第四話

“パラスポーツ”というタイトルの雑誌を買った私はさっそく車イスマラソンという項目の記事を読むことにした。


 車イスマラソンというぐらいだから、単純に車イスに乗って路上を走るということぐらいは想像はつく。


 福祉施設なんかにいる車イスにのって走るんだろうなあ。走りにくいだろうなんて勝手に想像していた私は雑誌をみて、正直自分のバカさに恥ずかしくなった。


 そりゃあ、そうでしょうね。


 本当にそういう関係のものをみてこなかったんだなあと改めて思う。


 ちゃんと競技用の車イスがあるのだ。


 競技用車イスは普段見かける四輪の車イスとは違い、三輪のうえに後輪の2つは通常の車イスよりも大きい。前輪にはひとつの小さな車輪がある。それ以外にも通常の車イスにはないものがついてたりと、普段目にする車イスとはまったく違うものだったのだ。


 ふーん、こういうので走るんだーー。


 へえ


 なんかすごいなあ。


 そんなものには一切興味なかったわたしにとっては新鮮そのものだった。


「彩佳。なにしてんの?」


「きゃっ!」


 突然話しかけられたために私の心臓が飛び出すほど驚いた。振り返ると慎太郎がジャージ姿で立っていたのだ。


「慎太郎か。びっくりした。もしかしてジョギング中?」


「ああ。ほら、もうすぐ大会やろう? だから、筋力つけとかんぎいかんけんさあ」


 そういいながら、慎太郎は私の読んでいる雑誌をのぞきこむ。


 すると慎太郎の汗の臭いが私の鼻に入ってくる。正直いい臭いというわけではないんだけど、慎太郎ががんばっていることがよくつたわってくる。


 慎太郎は陸上部で長距離選手だ。


 大学にいったら必ず箱根駅伝にでるんだといつも語っていて、ジョギングと筋トレは欠かさない。


 そういうがんばり屋の慎太郎が好きなんだよね。


「車イスマラソン? 彩佳がこがんとに興味もっとるとなしらんやったなあ」


「最近ばい。ほら、慎太郎が春マラソンで車イスで走る予定の先輩のおるていうたやん」


「ああ、そがんこというたなあ」


「車イスマラソンとか聞いたことなかけん。どがんもんかなあとおもって」


 そういいながら、雑誌へ視線を落とす。


「そうだ。その人紹介してやろうか?」


「え?」


 私は慎太郎を振りかえった。


「なんだよ。そがんびっくりせんでよかたい」


「知り合い?」


「あれ? いわんやった? うちの部のコーチの友だちばい」


 そういって、なぜかどや顔をしている。


 そういうことで今度の日曜日に行われるバルーンイベントで車イスのマラソンランナーに会うことになった。



 どんな人なのかなあ?


 車イスで走るんだよね?



 どんな感じで走るのかな?


 ものすごくワクワクする!













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