碧鋼
鉱毒に汚染された洞窟を出た俺は、来る途中に来た小ぶりな洞窟の前で足を止める。洞窟の前には荒れた岩肌に緑色に変色したキノコがぽつぽつと生えている。
「ここに鉱脈があるかもしれないんですか?」
「何で分かるの?」
一見何の変哲もない洞窟を俺が見込みありと判断したので二人は怪訝そうに尋ねる。
「絶対とは言えないが、入り口前に緑色のキノコが生えているということはこの辺の地中に碧鋼が含まれていて、その色素を吸い上げている可能性が高い」
冒険者は基本的に依頼を達成して報酬を得るが、その途中で新しい素材や鉱石などを見つけた場合はそれが全て自分の見入りになる。そのため、俺はこの手の話には詳しいし二人にもそうなって欲しい。
「碧鋼というのは?」
「主に武器や防具に使われる金属で、魔力の透過性が高いため魔法剣士が好んで使う傾向がある。俺も一時期使っていたし、そこそこ高値で取引もされている」
「なるほど」
とはいえ、碧鋼があっても地中深くであれば掘り出すことは出来ないし、大した量はないかもしれない。
俺は再び松明の炎を灯し、先頭に立って洞窟の中を進んでいく。先ほどの洞窟と違って特に嫌な感じはない。
が、数分歩いていくとやがて奥の方からかさかさという何かが動き回る音が聞こえてくる。俺は反射的に叫んだ。
「セレン、防御魔法を頼む」
「はい、セイクリッド・シールド!」
セレンが俺たちの前に防壁を展開した瞬間だった。
洞窟の暗闇の中からすさまじい勢いで数十本の針が飛んできて防壁にぶつかって落ちていく。速さはなかなかのものだったが、威力はそこまででもなかったらしく、針は防壁に傷をつけることなくその場に落下した。
「こ、これは何ですか!?」
セレンが悲鳴を上げる。
「しばらくの間魔法の維持を頼む」
そう言って俺は松明を洞窟の奥へ力いっぱい投げつける。するとその炎に反応してさそりのような生き物がかさかさと動き回るのが見えた。そして彼らは炎に反応してかまっすぐにこちらに進んでくる。
「近づけば針は飛ばしてこないし、大した相手じゃない」
俺はメリアとともに剣を抜くと足元から襲い掛かってくる数十センチほどの大きめのさそりたちに斬りかかる。さそりたちは大きなはさみを振り上げて応戦してくるが、所詮自分の半分以下の動物が操る武器で大したことはない。俺が力任せに剣を振り降ろすと、さそりのはさみは鈍い音とともに粉々に砕け散った。
一方のメリアはさそりの攻撃をまるで止まっているものでも避けるかのように華麗にかわしながら一匹一匹貫いていく。
こうして俺たちは数分の間に十匹ほどのさそりを全滅させたのだった。
「不思議ね。この程度の相手だとかえって物足りなく感じるわ」
「基本的に今のメリアの実力なら大体の魔物は対策をきちんととっていればそこまで怖くはない。だから一番恐れるべきは奇襲だろうな」
今回もセレンの防御魔法がなければ針による攻撃をもろに受けることになっていただろう。大した威力だとは思えないが、毒でもあれば面倒なことになる。
少し進むとさそりたちが巣にしていたのか、動物の遺体が転がっている箇所があった。地面を照らしてみるとその周辺はかすかに緑色に染まっている。その辺りを剣でコツコツと強めに叩くと、緑色の欠片が飛び散る。
「これが碧鋼ですか?」
「そうだ。この下にどのくらい眠っているのかは分からないが」
俺は飛び散った碧鋼の欠片も袋に入れる。
「ここも人を送ってもらって調査する必要はあるが、これでギルドも人員を送ってくれるだろう。鉱毒の浄化の依頼だけでは最悪、『コストがかかるなら諦めろ』という返事になりかねないが、他にも鉱脈がありそうなら調査に積極的になってくれるだろうからな」
「なるほど、そんな深謀遠慮があったのですね」
俺の言葉にセレンが驚く。
「冒険者ギルドだって最終的には利益を出すためにやっているからな。辺境では採算がとれないとなれば最悪撤退することもある」
基本的に人間の領域はゆっくりと拡大していくため撤退することはあまりないが、洪水や噴火といった災害で土地全体がだめになった場合は撤退していく場合があるという。
「何にせよ、俺はしばらく鉱毒の調査とギルドへの応援要請を行わなければならない。その間、二人は周辺の魔物討伐を頼みたい」
「分かったわ」
「でも、私たちだけで大丈夫でしょうか?」
自信ありげなメリアとは対照的にセレンは不安そうだ。
「今日歩いてみた感じ、こちらから魔物の巣に乗り込むようなことをしなければおそらく大丈夫だと思う。もし強い魔物がいっぱいいそうな場所があれば教えてくれ」
「分かりました」
基本的にその辺をうろうろしている魔物は大した強さではない。それでもそういう魔物を減らしていけば村人は狩や農業がしやすくなるだろう。
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