授業
「……くん……うくん……優くん!」
朝、誰かの呼ぶ声で目が覚める。
「………ん」
「おはよう優くん」
まだ眠い目を擦ると、サキちゃんが見えた。
「あ、おはようサキちゃ、ん!?」
そこで急激に頭が起き始めた。
「さ、サキちゃん!何で僕の部屋に!?」
鍵は掛けた筈なのに。
「え?ああ、親衛隊は合鍵を預かってるの、朝起こしたり、何か有った時のために」
それは有り難いが。
「さ、先に言って置いてよ、びっくりしたよ……」
「あはは、ごめんごめん、さぁ起きて、学校に遅れちゃうよ」
「うぅ……」
サキちゃんは軽く笑い、僕の鞄の準備をしてくれていた。
「………あの、サキちゃん?」
「ん?何?」
「着替えるから………」
「あ、手伝おうか?」
「いや、そうじゃなく、出て行って欲しいんだけど……」
何故かサキちゃんはきょとんとしていた。
「ふふふ……」
「な、何!?何で笑うの!?」
クスクスと笑うサキちゃん。
「だって、昔は隣に居ても構わずおしっこしてたのに、恥ずかしいなんて」
「い、今は恥ずかしいよ!いいから出てよ!」
「ふふふ、はいはい、じゃあ外で待ってるね」
サキちゃんが部屋を出たのを確認して急いで着替える。
「お待たせ」
「わ、早いね着替えるの」
「脱いで着るだけだからね」
苦笑いしながら食堂に向かった。
「翼くんは居ないね」
「そうね、もう学校かな?」
「え!?そんなに遅れてるの?」
「ううん、そうじゃなく、彼は学校で色々やることが有るから」
「あ、そうなんだ……」
ちょっと慌てて損した。
「とはいえ、余りゆっくり寝てたらダメだよ優くん」
「あ、はい……」
何か見透かされたみたいで恥ずかしい。
「じゃあ、朝ごはん持って来るから待ってて」
「うん、お願いします」
席に着いて備え付けの時計を見ると七時半を回っていた、確かにすごい遅れているとは言わないけど、少し遅いくらいかな。
「はい、お待たせ優くん」
「ありがとう」
トレイを受け取りサキちゃんと二人で朝ごはんを食べた。
「今日から授業だけど、大丈夫?」
「うっ、うん、多分……」
正直勉強は自信がない、悪くはないと思うけど良いとも思わない。
「この学校男子はそこまできつく言われないと思うけど、あまりに目に余る様だと注意されるから気を付けてね?」
「はい……」
自然と声が小さくなってしまった。
「大丈夫、私も教えてあげるから」
「サキちゃんは勉強得意なの?」
「え?うーんと、多分クラスで上から十番以内には入れるかな?」
「え!?そんなに!?」
「う、うん、因みに翼くんはクラスで一番だと思うよ?」
うっ、確かに翼くんは何でもできそうだし………。
「な、なんか、自信なくなってきた」
これから三年、いや、一年でも大丈夫だろうか?
「ほ、ほら、学校生活は勉強だけじゃないし、ね?」
「うん………」
励ましが逆に痛い。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
朝食を終え学校に登校すると。
『おはようございます!優様!』
「お、おはようございます………」
ひょっとしてこれ毎日やってるのかな?
