第43話 潜入捜査(6)仁義なき戦い

 探すフリをしながら、キングと幹部の到着を待った。

 1時間弱で、車が2台到着した。どちらもルーフがあるバンだ。

 そして片方からは2人、もう片方からは5人の男が下りて来た。その5人の方にBが走り寄り、ヘコヘコして何かを言い、殴られて転がると、悲痛な声を上げる。「キ、キング!必ず見つけ出します!だから!」

 それで男達は、揃って建物の中に入って行った。

 それを上の階から見ていたあまねとイチは、頭を引っ込めた。

「来たな。で、どうするって?」

 あまねは杖を空へ向けた。

「上は囲われてないからな。狼煙を上げるんだよ」

 すると光の玉は上空に上がり、パアッと広がった。明るい日中なので目立たないが、注意してここを見ているならわかる。そんな光量だ。

「さて。万が一に備えて、入り口をふさぐか」

 あまねとイチは、部屋を出た。


 1階に降りると、エントランスに幹部とキングとBが揃っていた。

 Bは無駄に偉そうに言う。

「見つかったのか!?とっとと探しやがれ!」

 あまねとイチはその前を通って建物の外に出ると、入り口付近にしゃがみ込む。

「いつ来るんだ」

 こそっとイチが訊くので、あまねもこそっと答える。

「すぐだろう」

 背後では、Bが幹部やキングに質問されて、頭を下げながら答えていた。

 と、

「見つかり次第知らせろ。それと、犯人もここの連中も、逃がすな。B班は消毒した方がいいだろう」

「はい!」

というやり取りの後、キングと幹部が車の方へ歩いて来る。

 しかし、車のタイヤはパンクさせてある。

「ああーっ!?」

 乗り込もうと近付いたところで、気が付いた。しかも2台共なので、人為的なものだとも気付いた。

「誰だ!?」

 中の2人が杖を引き抜いて構え、ほかの幹部連中と一緒に周囲を見やる。

 その視線が、そこを通ったあまねとイチに向くのは自然な事だろう。

「おい!」

 尖った声がかけられる。

「はい?」

 のんびりと返事をしながら、あまねとイチは肩越しに振り返った。

「サンとイチ。またお前らか」

 Bがズカズカとあまね達の方へと近付いて来る。

 あまねはイチに、

「目を閉じてろ。できれば向こうを向いて」

と小声で言っておく。

「また?」

 聞きとがめる幹部に、Bは失点回復のチャンスと見たのか、張り切ってあまねの胸倉を掴んで立たせた。

「ええ。こいつら、妙に――」

 言った途端、体を硬直させる。

「どうした?妙に、何だ?おい?」

 変なところで途切れた言葉に彼らは怪訝な表情を浮かべるが、次の瞬間、いきなり目の前に眩しい光が出現し、目を抑えて叫び出した。

「眩しい!?」

「くそ!何も見えねえ!?」

 あまねは目を閉じた上で、雷で失神させたBの体を盾にしていたので大丈夫だ。

「おい、イチ――何やってんだ」

 イチは同じように悶絶していた。

「目を閉じて向こう向いてろって言っただろ?」

「何するかわからないから、つい見てたんだよ!」

「ああ。6係だと魔術慣れしてるから、こういう時には素直に皆従うんだよなあ」

 あまねが、参ったなあとぼやいていると、

「警察だ!!」

とヒロム達がなだれ込んで来た。

「あまね!ん?」

「こいつらがキングと幹部とこのB班のリーダー。魔術士が2人いるぞ」

「そいつは?」

 ヒロムが訊き、イチは立ち上がって小声で言った。

「マトリだ。先に潜入捜査していた。窃盗と魔術士は譲るが、クスリと工場と密売ルートはウチで引き取らせてもらおう」

 キリッと宣言したのはいいが、視力が回復していなかったので、壁に向かって宣言する事となった。


 無事にあの青年と妹は保護され、窃盗団の残りのメンバーも逮捕された。

 クスリと工場と密売ルートは、各々の上の方で話し合いがあり、厚生省が押さえた。

 そしてあまねも潜入中の報告書を書き、ようやく解放された。

「お疲れさん。いやあ、まさかマトリの潜入捜査員とかち合うとはなあ」

 ヒロムが面白そうに言う。

「無駄に警戒して損したよ。まあ向こうも思ってるだろうけどな」

 あまねはそう言って、イチの無駄にクールな顔を思い出した。

「あいつ、メロンパンを笑うんだぞ。パンの一番はチョココロネだとか言うんだ」

 それにヒロムも真面目な顔になる。

「何?一番はコロッケパンだろう」

 ブチさんも口を出す。

「待て待て待て。やっぱりあんぱんこそが王道だ」

 マチも負けてはいない。

「意義ありです!クロワッサンに決まってます!」

「ちょっと待てよ。メロンパンだろ?」

「何でだよ。あれはおやつだぜ」

「いや、おやつって」

 そしてここでも、パン戦争が勃発したのだった。




 

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