嫌がらせ

「お、やっとギルドからの返事が来たか」


 あれから約二週間後、ようやく俺の元にギルドからの返事が届いた。

 洞窟探索に出た後俺は持ち帰った鉱毒の毒性を調べ、翌日には毒性を中和する土の種類をつきとめ凄腕の魔術師を派遣して欲しいとギルドに依頼する手紙を送った。早馬だから恐らくその日のうちにはアルムのギルドに着いたことだろう。


 それから手配にどのくらいの時間がかかるかは未知数だが、少なくとも「こういう手配をしようとしているからあと〇日かかる」という途中経過の報告は数日で戻ってくると思っていたので少し遅いのではないかと感じていた。今回の新支部はアルムのギルドマスターの手柄にもなるため、よほどのことがない限り俺の都合を優先してくれるはずだ。とはいえこちらからの催促もしづらい。


 俺たちはその間周辺の洞窟の探索や魔物討伐などを細々としていたが、少人数で出来ることには限りがあり、暇を持て余していた。


「どれどれ……」


 俺は少しそわそわしながら手紙を開く。

 ギルドマスターによると、洞窟内の毒を全て中和するほどの土を用意することは難しいため、アルムやここゴルギオンを統治するボルド伯という貴族に御用魔術師の派遣を依頼したという。しかし伯爵は了承するでもなく断るでもなく言葉を左右にするだけだった。さすがに伯爵に依頼した手前、「やっぱり他に頼むのでいいです」とも言えずギルドマスターも困っているという。

 本当はどうなるのか決まってから報告しようかと考えていたが、全く目途が立たないのでやむなく途中経過を報告したということらしかった。


「どういうことだ?」


 ギルドマスターも伯爵が返答を遅らせる理由を分かっていないらしいが、俺も読み終えてすぐには事情が分からなかった。御用魔術師が忙しいのかもしれないが、だとしたらそう伝えて断ればいいはずだ。あえて返答を遅らせる意味が分からない。


「どうだった?」


 手紙を見て難しい顔をする俺にメリアが尋ねる。


「うーん、それがよく分からないことになってるんだよな」


 そう言って俺は手紙の内容をメリアに話す。俺の話を聞くとメリアも首をかしげる。


「それは奇怪ね。ボルド伯の御用魔術師と言えば獄炎の魔術師と名高いアリカ・カーライトでしょ? 彼女が来てくれれば毒の焼却もすぐだと思ったのに」

「え、あいつ今ボルド伯のところにいるのか?」


 俺はアリカ・カーライトの名前を聞いて思わず間の抜けた声をあげてしまう。

 が、そんな俺の声を聴いて逆にメリアも驚く。


「え、カーライトさんと知り合いなの?」

「ああ。一時期一緒にパーティーを組んでいたことがある」


 アリカ・カーライトは魔術師ギルドに所属する魔術師である。魔術師ギルドというのは魔術師の互助組織のようなところで、魔法の知識の共有と仕事の割り当てを行っている。アリカは魔族の脅威が今より大きかった時、魔族と戦う冒険者の応援に派遣されてきたことがあったが、途中で魔術師ギルドの指示で他の仕事に向かってしまった。それが今この地の領主の御用魔術師になっているとは。


 彼女は“獄炎の魔術師”の二つ名通り、炎属性の攻撃魔法が得意だった。どれだけ強敵が相手でもおおむね彼女の魔法で片がつくので、俺たちは戦い中、呪文詠唱中のアリカを守るだけで済んだ。宮廷魔術師というのは似合わない気もするが、あれでなかなか勉強家だったから知識の方を買われたのかもしれない。


「それなら本人に聞いてみるか。元気にやっているかも気になるしな」


 こうして俺はアリカへの近況報告もかねた手紙を書くのだった。

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