「優くん、私の背中に隠れないでもらえる?」
「あ、ごめん、びっくりしちゃって、つい……」
気付いたらサキちゃんの後ろに居た、反射って怖いものだ。
「ほら、教室行こう」
「う、うん」
サキちゃんに促され教室へ向かう、さすがに荷物を持つ人は来なかった、良かった。
「ん?やぁ、おはよう優くん!」
「おはよう翼くん、今日も囲まれてるね」
「まぁね、僕のアイデンティティーだから」
「そ、そうなんだ」
とても真似できそうにない。
「ゆ、優くん!わたしたち優くんともお話したいです!」
「え、えぇ!?」
突然の申し出に大きな声が出てしまった。
「驚く事じゃないよ、この学園での僕らの役割はこう言う事なんだから」
ニコニコしながら言う翼くん。
「それに昨日優くんも言ったじゃないか、人怖がりを治すって」
「うっ、いや、それは、そうなんだけど……」
しどろもどろしていると。
「ダメ、ですか?」
話し掛けてきた女の子の一人が、目をうるうるとさせる。
「うぅ、はい、分かりました……」
観念する僕、それを見て嬉しそうな女の子達。
「うーん、でも突然大勢と話すのは優くんには辛そうだから、班を分けて話していこうか?」
「ぜ、是非お願いします」
少人数なら何とか、たぶん、恐らく大丈夫だと信じたい。
「そうだなぁ、じゃあ先ずは席の近い四人からにしようか?それなら一人は小南さんだし、優くんも安心でしょ?」
「う、うん、じゃあそれで」
と言うわけで、朝のホームルームが始まるまでの少しの時間、近くの席の四人と話す事に。
「いやー、小守くんの席の近くでラッキーだったねわたしたち」
「そうねぇ、皆より早くお話が出来るものね」
「そう言えば、小南さんは側近に選ばれたんでしたっけ?」
「ええ、昨日から側に居ます」
「と言うことは、わたしたちにもひょっとしてチャンスが有るってこと!?」
何か、女子だけで話が盛り上がってしまった。
「あ、ごめん優くん、私達だけ喋っちゃった」
「そうだよ!せっかくだから小守くんと話さなきゃ!」
「そうね、じゃあ改めて自己紹介をしようかしら?」
「あ、えっと、瀬川さんだよね?確かバイオリンをしてるって……」
「え!?」
僕が瀬川さんの自己紹介の話をすると目を丸くされた、ひょっとして違ったかな?
「あ、ごめ」
「ちょ、ちょっと待って!わたしは分かる?」
前に座って居た藤沢さんに聞かれたので答える。
「ふ、藤沢さん、ダンスが得意で、チアリーディング部に入ってるって……」
またしても驚かれる、ち、違った?
「で、では、私は?」
「えっと、平岡さん、好きな本は夏目漱石の道草って、随分珍しい所行くよね?」
黙ってしまった三人、やっぱり違ったのかな?
「ふふふ、そんなに怯えないで大丈夫だよ優くん、みんな驚いてるだけだから」
「え?そうなの?」
他の三人に聞いてみると。
「う、うん、驚いた、名前くらいはって期待したけど、まさか細かい所まで覚えられてるなんて」
「びっくりですね」
「ええ」
そ、そんなに驚く事かなぁ?
