第18話 通販生活

 本日最初の作業は、町道との取り付け部分に杭を打ち、看板のような表札のような我が家への案内表示の取り付け。

 杭打ちに関しては少し学習して下穴をあけるようにする。

 木の杭をいきなり力任せに打ち込んでもなかなか刺さらず、やりすぎると杭の頭が砕けてしまう。

 そこでカナテコという名状しがたいバールの親玉のようなものを買ってきた。

 長さは1メートル半くらい、片側はしゃくれたヘラ状で反対側は鉛筆みたいに少し尖らせてある。

 その尖ったほうを両手で持って足元の狙ったあたりに打ち込む、鉄製でかなりの重量があるので杭だと弾かれる地面でもそこそこ刺さる。

 繰り返し打ち込み少しずつ深く、ある程度進んでからグリグリとこじって穴を広げる、さらに打ち込みグリグリ広げる。

 そうするうちに深い穴が結構あっけなく掘れるので、無理なく杭が打ち込める。

 長めのを2本打ち込み、用意してきたコンパネの端切れにペンキで書いた表札をビス止めして完成。

 今日あたりからネットでポチったものが届き出すはずだ。


 お次は洗濯機を据え付ける。

 場所は井戸の脇の流し台の並び、電源は井戸ポンプのところからとれる、雨ざらしなので使わない時はシートを掛けることにして対応。

 今のところ本格的に雨が降ったことはないが、屋根なしだと雨の日には何かと困る。

 さらに根本的な問題は水が冷たすぎること、井戸水は冷たいものというのは温暖な地方での水道水と比べての話、測ってみたが水温5℃前後しかない、この町は湧き水が豊富で水道もそれに塩素入れた程度なので同様に冷たいらしい。

 手が痺れて長時間の洗い物は無理だし洗剤使っても油汚れが落ちにくい、電動ポンプのおかげで蛇口をひねれば普通に水が出てくるがお湯は出ない、温泉から引っ張るにも今度は温度が高すぎ火傷しそうなためダメ、あくまで仮設なので余計な手間とコストは掛けず我慢することに。

 こんな雪解け水みたいので洗濯して汚れが落ちるのかと思いつつ作業着類を入れて試運転、その間に洗濯紐を日当たりのいい位置に渡す。

木があるのは敷地の縁の方なので不便、物干し台が要るな、所帯じみてきて見た目は悪くなるが。


 そうこうしている間に到着日指定していた荷物が届きだす。

 まず郵便局が最初に運んできた小さい梱包を開ける、これはペット関連のショップから。

 すかさずクロマルの身柄を確保、ノミダニ駆除剤のフロントラインを肩の上辺りにデカいスポイトのような容器から毛を寄せて地肌に垂らす、マダニにも効くとなっているがノミのほうがメインなのかな、しないよりはましか。

 ちなみにこのあたり道東ではマダニはくさるほどいてもノミはいないらしい、さらに犬の業病フィラリアの心配もないらしい。

 蚊はいると思うのだが本当かな、フィラリアの予防薬は犬を飼う上で地味に痛い出費なので助かる。

 そして次の包みを開け小箱に入った道具を出す、見た目は釘を抜くバール、但しうんと小型で手のひらサイズのプラスチック製、大小入っていた。

 一般名称はよくわからないが商品名は「ティックツイスター」、ティックはダニのこと。

 要はダニ取りグッズ、形状はバールだがテコの力でぶっこ抜くのではなく、引っ掛けて回す。

 こちらもモデルさんの身柄を確保し、昨日から耳たぶにくっついているやつで試す。

 小さい方でやってうまくいかず大きい方に替えて引っ掛ける、ここまでは釘抜くのと同じ、あとはクルクル回すとあっけなくポロッと取れた。

 これ画期的、毛抜きとかピンセットだと周囲の毛ごと抜いちゃうのでハゲができるし、患者さんも痛がる。

 さらに、どうしてもダニを潰しがちで、潰すと体液を逆流させてそこから感染症になる危険もある。

 ダニを潰さないよう先が丸いカップ状になったピンセットも市販されているが、毛を挟んでしまうのは同じ。

 藪さんにも教えてあげたら大絶賛だった、キングは山の中走り回るのでさぞやダニだらけになるのだろう。


 続いて届いたのが大きいのやら細長いのやらの複数個口、中身は薪ストーブと煙突類。

 薪ストーブといってもではなく、薄い鉄板でできたドラム缶を立てたような形のモデル

 焼却炉も兼ねようとできるだけ大きいのにしたがそれでも重量20キロほど、鋳鉄製の本格的なのだとこの10倍にもなる。

 天気がいいと昼間はそこそこ暖かいが、氷こそ張らないまでも夜は寒い。

 小型のフジカストーブと、引越荷物で後から来た石油ファンヒーターでなんとかしのいできたが、力不足は否めない。

 燃やすものは周囲にいくらでもあるし、毎日火遊びができるというのもここへの移住理由の一つ。

 梱包から出して、本体を設置する大まかな位置決めをする。

 普通の住宅だと壁から最低いくら離してとか不燃材を間に置いてとかいろいろな約束事があるが、アジトの壁は鉄板。

 炎で直接炙るわけでもないし、少々熱が伝わる程度なら大丈夫だろう。

 問題になってくるのは煙突で、壁から出すか屋根から出すかどこかに穴を開けないといけない、自分の施工で屋根だと確実に雨漏りするので壁出しの1択。

 シャッター側に取り付けた壁を加工するのが一番簡単だが、そこだと出入りに邪魔だし暖房効率も考慮しもっと中央寄りに設置する。

 床板がわりのコンパネを剥がし、炉台として準備していたガーデンブロックを敷く。

 次に煙突を通す位置にマジックで約40センチ角の正方形を書き、一般にはサンダーと呼ばれているディスクグラインダーに切断砥石を取り付け壁の鉄板を切断する。

 作業自体の難度は低いが、凄まじい音と火花に腰が引けつつもなんとか完了。

 四角く穿たれた穴に木枠を取り付け、メガネ石という煙突サイズの丸い穴の空いた分厚い不燃材の部材をはめ、内外から金属製のカバーを木枠にビス止めして固定。

 煙突を装着してみてストーブの位置を微調整、外側に突き出た部分にさらに煙突を継ぎ足しステーで屋根に固定し完成。

 さっそく紙ゴミと木切れを放り込んで火入れの儀、錆止めか何か表面に塗られているもののせいか臭い、最初は外で燃やせばよかった。


 そして最後に運ばれてきた荷物、午前中指定のはずが16時過ぎ、この町内は時間指定不可地域らしい。

 町内に営業所のある他業者と違い、釧路からやってくるため当日の再配達も不可で、受け取り損なうと翌日以降。

 届いたのは、一番お待ちかねだった大きな梱包を開ける、中身は折りたたみ式のシングルベッド。

 アジト内で寝場所にしていた米軍コットを畳み、空いた場所に展開する。

 たかがシングルサイズなのに妙に広々と感じるのはクロマルとの同衾生活のためか。

 布団袋から敷布団と羽毛の掛け布団を出しシーツとカバーを掛けベッドメイキング、今夜は安眠できる、かな?

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