第5話 登校 2

バスは定刻通りに到着した。

他の乗客4人と共に乗り込むと車内は結構な混みようだった。


ギュウギュウ詰めとはいかないまでも座席は満席。

通路に10人程度立っていると結構な圧迫感を感じるな。


いつもはこのバスより2本前を利用している。

そのときは大体、満席にはなっていないので着席して

スマホでニュースをチェックしたり、英会話アプリを使って

リスニング力を磨いたりしている。


今日はエミリーが左胸ポケットに収まっているし

立ったままでスマホを操作するのも何だか煩わしいので

今朝は久しぶりに車窓を眺めることにした。


県庁所在地に隣接した新興住宅街。

街路樹が道路の両脇に連なり、そこそこ緑が存在する風景は

どこにでもあるありふれたものだ。


『ふむ。この国の住宅街はどこも同じような感じで、面白みにかけるのぅ。』


『どんな風景を望んでるんだよ?』


わらわの国では街ごとに個性があったのう。

家々の屋根が統一された色で塗られておったり、街角にいくつも彫像があったり

その街の歴史が色濃くにじみでていた物じゃ。』


なるほど、それをこの国で求めるのはちょっと難しい。

なにせ戦前は木と竹と紙で作られた家が大半だったのだ。

前回の戦争で大半の都市が焼け野原になった。

そこから新たな街を建て直したのだから僅か60年程しか歴史はない。


それに大災害も頻発するこの国では街が壊滅するなんてよくある話。

人は住む土地を愛するが、器たる街にさほどの執着があるわけではない…

と私は思う。


それにエミリーの故郷、中欧は基本的に石材建築の文化だ。

地震などは少ないし、建築物が崩れるとしたら戦災によるもの。

火災にあっても燃えるのは内装などの可燃物で石材の壁などは残る。

つまり街の保存性が格段に高いと言える。

土台、中欧とこの国とでは歴史的建造物が残る確率が違いすぎるのだ。


『ほう。そう言う事か。されど、ここまで画一的と言うのは…。

まぁ良い。この国の事情と言う物もあるからのぉ。』


その通りですな、陛下。


自宅の最寄りバス停から出発しておよそ30分後。

バスは終点のターミナル駅へ到着した。






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ラッキーコインの微笑み。 隼 一平 @alex5604

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