第31話 復讐の炎(5)発見

 翌日も神崎令音を探し回ったが、行方は掴めなかった。

 ヒロムは、イライラしたりソワソワしたりと不安定気味で、あまねは、しばらくの間希が来るからとヒロムに家に来てもらっているが、丁度良かったと思った。

 その望は、待機班に宿題を見て貰ったり、トランプをしたりして面倒を見てもらっている。

 普通なら一般人を入れるなんて事はしないが、希は普通の子よりも一般の生活に疎い所があるのと、背後には深見しかないのは確実なのとで、会議室で過ごさせているのだ。

 そしてそれと同時に、深見の影響は無いか、魔術士として危険な思想は無いか、そういうチェックも受けていた。将来、6係にというのが、希の予定だ。

「全焼した店舗兼住居にも来た様子はないしなあ」

「親に殺されかけた所だぞ。思い出があっても、悪夢に変わるぜ」

 言いながら、あまねとヒロムが戻って来た。

 そして一旦報告をし、昼からは念のために取り立て屋の周囲を張ってみようと決めた。

 そこでその前にと、希を連れて昼食に出た。

「何が食べたい?」

「クリスマスケーキ」

「……それはご飯じゃないぜ」

 ヒロムも、希と一緒で、やっと笑顔が出た。

「美味しかったの」

 希は少ししょぼんとした。

「じゃあ、ケーキは帰りに買って帰って家で食べよう」

 あまねが言うと、笑顔を輝かせる。美少女の笑顔に、すれ違う通行人が微かに目を引かれた様子を見せた。

「じゃあ、ファミレスに行くか。色々あるし、写真も付いてるし」

「そうだな」

 ヒロムの提案で、近くのファミリーレストランへ向かう。

 その足が止まった。

 前方にガラの悪い男4人と、小学生くらいの男児が向かい合って立っているのが見えたからだ。

「ヒロム!あれ!」

「神崎令音君!」

 急ぎ足で近付く先で、令音が逃げ腰になりながらも食って掛かっていた。

「お前らがお父さんとお母さんを殺したんだ!」

「借りた金は返すのは当たり前だろう?」

「あ。まさかお前がビルに火をつけやがったのか?」

「このクソガキが」

 令音に掴みかかろうとしたところに割って入る。

「待て!警察だ!」

「事情を訊かせろ!」

 しかし、素直にきくわけもない。

「関係ないのはすっこんでろ!」

 もめていると、同じ組のやつらが集まって来た。

「どうしたんです、兄貴」

「あ、あのガキって、例の食堂の」

「こいつが火を点けやがったのかも知れねえ!」

 抑えているチンピラがそう言うと、彼らは目の色を変えた。

「げっ、まずいぜ!」

 ヒロムが慌てた。今の時点で、このチンピラを抑える理由がない。

「令音君!警視庁へ駈け込め!」

 あまねが肩越しに言うが、そうするかどうかは怪しいと思っている。

 と、希が令音の手を掴んで走り出した。

「あ!何だあのガキは!?」

 追いかけて行こうとするのを止めようとするが、人数が多すぎる。

 今の時点で魔術を使うのは始末書物であるが、あまねは始末書を覚悟した。

「くっそお!」

 魔銃杖を握り、追いかけて行くやつらの足元に氷を張る。

「ぐあっ!?」

「何だと!?」

 途端に滑って転ぶ。

「うおおおおお!」

 ヒロムも身体強化を使い、まだ立っているやつらを殴り倒し始めた。

 そしてチンピラを叩きのめし、あまねとヒロムも、希と令音の後を追い始めた。


 令音は混乱のままに希と手をつないで走っていたが、途中でやっと頭が回り始めた。

「君、誰」

「希」

「何で助けてくれたの」

「あまねとヒロムが警視庁に行けって言ったから。

 こっち」

 希は角を曲がり、2人で防犯の看板の建つ電柱と駐車中の車の間にしゃがみ込んだ。

 少しすると、目の前に追いかけて来たチンピラが現れ、

「どこに行きやがった!?」

「お前は向こうを探せ!」

と言いながら、走り抜ける。

 それを見送って、希は令音と手をつないだまま立ち上がった。

「行くわよ」

「あ、うん」

「そっちじゃない、こっちよ」

 令音が体を向けたのと別の方向に希が足を出す。

「え。そっちは危ないんじゃ」

「大丈夫。こっちに危険はないわ」

「何でそんなの」

「わかるの」

 希は、探知と雷の魔術士だ。

 走って行くと、あまねとヒロムがいた。

「もう安心――あ」

 あまねとヒロムの背後からチンピラが走って来た。

 あまねがそいつの足元に水溜まりを作り、希はそれに雷を打ち込んだ。

「あべべべべ!?」

 変なダンスを踊ってチンピラは膝をつく。

「2人共無事だったな。良かった。希、よくやったぞ」

 あまねが希の頭を撫で、希は胸を張った。

「偉い、偉い。

 神崎令音君だね。探してたんだぜ。皆心配してる」

 令音はまだ緊張しているようだったが、お腹が派手に鳴り、

「まずはご飯ね。私もお腹が空いたわ」

と希が言ったので、小さく笑いを浮かべた。





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