンソーメーカーが純正で用意しているものなら間違いはないだろう。
出来上がった混合油は、大小のタンクを連結したコンビ缶と呼ばれる混合油とチェンオイルを一緒に運搬できるポリタンに移す。チェンオイルというのは潤滑と冷却のため回転するソーチェンに吹付けられるので、燃料と同タイミングで補充が必要。
これも各種ピンキリあるようだが混合オイルほどうるさいことはないみたい、使用するのが自分ちの庭先なので生分解されるというタイプにした。
混合油とオイルを注油し、安全グッズフル装備で実質的なチェンソーデビュー。
教えてもらった手順を思い出しながら始動、しかしエンジンかからない。
スターターロープを引くのに不慣れで何度もしくじったせいで、プラグがかぶったか。
しばらくおいて再度チャレンジ、バスッという初爆がきた。
手応え感じて本始動、2ストのけたたましい音とともにエンジンがかかり少しビビる。
細めの枝を練習で試し切りし、いざ本番。
手前にあったそこそこの太い丸太をレールのように置き、運びやすい位置と太さのを10本ほど引っ張り出しその上に直行するように並べる。
音と振動は凄まじいが、あっけなくバターでも切るように太い丸太が切断される。
チェンソー操作上の注意点でよく言われるのがキックバック、ガイドバー先端部分の上側を当てると刃が自分の方に弾かれ跳ね上がってくる。
ブレーキやら安全装置は付いてはいるが気をつけたい、だんだん慣れてくると大胆になって危ないこともしだすだろうけど。
作業を進めていくと最初は不快だった音と振動に馴染んできて、チェンソーハイというべきか大型バイクにまたがっているかのような妙に高揚した気分になる。
小1時間ほどで燃料が切れたので作業を終了する、あたりには玉切りされた丸太がゴロゴロ、次はこれを小割りにしないといけない。
転がっている玉の中から太くて安定が良さそうなのを見繕って薪割りの台にする。
準備している斧は大型のグレンスフォシュ・ブルークのと、ハルタフォースの小型の薪割り斧。
どちらもスウェーデン製、ハスクバーナもそうだが林業関係は圧倒的に北欧モノが強い。
これまた、そこそこの太さで節もない割りやすそうなのを選び、おっかなびっくり割り始める。
細めで素直な木目ならば斧の重量だけであっさり割れてくれるのだが、そんな都合の良いものばかりなわけがなく、捻じ曲がったのや二股だったり節や瘤があると、ひと筋縄ではいかない。
力んで大振りすると芯を外すし、硬くて刃を弾かれたことも何度も。
右利きなので左足を少し前に出して構え斧を振り下ろすのが具合がいいのだが、割り損なって弾かれた斧身が爪先近くの地面を叩きヒヤリ。
ここから先は、格好は悪いが大股開きのへっぴり腰で斧を振り、どうにか玉切した分は割り終えた。
初めての薪作りで感じたのは、チェンソーでの玉切りも斧を振るっての薪割り自体よりも、丸太を並べたり玉を薪割り台に置いたり割れた薪を片付けたりの作業のほうが手間、助手が欲しいなと離れたところでアクビしているクロマルを横目でチラリ。
大汗かいて切り屑だらけの久々の重労働、風呂入ってビールがうまいだろうな。
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