「そ、それくらい普通だよ、むしろ近くの人しか覚えられてないし………」
「それでも嬉しいものだよ女の子は」
笑いながら言うサキちゃんに、頷きで同意を示す三人。
「そうなんだ……」
何となく喜んで貰えた事が嬉しく、少し気恥ずかしい。
「じゃあ、三人から優くんに何か質問とかは?」
「あ、じゃあわたしから……」
その後チャイムが鳴るまで、四人と楽しくお喋りした僕。
楽しかったからか、それを面白く思わない視線に僕は気づけなかった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ホームルームの後、一時限目初めての授業。
「はい、では、テストを始めます」
いきなりのテスト、中学までの学力を確認するためらしいが。
(うっ、結構難しい……)
全教科織り混ぜられた全五十問のテスト、それなりの難易度で作られているらしく、かなりハードルは高い。
キーンコーンカーンコーン。
「はい、そこまで、テスト集めて」
テストが終わり一息。
「優くんテストどうだった?」
「え!?う、うん……」
つい目を反らす。
「……ダメだった?」
「………最後までは解けたよ?」
解けたはず。
「ふぅ、これは本格的に教えないとダメかな」
やれやれと言う感じにため息を吐くサキちゃん。
「あはは、小守くん勉強苦手なんだ?」
藤沢さんが笑いながら言う。
「うっ、苦手と言うか、得意じゃないと言うか………」
「では、得意な物は何ですか?」
瀬川さんに聞かれるが……。
「えっと……あれ?僕って特技なし……」
「あ、ああ、ご、ごめんなさい」
自分の長所の無さに落ち込みつつ、休憩時間を終えた。
「えー、であるからして、ここの方程式は……」
二時限目からは普通の授業、うん、何とかついていける。
「では、この問題、小守くんやってみて」
「は、はい!?」
初日から当たるなんてついてない……。
三時限目、英語。
「では、Mr.小守、この文の和訳を」
「は、はい!?」
四時限目、国語。
「では、この諺の意味を小守くん」
「は、はい!?」
昼休み。
「ちょっと僕への当たり強くない!?」
「あはは、先生達も張り切っているんだよ」
「それにしても今日ずっとだよ?」
「まぁ、僕から学園長に言っておくから」
学園長に意見できるって、翼くんは何者なんだろう。
「それに今日はもう、五時限目の体育と六時限目のオリエンテーリングだからね」
「そう言えばオリエンテーリングって?」
六時限目のオリエンテーリング、割りと高頻度で授業に組み込まれている日程。
「ああ、僕達男子が他のクラスを回るだけだよ」
「それになんの意味が?」
首を傾げる僕。
「出会いを平等にするためだね、ほら、三年間で出会ったのが廊下ですれ違っただけなんて、可哀想でしょ?」
「た、確かに……」
それでは不公平だろう。
「だからこの学園ではなるべく出会いを増やすイベントが行われるんだよ」
「な、なるほど……」
「そして、女子は気に入った男子を見つけアピールができるんだよ、謂わば品定めだね」
「え!?そ、そうなんだ……」
ついサキちゃんの顔を見てしまう。
「ん?どうしたの優くん」
「な、何でもない……」
それを見て翼くんがニヤリと笑う。
「ああ、なるほど、優くんは小南さんが別の男子に目移りしないか心配なんだね?」
「あ、そういう事」
「い、言わないでよ翼くん!」
慌てて手をバタバタさせて翼くんの話を遮るが、時すでに遅く、サキちゃんを見るとニヤニヤしていた。
「もぉ、優くんはかわいいなぁ」
嬉しそうに呟くサキちゃんと、無言で頷く翼くんの側近さん二人。
「う、うぅ………」
恥ずかしくなりうつ向くしかできない僕だった。
キーンコーンカーンコーン。
その時ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。
「ほ、ほら、もうお昼休み終わったよ!つ、次は体育だから着替えないと!」
急ぐように促すが。
「ん?ああ、優くんは知らなかったね」
翼くんはお茶を飲みながらくつろいで居た、翼くん紅茶似合うね。
「え?どういうこと?」
「ふふふ、じゃあ行こうか」
微笑むと翼くんは立ち上がり歩き出した、しかし、その行き先は。
「ね、ねぇ翼くん、教室はあっちだよ?戻らないの?」
「うん、戻らないよー」
翼くんは教室に戻らず運動場へ。
「翼くん、まさか制服のまま体育に出るの?」
「ははは、まさか」
翼くんは笑って居たが、そのまま五時限目が始まってしまった。
「よーし、それってるか?星川、小守居るな?」
「はーい!」
「は、はい!」
先生に呼ばれ慌てて返事をする。
「よし、全員出席っと……」
先生は僕達を出席と扱った。
「どういうこと?」
「この学園では、一定ランク以上の男子は体育の授業を免除されているんだ」
「え?そうなの?」
そんな学校有るんだ。
「うん、と言っても筆記テストがあって、規定の点数は取らないといけないけどね?」
「うっ、テスト……」
「大丈夫、そんなに難しいものじゃないし、形式的にやってるだけだから」
それ言っちゃっていいのかなぁ?
