第三話

 車イスマラソンとはどういうものなのかなあ?


 そんなことを不意に思ったわたしは本屋さんへ向かうことにした。



 本屋への道のりは私のすんでいる団地からそんなに離れてはいないから歩いてでもいける距離にある。



 私は家から出るとすぐにマスクをする。


 そういえば、もうずいぶんと長い間マスク生活をしているなあ。


 もうすっかり慣れちゃって、マスクがないと違和感も覚えるぐらいになっちゃった。


 海外ではマスクなしが増えているのに日本はいつになったらこういう生活から解放されるのだろう?


 一生マスク生活かもしれん。


 いやそれはないよね。


 そのうち、日本もマスクをする必要がなくなるはず。(*)



 そんなことを考えながら本屋へと歩いていった。


 ちょうど駐車場に差し掛かったところで一台の車から親子らしき人たちが出てきたことに気づく。年齢は二十代後半から三十代前半ぐらいの夫婦と3つか四つぐらいの女の子。


 男の人は車イスに乗っており、それを女の人が押して本屋へ入っていった。


 私はその家族に続いて本屋に入るとスポーツ雑誌のコーナーへと向かった。


 あっ、でも、こんなところに車イスマラソンについての本があるのかしら?


 そう思いながらも探してみる。


 うーん、やっぱりないわね。


 だったら、どのコーナーにあるのかしら?


 私はなんとなく横を向くと、先ほどみた家族の姿があった。


 なんとなくみていると、女の子がなにやら本をもって夫婦のほうへと駆け寄って、車イスの男性に差し出した。


「パパ! これやろう?」


「おお! そうばい。ありがとう。華」


 そういって男性は女の子の頭を撫でてあげている。


「あっ!」


 私は男性の手に持っている本に視線をむけると思わず声を出してしまった。その声は確実にその家族に聞こえていた様子で三人ともこちらを振り向いた。


「えっと、その……。その本……」


「その本?」


 男性は手に持っている本をみる。



「これのことか?」


「はい」


 私は思わずうなずく。


 その本の表紙に「車イスマラソン」ということばがあったのだ。


「なに? 君はこういうパラスポーツに興味あると?」


「えっと、その……」


「じゃあなに?」


 ああ、完全に疑っている。


 もしかして怪しい人に思われているかもしれない。


「あの! 車イスマラソンに興味あってどがんとかなあと思ったとです」


「そういうことか。けど、なんでそがんとに興味もったとや?」


「えっとその……。知り合いの知り合いが車イスマラソンに参加すると聞いて興味もったとです」


「そうか」


「お父さん、そろそろ行かんと予約の時間ばい」


車イスの持ち手をにぎっていた奥さんがそうつげる。


「ああ。じゃあな」


男性は奥さんに車イスを押してもらいながらレジのほうへと向かった。一緒についていった女の子がふいに私の方を振り返った。


どうしたのかなあと首をかしげていると、女の子はなにかを指差していた。


「お姉ちゃん、あっちにあるよ!」


満面の笑顔でそう教えてくれた女の子は両親の元へ描けていった。



私は女の子が示した方向を見る。


そこは「福祉」という標識のあるエリアだった。







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