44. 襲撃者は煽る


 玉座の間、通称『座』には、数百超の騎士が集結していた。

 全員が同じく剣を抜き、座の中心に立つ襲撃者へ、敵意を剥き出しにしている。


『まずは、お集まりいただき誠にありがとうございます、って言った方がいいかな?』


 全騎士からの敵意を全く気にせず、襲撃者は飄々と言葉を綴った。


 襲撃者の姿は、今は人のような形をしていた。


 しかし、その体は真紅に染まっており、皮が剥がれた人間のようで、顔のパーツは一切付いていない。大男のようにしっかりとした体格なのに、どこからか発している声は少女のように可愛らしいものだった。



「……襲撃者よ。聞いていた話によると、お前達は複数居て、しかも動物の姿だったとのことだが?」


 この座に居るのは、一体だけだ。

 しかも、人間の形をしている。


「他の襲撃者はどこに潜んでいるのか? 」


 敵にそれを聞くのもどうかと思ったが、相手は話をするためにここに来た、と言っている。もしかしたら答えてくれるかもしれない、と淡い期待を込めて質問したら、返ってきたのは想像もしていない言葉だった。


『今は一緒に居るよ』


「どういうことだ?」


『ああ、ごめん。わかりづらかったね。今はこの子と融合しているってことだよ』


「なんだと……?」


 この言葉は信じられないことだ。

 もしそれが本当なら、あの体に敵の全勢力が詰め込まれている、ということになる。


「──貴様っ、ふざけたことをぬかすな!」


 一人の騎士が怒鳴り、襲撃者の首に剣の切っ先を突きつける。


「おいお前、やめろ!」

「ですが、こいつがふざけたことを……!」

「お前の判断で、ここが戦場になる可能性もあるんだぞ! わかっているのか!」

「それでも、俺は仲間を殺したこいつを許せません!」

「気持ちはわかるが、我慢しろ! 我らの暴走のせいで、王が危険に晒されるのは──」




『くくっ、はは、あははははっ!』




 騎士団長が暴走した騎士と口論になりかけたところで、襲撃者の笑い声によってそれは中断させられる。


『そうだよ、下っ端騎士さん。今のこの子の体内には、何百体もの駒が待機している。それがここで一斉に放たれればどうなるか……それがわからないほど、その頭は筋肉ばかりじゃないでしょう?』


「くっ……」


 理解はしているが、馬鹿にされたことで怒り心頭な騎士は、ぷるぷると肩を震わせて剣を下ろした。


『ふふっ、わかってくれたようで何より。……まぁ、別にここで戦争しようだなんて思ってなかったから、この子が斬られようが気にしなかったし、騎士程度の剣で私の駒は死なないよ。無駄な蛮勇で身を滅ぼさなくて良かったね』


「……もう一つ、質問をいいか」


『はいはい、どうぞー』


「先程から一人称ではなく、『この子』と言っているということは、今話しているお前は、目の前にいる不気味な存在とは違うと思っていいのか?」


『うん、そうだよ。これがわかるなんて、さすが腐っても王様だね。この子は私の能力で作り出した、ただの駒だ。駒ちゃんって呼んであげて?』


 明らかに王を侮辱した言葉に、騎士たちの殺気が一斉に増す。

 しかし、襲撃者を操っている人物に届いていないのだから、それは無駄な怒りだった。


「……本当に会話を目的に来たのだな?」


『だから、最初からそう言ってるじゃん。今日は──宣戦布告をしに来たんだ』


 たった一言で、襲撃者は場の空気を支配した。


『私を利用した王族と、貴族共を殺す。情けも容赦もしない。いつか必ず、この国を喰い殺してやる。ゴンドル・バグと宮廷魔法士四人は、最初の犠牲だ』


「っ、やはりお前は、ゴンドルの言っていた……!」


 敵は愉快に嗤う。

 駒もそれに合わせて身をよじり、正解したことを褒めるかのように拍手をする。


『あはっ、ゴンドルから事情を話されていた? そうじゃなきゃ、宮廷魔法士を貸し与えるなんてことはしないもん。でも、これでわかってもらえたかな。──私は本気だよ』


「…………なぜだ」


『はぁ? なんて?』


「どうして、君のような者が、我が国を敵に回すようなことをするのだ! ゴンドルが君に何をした。我らが、君に何をしたというのだ!?」


 感情的になって叫ぶ。

 敵が操っている駒は力無く溜め息を溢し、何もない顔面が王を捉える。



『…………ねぇ、王様さぁ──馬鹿なの?』

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