「でも、なんで?」
「うーん、例えば、体育の授業中に優くんが怪我をしたとするよ?」
「うん?」
「政府から調査員が送られて来ます」
「……ごめん、ちょっと待って、急に解らない話しになった」
たかが学生が怪我しただけで、何で国が調査し出すんだろう?
「優くん、前にも言ったけどこの学園に通う男子の一部は特別な存在なんだよ、特に優くん、君は日本処か世界からも注目されるくらいの存在だ」
改めて言われると、恥ずかしくなる。
「でも、僕はそんな……」
「少なくとも、僕らは優くんの事は特別に思っているよ」
「うっ、うん……」
真顔で翼くんが言うので少しドキッとしてしまった。
「と言うわけで、優くんは体育には出れないよ」
「うん、まぁ、そんなに好きじゃないからいいけど、因みに出ようとしたらどうなるの?」
中には体育が好きな男子も居るだろうに。
「全力で止めるよ、学園全体で」
翼くんはニコニコしているのだが、その笑顔が怖かった。
「き、気を付けるよ」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
なるべく学園のルールには従おう。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
優と翼が話して居る間、授業では。
「ちっ、あいつにやにやしやがって……」
「こらそこ!ちゃんと話を聞け!」
「ちっ……」
面白くねぇ、小守のくせにちやほやされやがって。
「では、それぞれ順番に回るように」
どうやら陸上の授業で、各種を順番に回るらしい、俺は最初はハンドボール投げか。
「………良いこと思い付いた」
ボールを持って小守の方を見る。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翼くんの話を聞いている間に、いつの間に授業は始まっていた。
「そう言えばサキちゃん達も授業に出ないの?」
制服のまま僕達の側に居るサキちゃんと翼くんの側近さん二人を見る。
「うん、側近になるとある程度融通が聞くの」
「そうなんだ」
「彼女達の役目は……危ない!優くん!」
「え?」
翼くんの言葉に反応した時には、ボールが目の前まで来ていた。
バシン!
思わず瞑っていた目を開けると、サキちゃんがボールを受け止めていた。
「あ、ありがとうサキちゃん」
「ううん、大丈夫優くん?」
当たらなかったから良いものの、止まらなければ顔に当たっていただろうボール、いったい何処から………。
「いやぁ、悪い悪い、手が滑っちまってよぉ」
確認するまでもなく荒谷が近づいてきていた。
バシン!
今度は荒谷がボールを顔に受けた。
「いって、おい!何すんだよ!」
ボールをもろに顔に受けた荒谷が怒る。
「それ以上近付かないで下さい、不快です」
冷たく言い放つサキちゃん、その目には明らかな怒りが宿っていた。
「あぁ?ちょっと手が滑っただけだろうが!」
「荒谷くん、ハンドボール投げのレーンは逆方向だよ?」
翼くんはにこやかに指摘する、しかし、その笑顔には恐怖を感じた。
「あ?だからどうしたよ?」
「君はわざと投げた違うかい?」
「はっ、だったらどうした?」
「いや、別にどうもしない、ただ、次は無いよ」
「なんだ?脅しか?上等じゃねぇか」
近づこうとした荒谷だが、その前に翼くんの側近さん二人が立ちはだかる。
「…………」
ジャキンと警棒を取り出し無言の圧力を掛ける二人。
「………ちっ」
荒谷は舌打ちを鳴らし戻って行った。
「二人共ありがとう、優くんは大丈夫かい?」
「う、うん、平気ありがとう」
荒谷の恐ろしさを思い出したが、皆の優しさも知ることができた事件だった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ちっ、面白くねぇ、上手く小守に当てられたらスカッとしたのによ。
「はぁ、つまんね、いてっ」
次は何をしようか考えていたら、バシンと言う音と共に脚に痛みが走った。
「な、何すんだよ!」
痛みはボールをぶつけられた事によるものだった。
「ああ、失礼、手が滑ってしまった」
「なんだと?」
それはさっき俺が小守のに言ったのと同じ言葉。
「てめえ、うっ」
ボールを当てた女子を睨み付けるが、そいつだけではなく後ろに居る奴も、遠くに居る奴も、全員が冷やかな目をしていた。
「な、なんだよ!何か文句あるのかよ!」
「………」
無視、その後何もなかったように授業が進められた。
(何なんだよ、中学の時は、小守を弄ったら盛り上がったのに……)
これも全部小守のせい、むしゃくしゃしながら荒谷は授業を抜け出した、しかし、それを咎めるものは一人も居ない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
五時限目の後、一度教室に戻った僕はクラスの皆に囲まれていた。
「小守君、大丈夫?怪我してない?」
「う、うん、大丈夫だよ……」
「私達心配だわ、一度保健室に」
「だ、大丈夫だから……」
「いえ!いっそ病院に行って検査を!」
「ほ、本当に大丈夫だから!」
当たっても居ないのに病院に行ったら笑い者だよ。
「ハイハイ、皆が心配するのは解るけど、優くんは大丈夫って言ってるから、あまり騒いじゃダメだよ?」
「で、でも、星川君」
「それに優くんの側には、小南さんと言う心強い側近が居るからね」
「そ、そうですね、小南さん、私達の変わりに小守君を絶対に守ってね」
「ええ、勿論」
翼くんとサキちゃんのお陰で騒ぎは納める事ができた。
「失礼致します」
と、思ったのだが。
「おや?生徒会長珍しいですね、どうかしましたか?」
「はい、本日五時限目で小守様が、ご不快な思いをされたと聞きまして……」
やって来たのは生徒会長さん、何処かで見た記憶があると思ったら、入学式の時に学園内を案内してくれた有栖川さんだった。
「あ、別に怪我とかはしていないので大丈夫です……」
「いえ、いいえ!怪我はしていなくとも心は傷ついているはず!」
ん?変だなぁ、さっき納得したはずの皆が不安そうな顔し始めたぞ?
「た、確かに、目に見えずとも小守君は傷ついているはず……」
「それなのに私達を心配させまいと?」
「してません、してませんから!」
話が変な方に向いたので慌てて否定する。
「小守様、本日のオリエンテーリングは中止にして、早退されては如何でしょうか?」
気遣いなのだろうが、こんな事で早退するのもなぁ。
「よろしければお部屋にカウンセラーを派遣致します」
「いえ、本当に大丈夫ですから、それにせっかく楽しみにしてくれてるオリエンテーリングを失くすのも申し訳ないですし」
僕は人前に出るのは得意ではない、だからと言って、せっかくの機会を奪おうとは思わない。
「なんと寛大なお心遣いでしょう、生徒会を代表して感謝致します!」
何と言うか、有栖川さんってこんな人だったっけ?入学式の時はもっと凛とした人だった気がするんだけど。
ひと悶着有ったが、六時限目は予定通りオリエンテーリングが始まった。
この時間は生徒が主体で行うらしく、運営は生徒会に任されているらしい、だから生徒会長の有栖川さんが様子を見に来たそうだ。
「小守様と星川様のご案内はわたくしが致します、何かお困りの際は遠慮なさらず仰って下さい」
「生徒会長さんが案内なんですね」
「当然です、小守様と星川様は一番のVIPですから」
VIPって、一生徒なんだけどな。
「わたくしがお呼びしたら教室にお入り下さい」
「はい」
先に有栖川さんが教室に入ると、教室内が騒がしくなる。
「はい、皆さんお静かに、わたくしが来たことでお察しの方も居るかもしれませんが、本日こちらの教室には小守様と星川様が要らしています」
『きゃー』と言う黄色い声でざわつき出す教室。
「節度を持って交流を深めるようにお願い致します、では、小守様星川様中へどうぞ」
「は、はい!」
緊張しながら教室の中へ入る。
パチパチパチと拍手で迎えられる。
「本日は自己紹介と質疑応答をお願い致しますわ」
と言う事は初日と同じ流れか。
「ではまず星川様から」
「はい、星川 翼です、この学園で良い出会いをたくさんしたいと思っています、どうぞよろしく」
翼くんが挨拶をすると、『キャー』と言う悲鳴に聞こえる歓声が上がる。
さすが翼くん、馴れているのか手を振ったりしてアピールも忘れない。
「では、続いて小守様お願いします」
「は、はい!こ、小守 優です、えっと、よろしくお願いしましゅ」
………気の効いた事も言えない処か噛んだ!
しばらくの沈黙の後。
『キャー!』
翼くんの時よりも大きな歓声が上がる、しかし中には。
「優様かわいいー!」
等の声もあり、なんとも恥ずかしい。
「こ、こほん、では続いて質疑応答に入ります」
有栖川さんのぎこちない咳払いの後、初日と同じように質問攻めにあった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「つ、疲れた……」
オリエンテーリングが終わり教室に戻ると、僕は自分の机に突っ伏した。
「お疲れ様優くん」
「うぅ、何で翼くんも居るのに僕だけ質問攻めに合うの?」
オリエンテーリングでは、僕への質問がほとんどで、翼くんは隣でニコニコしているだけだった。
「ははは、仕方ないよ、僕は中学からのエスカレーター組だから、みんな知ってるからね」
「翼くんは有名人なんだね」
「優くんも十分有名人だよ」
それは微妙に嬉しくない。
「お疲れ様優くん」
「あ、サキちゃん、そっちはどうだった?」
「ん?盛り上がってたよ」
え、そ、そうなんだ、盛り上がったんだ………。
「でも、優くん程じゃ無かったかなぁ」
「そ、そっか……」
それはちょっと嬉しい。
「ははは、優くんは素直だね」
「え!?」
「顔に全部出てるよ」
「ふふふ」
笑う翼くんとサキちゃん、うぅ、恥ずかしい。
「よーし、ホームルーム始めるぞ!」
担任の河原先生が教室に入るとホームルームが始まった、ようやく一日の終わりだ。
「えー、連絡事項は特になし、あ、そうだ小守はホームルームの後少し残るように!」
「え?」
まだ、一日は終わらないらしい。
キーンコーンカーンコーン。
ホームルームの後、河原先生の元へ向かう。
「先生、何かありました?」
恐る恐る聞くと。
「ん?ああ、私じゃなく生徒会長が用があるらしくてな」
「有栖川さんが?」
何だろう?オリエンテーリング関連かな?
「はぁ、はぁ、小守様、お待たせして申し訳ありません」
「有栖川さん」
息を切らしながら教室に入って来た有栖川さん、余程急いで来たのだろう。
「ふぅ、失礼しました小守様、この後お時間はございますか?」
「えっと、特に用事はないので大丈夫ですけど」
「では、一度生徒会室にお越し頂けませんか?」
「え?生徒会室に?」
生徒会室に呼ばれるなんて、何かしてしまったのだろうか?
「生徒会長、優くんに何の用でしょうか?」
僕の不安を読み取ったのかサキちゃんが有栖川さんに聞いてくれた。
「実は生徒会の役員に会って頂きたいのです」
「他の生徒会の人に?」
「はい、生徒会の役員は運営に回るためオリエンテーリングには参加できません、ですのでせめて小守様に労って頂けないかと………」
なるほどそういう事か。
「だって優くん、どうする?」
「うん、良いと思う」
参加できないのは可哀想だし、頑張ってくれてるなら、お礼もしたい。
「よ、よろしいのですか!?ああ、何と嬉しい……」
うん、ちょっと後悔、何か有栖川さんちょっと恐いんだよね。
「で、では、早速生徒会室にご案内致します!」
そう言って有栖川さんに連れられ生徒会室に向かった。因みにサキちゃんは風紀委員の方に用が有るらしく、一旦別れた。
「生徒会って何人で運営してるんですか?」
「わたくし含めて五人です」
五人?それは一般的なのかな?
「とはいえ、さすがに五人だけでは難しいものが有りますから、よく助っ人を呼んでいますけど……」
あ、やっぱり辛いんだ。
「僕も良ければ手伝いますよ」
「よ、よろしいのですか!?」
すごい食い付き。
「は、はい、僕で手伝える事なら……」
「そ、そうですね、………小守様には椅子に座って頂いて、時折こちらに微笑みかけてくだされば………」
それ手伝いって言いますか?
「あの、できればもっとちゃんと手伝いになる事を………」
「いえ、いいえ!小守様がそこに居るだけで、同じ空間に居るだけで百人力ですわ!」
目が本気なのが恐い、困惑していると。
「何をアホ言うとんねんエリナ?」
呆れた顔をした女子が立っていた、少し茶髪のショートカット、活発そうに見える容姿、何より。
「ほら、困ってるやろ、離れや」
関西弁?の言葉使い、何となく親しみ安さを感じる雰囲気だった。
「あら、渚、どうしてここに?」
「はぁ?ボケとんのかい?生徒会室の前で騒いどるから中まで聞こえてん」
いつの間に生徒会室の前まで着いていたらしい。
「ホホホ、わたくしとしたことが正気を失っていたみたいね」
口に手を当て笑っていたが、本当に正気を失っていたのでこちらは笑えない。
「ほら、中でみんな待ってんで」
「小守様こちらへ」
促されるまま中に入ると、三人の女生徒が待っていた。
「本当に来ました」
「ええ、驚いたわ」
「えっと、えっと、どうすれば?」
驚いている三人を他所に有栖川さんが手を叩く。
パンパン。
「はい、皆さんお静かに、小守様に自己紹介を」
『はい!』
一息に場の空気を凛としたものにする、さすが生徒会長メリハリがすごい。
「まずはわたくしから、改めまして天空学園生徒会、会長の有栖川 エリナです」
「同じく副会長
「会計担当の
「書記の
「あ、あの、庶務の
「あ、小守 優です、よろしく」
………自己紹介を受けた印象は、何と言うか、バラエティーに富んだ生徒会だった。
会長の有栖川さんはお嬢様、副会長の南波さんは関西人、会計の引間さんはメガネ美人、書記の名取さんはクール系、庶務の小塚さんは小動物。
「何かすごいですね」
「そうですか?」
何がの部分は隠し言うと、有栖川さんはきょとんと首を傾げていた。
「えっと、皆さんこれからお世話になる事が有ると思います、その際はよろしくお願いします」
『はい!』
その後は軽く挨拶程度の話をして、まだ、仕事が有るらしいので今日の所は帰った。
帰り際いつでも遊びに来て良いと言われたので、近いうちに伺おうと思う。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
サキちゃんと合流し、寮に帰り夕食の時間。
「へぇ、生徒会と、優くんも隅に置けないね」
「ただ、挨拶をしただけだよ?」
翼くんと夕食を食べながら話をした。
「少しずつだけど、交友関係が広がり始めたね、良いことだよ」
「うん、でも……」
「でも?」
「……夢みたいで、いつか覚めるんじゃないかって怖くなるんだ」
去年までと比べ、色々な人が笑顔で話してくれる、それがとてつもなく怖い。
いつか元に戻ってしまうのではないかと。
「……大丈夫少なくとも、僕や小南さんはキミを守り続けるよ」
「うん、ありがとう」
新しい日常、その大切さを噛み締めながら一日を終えた。
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